軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74 アンナ視点

──生きている?

確かに自分目掛けてトラックが迫ってきた覚えがある。

でも、今目を開けているってことは死なずには済んだという事なのか。

って事はここは病院?

起き上がって室内を見ると、どう見ても病院ではない。

私の部屋より大きい部屋は、可愛らしい小物や淡い色が多い、どう見ても女の子の部屋って感じ⋯⋯よね。

その時、サラッと流れるピンク色の髪の毛が私の視界に入った。

ハッとして、その髪を掴む。

「痛っ」

強く引っ張りすぎたのか、痛みに思わず声が漏れてしまう。

ちょっと待って⋯⋯ピンク?

日本人ではあり得ない髪色に、一気に眠気が何処かへと吹き飛んだ。

どう言うこと⋯⋯?

部屋の中に姿見鏡を見つけ、ヨロヨロと動きながらその前へと行く。

そして恐る恐る鏡を覗くと。

「うそ⋯⋯」

鏡の中に居たのは、黒髪の少女ではなかった。

肩下のふわっとしたピンク髪にパッチリした目の少女が、目を見開き驚きに染まった表情をしていた。

私は呆然としたまま、暫くその場に座り込み動く事が出来なかった。

そして、その後現れた侍女と私の母だと言う人に無理やり、知らない学校の制服に着替えさせられる。

⋯⋯何故?

「アンナ、あなたさっきからどうしたの?

入学式なのだから、しっかりなさいね」

この私と同じピンクの髪をした女性、この人が部屋に入ってきて『誰!?』と聞いたら、呆れた様に溜息を吐かれた。

『母親に誰なんて、朝から冗談はやめて頂戴』と言われてしまった。

でも、アンナ?

アンナと呼んでいた⋯⋯。

その時、ハッともう一度鏡の中の少女を見る。

これ、見覚えがある。

直前までやっていたゲームのヒロイン?

そう、アンナ・キャロル。

ってことは⋯⋯ここはゲームの世界って事?

いやいや、まさか。

ゲームの世界なんて、あり得る訳無いじゃん。

じゃあ、これは夢?

そう言えば、この間見た映画。

確か、意識不明の間に長い夢を見てたって話。

もしかして私はその状況って事?

本当の私は、きっと意識不明で病院にいるのかもしれない。

どうしよう。

お母さんもお父さんも心配してるよね。

メグだって。結構泣き虫だから大泣きしてるかも。

それに、誠くん。

目の前で私がトラックに轢かれたんだから、優しい誠くんは自分を責めてるかもしれない。

早く、早く帰らないと。

誠くんに会って、心配かけてごめんって言わなきゃ。

どうしたら、どうしたら戻れるのだろう。

早く起きないと⋯⋯。

心臓が嫌に激しく動き、落ち着かない気持ちからジッとする事が出来ず、室内をソワソワ彷徨いてしまう。

衝撃を与えたらいいのかと思い、頭を思いっきりぶつけてみたりしてみたが効果は無い。

それどころかアンナの両親が心配して入学式を休むかと言い始めた。

待って⋯⋯入学式。

それってゲームのスタートと一緒だ。

という事はやっぱり⋯⋯やっぱりゲームに入っちゃったって事?

あり得ない事だとは思うけど、夢だと考えたらあり得なくなくもない?

もう何がなんだか分かんない。

焦燥感に涙が溢れてきて視界が歪む。

でも、どうにかしないといけない。

でも、ここが夢でゲームに入ったとして、どうすれば帰れるのか。

⋯⋯ゲーム、ゲーム。

もしかしたら、エンディングを迎えたらこのゲームは終わる?

でもそれだと、クリアするまで戻れないって事?

落ち着け、落ち着くんだ。

思わず握り締めた拳を開いて見ると、爪の痕がくっきりと残り僅かに内出血している。

じゃあ、どのルートを攻略すれば元に戻れる?

このゲームに逆ハールートは無い。

隠しキャラも他のキャラを全員攻略後じゃないと攻略出来ないから選択肢から外そう。

そう言えば、メグが確か⋯⋯。

『この王子様ルートだけエンディングの結婚式に精霊王が来てくれるんだよー。

それでお祝いとして、ヒロインに祝福を送ってくれるの。

もちろんヒロインは《国の平和》を祈るんだけどね』

これだ!

精霊王⋯⋯確か、二年生で加護を貰って聖女になる。それで親密度を上げていると、光の魔術を使えるようになって⋯⋯。

私はあと一歩でエンディングだったから、結婚式のシーンはまだ見ていない。

でもそれまでのイベントは全部見ているし、唯一攻略していない隠しキャラの情報だって、メグがネタバレしてくれていたから知っている。

クリア⋯⋯。

クリアしたら、帰れる⋯⋯よね?

ううん、帰れるよ。

だって、ここはゲームだもん。

こんな、こんな異常な事、夢じゃなきゃ考えられないじゃん。

震える足を一歩踏み出して、私はアンナとして演じるんだ。

それで帰るんだ⋯⋯誠くんの所に。

そう思ってたのに。

何で⋯⋯何で全然上手くいかないの!

王太子は私に興味無いし、悪役令嬢はようやく二年生から学校に来たと思ったら仕事しないし。

もしかしたら、この人も夢の中に入っちゃった人かな、って思ったけど。

カフェで話をさり気無く聞いたら、やっぱりゲームのキャラクターのようだし。

それどころか、仲の良い友人関係を見て、メグを思い出して寂しくなった。私もよく学校帰りに、カラオケ行ったり、カフェ行ったり⋯⋯。

楽しかったな。

つい時間を忘れてお喋りしたりして。

⋯⋯駄目駄目、もう一度帰ったら私だって、また女子高生してメグと遊ぶんだから。

やっぱり夢の中だから、ゲームとはちょっと違った展開になるのかもしれないよね。

それにしても、あの悪役令嬢。

悪い子じゃないんだよね⋯⋯。どうせならゲームみたいに、嫌な子だったら良かった。

王太子とも仲良さそうだし。

⋯⋯これじゃあ、私が悪役じゃん。

仲良い恋人を引き裂く真似、夢とは言え何でやらなきゃいけないのよ。

だっ、駄目。

このゲーム世界に感情移入なんてしちゃ駄目だ!

みんなキャラクター、全部ゲーム!

こんな事考えてたら、帰れないじゃん。

クリアしなかったら、私が起きなかったら、本当の体は死んじゃうかもしれないのに。

嫌、嫌。

自分がどんなに嫌な人間に成り下がっても、誠くんに嫌われても、それでも嫌なんだ。

もう誠くんに会えないのも。

メグとお喋り出来ないのも。

両親と⋯⋯あれ、両親?

あれ、お母さんってどんな顔?

お父さん⋯⋯あれ?

そう、お父さんは私が小さい時に公園に一緒に行って、帰りの馬車で⋯⋯。

え? 帰りの馬車?

違う。これは《お父さん》との思い出じゃない。

《お父様》との思い出⋯⋯。

え?

何でそんな⋯⋯。

ゲームでは語られてない思い出を何で私が知ってるの?

私の名前は、杏。苗字は⋯⋯。

え? 何で。

何で何で何で。

嘘、思い出せない⋯⋯。

この世界に来てからあえて、アンナの両親とは距離を置いてきた。だから学園の寮にだって入った。

それなのに、何でアンナの記憶を次から次に思い出していくの。

ここは⋯⋯ゲーム、でしょ?

そうじゃなかったら⋯⋯。

そうじゃなかったら、私は⋯⋯。

ねぇ。

誠くん、誠くん。

怖いよ。

いつもみたいに『どうした、杏』って言ってほしいよ。

頭を優しく撫でてほしいよ。

もう誠くんの彼女になりたい。お嫁さんになりたい、なんて無理を言わないから。

誠くんに好きな人が出来たら⋯⋯身を引き裂かれるぐらいに嫌だけど。

でも、誠くんの幸せを誰よりも祝うから。

神様。

ゲームだと思ってごめんなさい。

みんなを傷つけてごめんなさい。

もう私の命だって望まない。

行く末が天国じゃなくても良い⋯⋯。

だから、お願い。

お願い神様。

私から誠くんの思い出を奪わないで。

誠くんを消さないで。

もう一度、もう一度だけで良いから。

お別れの言葉だけでも良い。

だから、だから⋯⋯。

「⋯⋯誠くん、会いたいよ」