軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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迎えに来た殿下と共に学園内を順に巡っていった。

食堂、図書館、資料室、魔術練習棟など案内された場所は、もちろん私にとっては慣れ親しんだ場所だ。

特にこの学園の図書館は教室棟から離れた一つの独立した建物だ。

その為、広さは勿論のこと三階建ての壁一面に本が並んでいる姿は圧巻である。

この場所、よく来ていたな。

懐かしさに思わずじんわりと胸の奥が熱くなり、無言になってしまう。

殿下は私のそんな様子に、この場所を気に入ったようだと捉えたようで「これから来る機会も沢山あるだろう。またゆっくりと見ていくといいよ」と優しい顔で微笑んだ。

「疲れた?」

最後に屋上庭園へと案内してくれた殿下が、私の顔を心配そうに覗き込んだ。

「いえ、大丈夫です」と首を横に振りながら答えるが、殿下は未だ心配そうにベンチに座るように促された。その申し出に素直に従い座ると、殿下も私の隣に腰掛けた。

「この屋上庭園は、風が吹き抜けて気持ちがいいからね。入学した時から気に入ってるんだ」

「そうなのですか?」

「あぁ。それに人があまりいない穴場だからね。

疲れた時とか一人になりたい時には丁度良い」

⋯⋯初めて聞いた。

定期的なお茶会は全て王宮へと訪問していた為、婚約者とは言え、前回の学園では殿下と会う機会があまり無かった。

学年は違うし、私は生徒会にも入っていなかったし、それに学園中を探してもあまりばったり会うといった機会は少なかったように思う。

常に人から見られている立場の殿下にとって、一人で過ごすこの場所はとても大事な時間なのだろう。

この屋上庭園は、通常生徒が使用しない研究棟の屋上にある。そして、どちらかと言うと生徒にはバラ園や中庭などの方が人気が高いため、わざわざここに足を伸ばす人はそんなにはいない。

だからこその穴場なのだろう。

でもその穴場を私に話してしまっていいのかしら。

「秘密の場所だったのでは?」

「あぁ、そうだよ。シリルも知らない私のサボり場だよ」

「殿下がサボる⋯⋯イメージがないですね」

ははっ、と笑い声を溢した殿下は「私も人の子だからね。一人になりたい時もある」と楽しそうに私を見つめながら言った。

そうよね。

殿下はいつだってスマートで仕事をキチンとこなしている。

でも、殿下だって当たり前のように疲れる時だってあるし、一人になりたい時だってあるのだろう。

特に、常に注目を浴び、周りから期待されている殿下の重圧は大きいものなのではないだろうか。

そんな殿下の息抜きとして、この場所は密かに大切にしているのか。

「だからさ、ラシェルも一人になりたい時とか、疲れた時にここを使うといいよ」

「いいのですか?」

「ここは誰が使ってもいい場所だ。

それに、たまたま息抜きしに来た時にラシェルがいたら私も嬉しい」

「え?」

「⋯⋯ここを勧めておけば、ラシェルも来てくれるかなって」

「いいのですか?」

「勿論、一緒に過ごせる場所が欲しいという下心も含まれているからね」

殿下は穏やかな微笑みで私をじっと見つめた。

私は殿下の言葉に自然と口角が上がるのを感じる。

殿下の好きな場所を教えてもらえる。

知らなかったことを知ることが出来る。

何だか嬉しい。

ところが殿下がある一点を見つめて急に眉をしかめる。

何かあったのだろうか、と殿下の視線を追う。

するとそこには。

「エルネスト⋯⋯」

従兄弟のエルネストが屋上庭園のドアを開けながら入ってくる様子が見える。

あら、誰かと一緒なのかしら。

エルネストは後ろを向きながら、誰かと会話をしているようだ。

でも誰と一緒なのかはドアが影になり見ることは出来ない。

「誰かと一緒にいるのでしょうか」

「あぁ、ラシェルの所からは丁度見えないのか」

「はい。エルネストは見えるのですが⋯⋯」

「あまり気にしなくていいよ」

殿下は僅かに苦笑いをしながら、「見つかると面倒だから向こうのドアから出ようか」と言うとベンチから腰を上げる。

⋯⋯面倒?

エルネストに会うと面倒なことがあるのだろうか。

殿下とエルネストは将来の側近候補として昔から親しくしていたように思うけど。

殿下の言葉に首を傾げながらも、私も立ち上がる。すると殿下は出口の方へと向かった為、私も後ろからついていく。

「殿下!」

背を向けた後ろから、鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえてくる。

その声に思わず振り向くと、ピンク色の髪の女の子が足早に近づいてくるのが見える。

あっ、あの方は!

チラッと殿下の様子を覗き見ると、殿下は一瞬でいつもの義務的な微笑みを顔に付ける。

それに私は思わず驚いてしまう。

殿下の様子に気を取られていると、女生徒が殿下の前に立ち「会えて嬉しいです!」とニコニコと可愛らしい笑顔で声をかけている。

遅れて、エルネストが彼女の後ろからやってくると、私に向き合うように立つ。

「ラシェル、久しぶり。

元気そうになって良かった」

「えぇ、エルネストにも心配をかけてごめんなさい」

「いや、君がこうしてまた学園に通えるようになって良かった。伯父上からもくれぐれも宜しくと頼まれているからな」

「あら、お父様ったら」

「何か困ったことがあったらいつでも言うんだぞ」

エルネストは騎士を目指しているだけあって、日々鍛錬をしている事が分かる引き締まった体型をしている。

その大きな体を少し丸めて私に視線を合わせると、私の頭を軽く撫でた。「子供じゃないんだから」と思わず抗議すると、エルネストはカラッとした笑い声をあげた。

いつでも頼りになる兄のようで、誰にでも面倒見が良い。ただ、お父様が言うには『あいつは弟に似て脳筋だからな』だそうだ。

「いくら従兄妹同士とは言え、頭を撫でるのはどうなのかな?」

和やかな雰囲気にピシッと冷気が流れ込むような厳しい声が聞こえる。

「殿下、これは失礼しました。⋯⋯つい」

「つい⋯⋯癖でやってしまう程よく撫でているのか?」

「いえいえ! 幼い頃の話で」

「ふーん、そう。

でも、もう幼くないからやらなくていいよね」

殿下はいつもの倍もいい笑顔で微笑みながら、私の肩に腕を回す。

エルネストは殿下の様子に驚いたように口をポカン、と開けて「シリルが言っていた通りなのか⋯⋯」と小さく呟いた。

シリルって聞こえた?

何をエルネストに伝えたのかしら⋯⋯。

すると、視界の先でエルネストの裾をちょんちょんと引っ張る手が見える。

エルネストがそれに気付いて隣へと視線を動かすと、隣にいた女生徒に気づいたように慌てて声を掛けている。

「ごめん! 俺たちだけで話し込んで⋯⋯。

殿下は知ってるよね。

こっちは俺の従姉妹で今日から君と同じ二年生に編入してきたんだ」

エルネストが私のことを紹介していると、女生徒は一歩私の方へと近づき、手を自分の胸の前で組んだ。

「あのっ、初めまして⋯⋯ですよね?」

私の方をじっと見つめる瞳と目が合う。

同時にコテン、と首を傾げることでピンクのふわっとした髪が揺れた。

私が女性としては高身長であり、彼女は小柄な為に私を見つめる大きな瞳は自然と上目遣いになっている。

そしてオドオドとした姿はどこか小動物を思わせる。

思ったよりも早い彼女との出会いに、私は内心ドキドキが止まらなかった。