軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18

「何故、猫が」

私が混乱して目が回りそうになるのを他所に、この猫もといクロはぐぅー、と伸びをしながらあくびをしている。

じぃっとクロを見つめると、クロもこちらを見た。

身体も瞳も真っ黒のクロは、その大きなクリクリの目をジッと向ける。

か、可愛い

何、この可愛い生き物は

えっ、猫ってこんなにも可愛いの?

私はどちらかというと犬派だった。

もちろん、以前の精霊が犬だったから。

姿を見つけると、空を駆けるように走り、尻尾をはち切れんばかりに振る姿にとても癒されていた。

でも、猫はまた違う可愛さがある。

さっきまでこちらを見ていた視線は、今はもう飽きたとばかりにツンと背けている。だが、そうかと言えば膝の上で大人しく座っている。

尻尾は真っ直ぐ上に伸びており、ゆっくりとユラユラと揺らしている。

それもまた、何とも言えない可愛さがある。

この気持ちはなんて表せばいいの!

思わず身悶える私を他所に、テオドール様は僅かに首を傾げる。

「えっ、だから精霊だよ。この間来た時からずっと側にいたから不思議だったんだよね」

「ずっと側に?」

「そうなんだよね。寝ているラシェル嬢の脇でずっと顔を覗き込んでたよ」

「まぁ!」

想像するだけでなんて可愛らしいの!

でも、この可愛い猫ちゃんはいつから側にいたのかしら。

「それにしても、何故ここに精霊が?」

「うんうん」

「だって精霊は召喚の儀でしか現れないはず」

「普通はね」

「それに精霊王以外の精霊は、人と契約するまでその姿を見ることは出来ないですよね」

「そうだね」

「でも、テオドール様はこの猫が見えていたのでしょう?」

私の言葉に首だけを軽く縦に振りながら、適当に相槌を打っているのがわかる。

だが、続く質問にテオドール様は、テーブルに肘をつき手の上に顎を乗せニヤリと不適な笑みを溢す。

「気づいちゃった?」

「普通誰でも気付きます!」

テオドール様は少し視線を彷徨わせ、頭を指で掻きながら「まぁ、言ってもいいか」とボソリと呟いた。

「これはさ、あんまり広めたくない話なんだけど。

俺さ、精霊とか他人のオーラとか見えるんだよね」

精霊が見える?

通常、精霊を見るには魔力の高さが大きく関わっている。魔法学園でも学年で5人程しか見ることは出来ないだろう。

つまりは、ほとんどの人は精霊と契約することは出来ないのだ。

また、人と契約していない精霊は通常その姿を見ることが出来ない。

精霊が人を契約者として認めると、まずその契約者にだけ姿を確認することが出来る。そして、名を与えることで精霊と人の世界に繋がりが出来、他者にも認識できるようになる。

契約していない精霊を見るなんてことは、本当に可能なのだろうか。

確かにかつての聖女は精霊王の加護を受けていたから、契約精霊以外の精霊も見ることが出来たと言われていた。

私が不思議そうにテオドール様とクロを見ていたものだから、テオドール様は口元を上げる。

そして、先程の言葉に付け加えるように

「俺、一応は前の聖女の血が入っているからね。先祖返りでもしたんじゃない?」

「先祖返り?」

想像もつかない話に思わず目を丸くしてしまう。

いや、でもあり得る話かもしれない。

前の聖女は王族に嫁いでいる。そして、カミュ侯爵家は何代も前に王女が降嫁しているはずだ。

「そんな事が」

「うん、この300年で王族でもそんな力ある人過去に二人しかいないって」

「二人とは!とても凄いことではないですか」

先程からテオドールは軽く何でもないことのように話している。だが、その話す内容はとても信じられないようなことである。故に、何度も驚き過ぎて、頭の中がこんがらがりそうだ。

それに、今まで自分が魔力が高くて特別だと思っていたのは何なのだろう。

目の前にいるのは、本当の意味での特別な人だ。

本物に特別な人は、その力をひけらかす事なんてしないのね。

凄い、凄いわ!

流石、国一番と言われているカミュ侯爵を上回ると言われるはずだ。

思わずテオドール様に尊敬の念を抱いてしまう。

「うーん。でも、俺もさすがに召喚の儀以外で精霊が懐いてるのは初めて見たわ」

確かに、召喚の儀以外で精霊に出会うなど考えもつかない。

基本的に精霊は、自分の住処である森から出る事がない。

召喚の儀で初めて森から出る精霊がほとんどだ。

そう、この黒猫

この子は何故私のところにいるのだろう。

普通、精霊は契約相手の魔力の高さや質を気に入る。

だが、私にはそもそも精霊が好むような魔力は存在しない。

「まぁ、とは言っても俺も契約していない精霊は少しぼやけるけどな。でも、今ハッキリと見える。

これは、闇の低位精霊だな」

は?今テオドール様は何と言った?

闇と言わなかっただろうか。

いやいや、まさか。

えっ?闇?

思わずクロを二度見してしまう。それに気づいたのかクロも私の方を見上げる。

大きなお目々からは《何?》とでも言いたげな表情をしてる。かもしれない。

しないでもない。

「えっ、闇? そんなはずは」

「俺も闇の精霊なんて御伽話みたいな存在だと思ってたよ。

闇の魔術が存在するというのは、光があるのだからあるかもーぐらいの仮説だからな。魔術団の持ってる文献を遡っても創作の物語としてしか残っていない」

テオドール様は椅子を立ち、私の横にしゃがみ込むとクロをまじまじと覗き見る。

そして、クロの体に手を乗せる。優しげな顔つきでクロの体を撫でると、クロも嬉しそうに手に体を寄せて目を細めながら喉をゴロゴロ鳴らせる。

挙句にお腹まで見せ始めて「ニャー」と鳴き、撫でてくれとポーズしている。

テオドール様に懐くのはやっ!

えっ、あなた私と契約したのよね?

まさか、テオドール様と間違えたの!?

「俺さ、精霊にかなり好かれる体質でさ」

「あぁ、なんかもう驚きません」

「でも、俺も闇なんて初めてだから戸惑ってるんだよ?」

全く戸惑って見えない。

むしろ楽しげに瞳を子供のようにキラキラさせているし。

テオドール様がクロから手を離して席へと戻ると、クロは身体を起こして不満気な様子だ。

私も恐る恐るクロへと手を伸ばして、優しく撫でる。

うわ、毛が艶やかでとっても気持ちいい。

その毛並みを堪能していると、クロは撫で方に不満だったのか身体を捩り前足で私の手を押した。

そして、また私の膝で丸くなって座ると目を閉じた。

そんな。

さっきはテオドール様にあんなに気持ちよさそうにしてたのに。

思わず肩を落とす私に、テオドール様は面白そうに「はは」と笑った。

「それにしても、この子は何故私のところに来たのでしょう」

「それは俺には全く知りようがないことだ。いつから側にいたのか、何故森から離れたのか。

闇の精霊についてはほぼ何も分かっていない」

「そうなのですね」

「でもさ、良かったじゃん」

「え?」

「だってさ、低位だけど精霊と契約出来たんだから。力借りられるんじゃん」

「へ?」

「魔力、貸してもらえるよ?」

あまりに色んなことに驚き過ぎて、根本的な精霊と契約するメリットを忘れていた!