軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「久しぶりだね、ラシェル嬢」

「ご無沙汰しております。テオドール様」

あの手紙から数日、体調も安定した私は今日応接間にテオドール様を迎えていた。

殿下とテオドール様でどのような話がされたかは分からないが、殿下も今日のテオドール様の訪問は了承している。

今日殿下も来る予定で調整していたそうだが、多忙の為来ることは叶わなかった。

テオドール様は長い銀髪を黒い紐で一つにまとめ、黒のローブを纏っている。

スラリとした長身と甘い顔立ちに、殿下と二人で並ぶと、いつも女性たちの視線は全てその二人へと注がれていた。

こんなに女性から熱視線を浴びているのに、未だ婚約者も持たないらしい。

どうやら、弟さんもいることからそこまで結婚に拘りをもっていないようだ。

《あいつは変わり者だから》とは殿下の言葉である。

「この間、よく眠れたでしょ?」

「この間?」

「あぁ、俺の顔見ていなかったか。この前来た時、苦しそうだったから強制的に眠りの魔術を掛けたんだ」

テオドール様は目の前に置かれたカップを持ち上げて一口飲むと、ニヤリと悪戯っ子のような顔をする。

確かに寝込んでいた時に一度、急に苦しさがなくなり眠気が強くなった時があった。

あれはこの人の魔法だったのか。

「先日はありがとうございます。わざわざお越しいただききまして」

「いや、ルイの付き添いだからね」

王太子殿下を呼び捨てとは。

いくら親しいといっても大丈夫なのだろうか。

驚いたような顔をしたのに気づいたのか、テオドール様は「あぁ」と納得するように頷く。

「あいつとはプライベートは同等な関係にしているんだ。勿論、他人がいる所ではそんな気軽に話さないよ」

「他人」

えっ、私は他人よね?

「君はさ、俺の勘が大丈夫って言ってる」

「勘?」

「そう、勘。結構そういうのに頼るの大事なこと!

いつも真面目な話ばっかりでかしこまってると疲れちゃうでしょ? 俺もあいつも、それに君も」

「私が疲れる、ですか?」

「あぁ、表面上は出てないけど思い詰めたような硬いオーラしてるよ。

何があったのかなんて知らないけど、もっと肩の力を抜けば?」

「肩の力?」

「そう、もっと楽に生きればいいよ。特別なものを得たり失ったり、そんなの俺たちにはどうしようも無い。

だったらさ、笑って生きようよ」

何を言っているの?

この人は私のことを何も知らない。

何があったか、何をしてしまったのかも知らない。

それなのにこんなに軽く言ってのける。

だが、知らないからこそ言えるのかもしれない。

知らないからこそ、この人には私が気づかない何かが見えるのかも。

それにしても、《笑って生きようよ》か。

確かに過去に囚われ過ぎているのはわかっている。

だが、日々に必死過ぎてそれをどうしようとも思っていなかった。

それにしても軽い言葉だ。

でも、軽いけど重い。

彼の言葉は、氷を溶かす陽だまりみたいだな。

ふとそんなことを思ってしまった。

私がついポカンと気の抜けたような表情になるのも、気にも留めずにテオドール様は今度は目の前のマドレーヌを手に取ると口に放り込んだ。

暫くモグモグと咀嚼し紅茶で一息つく。そして、ようやくまた口を開く。

「だってさ特別でしょ、君」

「あの、特別ってどういうことでしょう。王太子殿下の婚約者という意味ですか?」

「まぁ、あいつにあんな顔させるのも特別だよな」

うんうん、とテオドールは揶揄うように笑いながら何度も首を縦に振る。

そして、「それもあるけど違う」と私の膝の上を指す。

「そこの猫、君のだろ?」

は?猫?

思わず指を指された膝の上を見る。が、何もいない。

いつものように私のワンピースの生地と置かれた自分の手があるだけだ。

「あれ?見えない?」

「えっと、何かありますか?」

「あっ、そっか!魔力がないのか。名前つければ見えるか」

「名前?」

「そうそう。忘れてたよ。

君さ、黒猫が膝の上にいます。さて、なんと名付ける?」

はい?黒猫?

黒猫

クロネコ

クロ?

「クロ」

「クロ!そのまんま!」

私の答えにテオドール様は思わず吹き出す。ツボに入ったようで手のひらで顔を覆って、何度も「クロ、クロ!」と自分の太腿を手で叩いて爆笑している。

しかも、側で控えていたサラも顔を背けながらも肩を震わせている。

仕方ないじゃない、急にそんなことを聞かれても。

思わずそんなに笑わなくてもいいのに、と頬を膨らませそうになる。

「いやー、精霊にクロなんて名付けるとはね。どこの飼い猫だよ」

ん?

は?

精霊?

「あれ、もう見えるでしょ。膝の上」

テオドール様の言っていることに疑問が浮かびながら、私は首を動かして下を見ると

そこには、確かに黒猫が

『ニャー』

膝の上でゴロゴロ寝転びながら、鳴いた。

えっ、君どこから来たの?