軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2‐1 ?視点

鏡の前に立ち、頬にかかる髪を撫で上げながら、自然とため息が漏れる。

――この舞踏会に参加する為に隣国までわざわざ出向いたというのに。すぐに国に帰らなければいけないのだから、本当に面倒臭い。

「準備できましたか?」

「あぁ、問題ない」

ノックの音に振り返ると、そこには国から連れてきた部下であるアドルフォの姿。

「……イサーク殿下、逃げないでくださいね」

「わかっている。本来なら騎士団で稽古したいところを仕方なくここまで来てやったんだ。ちゃんと王族としての役割を果たしてから帰るさ」

《兄上の為にな》という言葉は言わずとも、アドルフォには伝わったようだ。元々社交なんて嫌いだし、剣を振り回している方が性に合っている。だが、これも第三王子の務め、というやつなのだからな。

デュトワ国の舞踏会に招待された時には、はっきり言って気乗りがしなかった。だが、同盟国ではあるし、王族としては招待されたからには誰かしらが行かなければいけない。

だからといって、この大事な時期に国を離れることはしたくはなかったのが本音だ。それでも、兄である第一王子からの直々の指名だ。嫌々ながらも従わない訳にはいかない。

「イサーク殿下、そろそろ参りましょうか」

「あぁ。本当に面倒だな。さっさと叔母上に挨拶だけして早めに辞すか」

「いえ、発表までは待った方が良いかと」

「発表? なぜだ。王太子の婚姻に関してなのだろう?」

ジャケットを羽織りながらドアまで足早に進むが、アドルフォの言葉に引っかかりを覚え、足を止めた。不審に眉を顰め、振り返りながら問いかける。

すると、アドルフォはそんな俺の反応など予想通りだと言わんばかりに、眼鏡を指で直しながらフッと口角を上げた。

「今回の舞踏会はデュトワの王太子の婚姻とは別に、他の発表がされると噂です」

「……どうせあれだろう? 光の聖女を見せびらかすとかだろ?」

――光の聖女。どうやら長兄が手にしようと画策していたようだが、それも失敗に終わったらしいな。……本当に滑稽だな。

国としては、光の聖女は欲しいところではある。なんといっても、デュトワと国を分けてからというもの、我が国では500年聖女が誕生していない。

「500年前、デュトワ王家と袂を分かつきっかけとなったのは聖女だったよな。それもあってか、今回の件で我が国はデュトワに相当警戒されていそうだな」

「秘密裏に聖女に近づいたことがですか?」

「あぁ。如何にもファウスト兄上のしそうなことだ。だが、成功していたら、ファウスト兄上の力は揺るぎないものになっていたと考えると……助かったといえなくもないか」

「何とも判断が難しい問題ですね」

そう、500年前。1つの国で戦いが起こり、国が二分した。その争いの中心に聖女がいたという話は、我が国では有名な話だ。

――だが、あの時聖女が2人いた事実を知る者は、この国にはきっといないのだろうな。

近年同盟を結び、国交が盛んになったとはいえ、隣り合う2つの国の隔たりはあまりに大きい。だからこそ、我が王家の成り立ちや王族の魔力に関する事項は今後も秘密を守り、国外に漏らすつもりは毛頭ない。

考え込む俺を他所に、アドルフォはこちらを見ながら笑みを深めた。

「何だよ、意味深だな」

本当にこいつは騎士よりも向いている職業があったのではないかと思うほど、腹の探り合いが好きな奴だ。

ガシガシと頭を掻こうと頭へ手を運ぶ。だが、先程整えたばかりであることに気付き、はっと手を止めた。

「で、光の聖女じゃないなら何なんだ」

「私の部下が仕入れた情報によると、どうやら王太子の婚約者は精霊王の加護をいただいたとか」

「はぁ!? 精霊王だと!?」

思いもしない言葉に目を見開き、アドルフォの顔を凝視する。

――どういうことだ。確か王太子の婚約者は光の聖女ではなかったはず。

「……婚約者を変えたのか」

「いえ、そうではありません」

「は? なんだよ、もったいぶるな」

含みを持たせた言い方に眉間に皺を寄せる。だがアドルフォは楽しそうに口元に手を当てて肩を揺らせた。

「さすがの貴方も驚くでしょうね。なんと王太子の婚約者、ラシェル・マルセル侯爵令嬢は……闇の聖女です」

――何だと!? 闇の聖女。

驚愕に目を見張ったままピシリと体が固まる。

「それは、それは……本当なのか」

「はい。本日の舞踏会でそれを発表するつもりかと。近隣国を数多招待しているのも、それを大々的に広める為かと」

「信じられないな。まさか」

まさか、我が国ではなく……隣国に闇の精霊王の加護を授かる者が現れるだなんて。

「……闇が、デュトワに加護を与えた、か。一体どういうことだろうな」

「殿下、どうなさるおつもりで」

「一刻も早く兄上に伝えねば……いや、もしかしたら情報を掴んでいる可能性もあるな。いや……だから俺なのか?」

アドルフォに問い返された言葉に返答する余裕もなく、自分の頭を整理すべく眉間に指をあてる。

さてどうしたものか。様々な策が頭を過ぎるが、そのどれもが有効だとは思えず頭を悩ます。

だが、それでも舞踏会前にこの情報を知ることができたことは良かった。今日のつまらないと感じていた舞踏会に、参加する目的ができたのだからな。

「まだ整理はつかないが……どうやら、これはこれで使えそうだな」

「そう仰るかと思っておりました」

アドルフォに視線で合図すると、アドルフォは一瞬で俺の意図を理解したようだ。

本当にこの部下は察しがいい。恭しく胸に手を置き「仰せのままに」と頭を下げ、部屋のドアを開けた。

「今日の舞踏会、楽しみになってきたな」

――ラシェル・マルセル、か。どのような人物なのだろう。俄然興味が湧いてきたな。