軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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煌びやかなシャンデリアの下、華やかなドレスが舞い踊る。

華麗な音楽に合わせてふわりと揺れる、キラキラと光る金髪を見つめながら、私は心の底から今この時間を楽しんでいた。

「疲れた? 開始から3曲連続だからね。少し休もうか」

「えぇ、そうですね」

曲が終わると、殿下は私をダンスフロアから連れ出し、給仕からシャンパンのグラスを2つ貰い、1つを私へ差し出した。

殿下にお礼を伝えながら、グラスに口をつける。シュワっと冷たい泡が口の中で弾けながら、喉を伝わる。それが火照った体にとても心地いい。

「今日の舞踏会は、いつにも増して華やかですね」

「あぁ。国内だけでなく、国外からも多く招待しているからね。あとで一緒に挨拶に回ろう」

「えぇ」

今日は、私にとって大事な日。特別な王宮舞踏会だ。

なんといっても、殿下との結婚式をあげる日が正式に決定し、それを発表するからだ。また、それに合わせて私が闇の精霊王から加護を頂いたことも。

「王太子殿下、本日はご招待ありがとうございます」

「王太子殿下、ラシェル様、婚姻の日取りが決まったそうで、本当におめでとうございます。この国の更なる安寧のため、私も微力ながら尽力していきたいと思っております」

その声に振り向くと、そこには大神官と共に祝いの言葉を述べるアンナさんの姿。アンナさんはクリーム色の清楚なドレスを纏っていた。リボンやフリルもなく、シンプルなドレスであるにも関わらず、内面から醸し出た美しさで光り輝いている。

――アンナさん。

1度目のアンナ・キャロルのような慈愛に満ちた雰囲気だけでなく、明るく活発な雰囲気も併せ持った今のアンナさん。きっと、前世の杏さんの性格も合わさっているからなのだろう。

殿下が大神官様と会話をしているため、私はアンナさんと顔を向き合わせた。

こうして向き合うと、今までのいざこざも全て楽しい思い出のようだとさえ思えてくる。

私が時を遡ったように、彼女も前世を思い出した。そんな普通でないことを経験した私たちは、何度も遠回りをして、ようやくここまで来た。

何度も泣いて、苦しんで。

――大切なものを手にすることができた。

「ありがとうございます。友人であるアンナさんが今日ここにいてくれること、私もとても心強いわ」

「ラシェルさん……あの……」

「えぇ、あなたは私のかけがえのない大切な友人よ」

「あ、ありがとうございます。わ、私もラシェルさんの幸せをずっとずっと願っています」

いつかアンナさんが『本当の意味で友達になりたい』と言っていた。でも、私たちはもう友人。それよりもっと……。この2年半という月日を必死に戦ってきた仲間、という感じかしら。

いつか笑い合えればいいとそう思っていたけど、思った以上に早く笑いあえる機会が来たこと。本当に嬉しく思っている。

大神官様とアンナさんがその場から離れると、見計らったように、

「今日はまた一段と綺麗だな」

と聞きなれた声がして、思わず頬が綻ぶ。隣に立つ殿下の纏う空気もぐっと和らいだ。

「これもルイがデザインした、なんて訳じゃないよな?」

そこには、軽口をたたきながらニヤリと口角を上げるテオドール様の姿。

「お前にはもうドレスの相談はしないから安心しろ」

「そう? まぁ相談されてもよくわかんないから別にいいけど」

むっとした殿下に、可笑しそうに笑うテオドール様。いつもの光景にほっと息を吐く。

2人のこの空気からはいつだって深い信頼で結ばれている事が伝わってきて、本当に素敵だと思う。

――テオドール様。

私が時を遡ることができたのは、きっと彼のお陰なのだろう。

あの森で見た過去。テオドール様が影から守っていてくれたからこそ、今私はここにいることができている。

「でも、今日のお前たちは本当によく似合ってるよ」

目を細めて眩しそうに見るテオドール様。

楽しいことが好きで、自由が好きで、つかみどころのない人。だけど、誰よりも周囲を見て、時に厳しく、時に優しく私の背中を押してくれる。きっと殿下にとっても、そんな相手なのではないだろうか、と思う。

道がなければ作ればいい。そんな風に固い壁をいとも容易く壊すテオドール様にどれほど助けられたことだろうか。

「テオドール様、あの……本当にありがとうございます」

沢山の想いを込めて伝えた感謝の言葉。

テオドール様は、一瞬虚をつかれたように目を見開く。だが、すぐにふわりと優しい笑みを浮かべ、私の耳元にそっと顔を寄せた。

「あぁ、きっと幸せになれるよ。……俺の小さなお姫様」

「え?」

どういう意味だろうか、とテオドール様へと視線で問いかけるが、テオドール様は笑みを深めただけ。それ以上は何も言わずに、さっと私の側から顔を離した。

「おい、今何言ったんだよ」

「秘密」

焦れたように問いただす殿下をひらりとかわしながら、テオドール様は「じゃ、また後で」とグラスを掲げながら、すっと踵を返した。

まるで一陣の風が吹き抜けたあとの静寂のよう。私は、テオドール様があっさりと去っていくのをポカンとした顔で見送った。

「まったく、相変わらずだな」

「えぇ、でもそこがテオドール様らしいです」

私の言葉に、殿下は「それもそうだな」と、くしゃりと破顔した。

こんな殿下の楽しそうな笑みを見ることにも随分慣れたように思う。それに、最近の殿下は私に色んな顔を見せてくれる。不機嫌そうな顔、すねた顔、寂し気な横顔……それに、甘く熱を感じる表情。

そのどれもが私にとってかけがえのない殿下だ。

「殿下、あの……」

「どうした?」

殿下は私の顔を覗き込みながら優しく微笑む。

「私を妃にと望んでいただきありがとうございます」

15歳で目覚めたあの日から、今まで様々なことがあった。最初は殿下との婚約を解消しようともしていた。でも、殿下が私に何度も根気よく歩み寄ってくれたことで、初めて殿下の内面に触れることができた。私の世界を広げたのは、間違いなく殿下だ。

それに、いつも側で守ってくれたこと、信じて待っていてくれたこと。どれほどの力になっただろう。

きっと、殿下がいなければ私は今ひとりで立つことはできなかった。

「ラシェル、感謝は私の方がしなければならないよ。君がいなければ、今も私は寂しさも、孤独も、嫉妬も……誰かを愛おしいと感じる心も。何も知ることはできなかったのだから。全部ラシェルが私に教えてくれたことだよ」

――殿下。

殿下の甘く蕩ける視線に、私は釘付けになった。と同時に、胸がぽかぽかと温かい気持ちでいっぱいになる。

更に笑みを深めた殿下の表情は、とても柔らかく穏やかで、自然と私まで笑顔になる。

「ありがとう、ラシェル」

「これからもずっと側にいてくださいね。……ルイ様」

自然と口から出た。ずっと呼んでみたいと思っていたけど、恥ずかしくて言えなかった殿下の名前。

「え? ラシェル……今、何て……」

殿下は鳩が豆鉄砲を食らったようにきょとん、とした顔で私を見つめた。だが、ジワジワと顔に赤みが差し、更には耳まで赤く染めながら、キラキラと輝く瞳で私を見つめた。

――こんなにも喜んでくれるのなら、もっと早く呼べばよかったのかもしれない。

でも、私も今だからこそようやく殿下のお名前を呼べるようになったのかもしれない。

私もまた恥ずかしさで俯きそうになるのを必死にこらえ、微笑みを向ける。

「も、もう一度……」

殿下の若干掠れた言葉は、最後まで私の耳に届くことはなかった。

なぜなら、その時「殿下、ラシェル様」と私たちを呼ぶ声が遮ったからだ。

呼ばれた方へと顔を向けると、そこには正装姿のシリルの姿。

「殿下、ラシェル様そろそろお時間です。さ、陛下がお待ちですので行きますよ」

シリルは、殿下を一瞥すると、はぁっと大きなため息を漏らし「そういうのは2人っきりの時で、と何度も言っているでしょう」と面倒臭そうに呟いた。

「待て、シリル! 今大事なところで」

「いいえ、待ちません。こちらも大事なところなのですから。さ、殿下」

「本当にタイミングが悪いな」

「いえ。私のタイミングはいつだって完璧です」

殿下……いえ、ルイ様とシリルのやり取りに思わずクスっと笑みを溢す。そんな私をみたルイ様は目を細めて優しく微笑み、私にそっと腕を差し出した。その腕に自分の手を添えると、ルイ様は微かに赤らんだ頬を隠すことなく、笑みを深めた。

「ラシェル、続きはあとで」

「はい」

内緒話をするように顔を寄せたルイ様に、私も頷き返した。

今鏡を見たら、きっと幸せでいっぱいな私が映るのだろう、と思いながら。