軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話

私は、チェーンソーの爆音ではなく、小鳥のさえずりとコーヒーの香りで目覚め――るはずもなかった。

「おいオーナー! 飯はまだか! 杭打ちで腹が減って死にそうだ!」

「……マナさん。朝食はまだか。俺は昨日、森でいい狙撃ポイントを見つけたんだ。早く試射したい」

リビングに降りると、そこには腹を空かせた猛獣が二匹。

ゲンタと 蒼(そう) だ。彼らはまだ気づいていない。

このパーティの財政が、すでに崩壊していることに。

「……二人とも、座って。大事な話があります」

私は重い口調で切り出した。

テーブルの上には、質素な朝食(ご飯、味噌汁、漬物だけ)が並んでいる。

「なんだ? 改まって」

「単刀直入に言います。……資金が底をつきました」

私は通帳アプリの画面を二人に見せた。

そこに表示されている数字は、かつてOL時代に血の滲む思いで貯めた額とは程遠い、小学生のお年玉のような桁数だった。

「ぶふっ!」

味噌汁を飲んでいたゲンタが吹き出した。

「おい! これじゃあセメント一袋も買えねぇじゃねえか! 駄菓子屋に行くのが関の山だぞ!」

「……詰んだな。俺のライフル弾(.308ウィンチェスター)も、一発たりとも買えない」

二人は露骨に絶望した顔を見合わせた。

しかし、私はニヤリと笑った。

「だから、今日は『稼ぎ』に行くわよ。……全員、作業着に着替えて」

「あ? 稼ぐって、日雇いバイトでもすんのか?」

「いいえ。……もっと効率のいい『錬金術』を使うの」

1時間後。

私たちはゲンタの軽トラに乗り込み、埼玉県と東京都の県境にある「産業廃棄物処理場」の直売所に来ていた。

そこは、役目を終えた機械や金属スクラップが山のように積まれた、鉄の墓場だ。

「おいオーナー、こんなゴミ捨て場で何するんだ?」

「宝探しよ。……おじさん、これいくら?」

私は作業服を着た店主に、雨ざらしになっているカゴを指差して聞いた。

中に入っているのは、泥だらけで錆びついた電動工具、動かない発電機、そして液晶が割れた精密機器たちだ。

「ああ? そりゃあ完全なスクラップだ。キロ単価で……全部でこれくらいだな」

店主が提示したのは、ランチ一回分にも満たないような捨て値だった。

「買った」

私は財布から小銭を取り出して払った。

ゲンタと蒼が「正気か?」という顔をする。

「オーナー、騙されてるぞ。そんな鉄屑……」

「見てて。……こっちに来て」

私は人目につかない資材置き場の裏手に二人を連れて行った。

そして、スクラップの山に手をかざす。

システムウィンドウを開く。

これは拠点内の「 建築(クラフト) 」ではない。私自身の魔力を使う、固有スキルだ。

【対象:破損した電動工具・精密機器(損壊率80%)】

【修復コスト:45 MP】

【生活魔法: 修復(リペア) ……実行】

シュァァァ……。

私の掌から淡い光が溢れ出し、錆びついた鉄屑を包み込む。

泥にまみれたドリルが、まるでビデオを巻き戻すように輝きを取り戻す。

こびりついた赤錆は光の粒子となって霧散し、断線したコードは生き物のように結びついていく。

それは科学を超えた、冒涜的ですらある「完全な復元」だった。

わずか10秒。

そこには、箱から出したばかりのような新品同然のインパクトドライバー、発電機、そして高価な測定器があった。

「な、なんだそりゃあああ!?」

「魔法か……!?」

二人が腰を抜かす。

「これが私の『生活魔法』よ。……さあ、これをリサイクルショップに売りに行くわよ。新品同様の『未開封品』としてね」

午後。

私たちは秋葉原に移動していた。

午前中の「錬金術」で稼いだブツを、専門店のカウンターに出した時のことだ。

「ちょ、ちょっと待ってください! この型番の測定器、生産終了してプレミアついてるやつですよ!? しかも未開封……箱に傷一つないなんて!」

店員の手が震えている。

私は涼しい顔で「倉庫の奥から出てきたんです。買い取れます?」と返す。

「か、買い取ります! 店長呼んできます!!」

――その様子を見て、後ろのゲンタと蒼が「オーナー、あんた何者なんだ……」と戦慄していた。

結果。

「合計、185万円になります」

店員から手渡された分厚い封筒。

元手が数千円だったことを考えれば、利益率は数万パーセントだ。

これなら、セメント代と弾薬代、そして当面の食費には十分すぎる。

さらに私は、産廃所で見つけたコンプレッサーの壊れた「超低温フリーザー」も修復済みだ。

定価なら車が買えるほどの代物が、今はピカピカの状態で軽トラの荷台に積まれている。

「すげぇなオーナー……。一生ついていくわ」

「……弾薬が無限に買える。素晴らしい能力だ」

二人が崇めるような目で私を見ている。

さあ、これで準備は整った。

あとは、この資金と機材を渡すべき相手――「魔女」を見つけ出すだけだ。

「よし、次は人探しよ。……蒼、スマホ貸して」

「誰を探すんだ?」

「 御影(みかげ) シノ。天才科学者だけど、今は訳あってネットカフェを転々とするホームレスよ」

私は蒼のスマホで、とある裏掲示板サイトにアクセスした。

『裏化学・薬学スレッド Part.158』。

1周目の世界で、シノ自身が「昔はよくあそこに愚痴を書き込んでた」と言っていたのを覚えている。

「彼女は極度の潔癖症で、偏屈な研究者よ。しらみつぶしに探すより、本人に聞いた方が早いわ」

スレッドをスクロールする。あった。

HandleName: Dr.Shadow(シャドウ=御影=シノだ)。

『今いる店、回線速度はいいけどキーボードがベタベタして最悪。消毒用エタノール持参しないと座れない。店員のレベルも低い』(投稿:10分前)

「……釣れるかな。やってみよう」

私は『名無しの掃除屋』というハンドルネームで、彼女の書き込みにレスを返した。

>> Dr.Shadow

『もしかして駅前の「爽快CLUB」ですか? あそこ汚いですよね。私もすぐ出ました』

カマをかける。

すると、すぐに返信が来た。プライドの高い彼女は、誤解されたままなのが許せないはずだ。

>> 名無しの掃除屋

『は? 違うわよ。裏通りの「 電脳空間(サイバースペース) 」よ。ここも最悪。換気が悪くて薬品の臭いが籠もるわ』

「……よし、釣れた」

私はスマホを閉じて、ニヤリと笑った。

自ら居場所をバラしてくれた上に、「換気が悪い」という弱点まで教えてくれた。

「場所は『 電脳空間(サイバースペース) 』よ。行くわよ」

数分後。

私たちはビルの前に到着していた。

しかし、部屋番号までは分からない。

「さて、何階にいるかだけど……」

「……4階だ」

蒼が鼻をひくつかせ、断言した。

「匂うぞ。微かだが、換気扇からエーテルとメンソールの臭いがする。……4階の角部屋あたりだ」

「さすがね。警察犬並み」

「……褒め言葉として受け取っておく」

場所は特定した。ターゲットはそこにいる。そして、私たちの手には「185万円」と「最新鋭のフリーザー」がある。

これだけの「武器」があれば、どんな偏屈な科学者でも話くらいは聞いてくれるはずだ。

「行くわよ。……最強のパーティを完成させに」

私は決意を固め、ビルの入り口へ足を踏み出そうとした。

その時だった。

――パリンッ!!

頭上から、鋭いガラスが割れる音が響いた。

続けて、女性の悲痛な叫び声が降ってくる。

「いやぁああああ!! 私の……私の培養液がぁぁぁ!!」

私たちは顔を見合わせた。

「……おい、今の声」

「4階だ。間違いない」

「トラブルね! 急ぎましょう!」

悠長に交渉している場合じゃない。

私たちは軽トラの荷台からフリーザーを下ろすのもそこそこに、階段を駆け上がった。