作品タイトル不明
閑話 カガネ 1
私の名前はカガネ。けどそれはこの世界での名前である。私には誰にも言っていないもう1つ名前がある。
「神宮寺 鼎(かなめ) 」
それが私が地球で生きていた頃の名前……
私が地球で死んだのは17歳の夏。日差しの強い日だった。あの日学校からの帰り道、私は確かに青信号を確認して横断道路を渡っていたのに、急に現れた猛スピードを出しているトラックに撥ねられて死んだ。
けれど、目を覚ますとそこは知らない天井だったのだ。咄嗟に起きようとしたのだが、体が思うように動かない。声を出そうとするとただ泣き叫ぶだけ。これはどういう事?と思ったのだけど、程なくして自分を呼んでいるのであろう2人の男女が視界に現れた。明らかに日本語ではないのだが、何故かその言葉を理解し、私は自分の身に何が起こっているのかが分かった。
「異世界転生」したのである。
そして自分が今赤ん坊である事を自覚すると、つまり今目の前に居る男女が自分の両親であるのだろう。私はこの事に内心喜んでいた。はっきり言おう。私はオタクである。アニメ、ゲームは大好きだし、ネット小説も大好きだし、BLももちろん標準装備している。アニメはラブコメも好きなのだが、ファンタジー物も好きで、ゲームはアプリはなんとなく肌に合わなくて、据え置き機でRPGをメインに全般的にやっていた。地球の両親と妹もゲーム好きだったので特に困る事は無かったし、ネット小説も転生・転移物を好んでよく読んでいた。その影響で俗にいう物の作り方みたいなものも調べたりして、部屋で寝る前なんかグフグフしながら妄想していたりしていた。その妄想が現実に自分の身に起こったのだ。もし動ける体なら、飛び跳ねて大喜びしていただろう。
ただ、転生した事で少し後悔しているのが、地球に居る両親と妹に仲の良かったオタク友達達である。ネット小説でよくある私という存在が元々無かった事になってるとかして、どうか幸せに生きていて欲しいと願っておいた。私の死で悲しむ家族達の姿を想像したくなかった……
ただ、この頃はすぐに眠くなるので意識を保つのが一苦労だった……
自分が転生した事がわかってから数カ月が経ち、目に見える視界も意識もはっきりしてきた頃、両親の傍に1人の男の子が居た。喋れる事はまだ出来ないけど、言っている事は理解出来るので、その男の子が自分の兄である事を両親が私に教えてくれた。お兄ちゃんか……地球の妹と同じくらい仲良く出来るといいなぁ……なんて事をその時は思った。
更に月日が経ち、自分の足で立って歩けるようになった頃、私は喋れるかと思い、言葉を口に出した。そこから出る言葉は日本語ではないのだが、確かに自分がそう言っている事をきちんと聞き取れる事が出来たし、まるで日本語を話しているような感覚で言葉を発せる事も出来た。いきなり、喋り出した私に両親は驚きの表情を作り、まるで凄い事が起こったとでも言いたいくらいに喜んでいる姿を見ると、ちょっと時期尚早だったかなと思ってしまった……
ただ、そこからの両親の私への可愛がり方は過熱気味になった。
どうも私の事を天才児だと思っているようで、まだ教えるのは早いだろうと思えるようなこの世界での事を色々と教えてきた。その教えられた中で最も私の心を掴んだのは「魔法」である。だって魔法だよ?誰しも使ってみたいでしょ?私の心は一気にワクワクし出した。
魔法の事は特によく聞き、よく調べた。
この世界の魔法は特に難しい作りではなかった。この世界にはRPGゲームのようにMPが存在していて、そのMPの数値を消費して魔法が発動するようである。
魔法には属性が存在しており「火・水・土・風・雷・光・闇」の計7種類ある。ただこれは基本属性であり、中には特定の人達だけが使える 固有魔法(ユニーク) なんかもあるみたいだ。通常この世界の人達は3属性持ちであれば、どこでも引く手数多らしい。そして呪文によって魔法は発動。呪文と共に注ぎ込むMP量によって威力の強弱をつける事が出来、また唱える呪文によって様々な事象を起こす事が出来る。
基本的には適正がある魔法は威力が強く、適性の無い魔法も唱える事は出来るが威力は大幅に下がり、MPも適正がある魔法に比べると大量に消費するらしい。まず適性の無い魔法を唱える事はデメリット以外の何物でもない。
そして呪文だが特に決まった文面は無いようで、自分が起こしたい事象を自分の中でイメージしやすい文章で唱えているようである。ただ、この世界の人達にとってはその起こしたい事象が複雑で強くなればなるほど、長い文章になっていくらしいのだが、私にそれは関係ないと思った。それこそオタク大国・日本の出身であり、オタク文化に精通して、日々妄想で鍛えられている私にとっては短い文章で複雑な事象を起こす事が出来ると理解していた。
そうしてこの世界の事、魔法の事をスポンジのように瞬く間に吸収していくと、両親は更に大喜びになり、私へ向ける期待の眼差しは強くなっていった。
そして5歳の頃、両親に勧められるまま私は王国立学校の入学試験を受ける事になった。
5歳で学校へ入学するという事は前例が無く、ただ両親があまりにも懇願するので学校の教師陣がどうせ無理だし、諦めさせるために入学試験を受けさせたのだが、私はその試験を見事全問正解で突破した。また、水晶玉を使って魔法の適正検査もされたのだが、私の適性はなんと「全属性」だった事もあり、教師陣はむしろ諸手を上げて私の入学を許可した。
その頃からだろうか、私は凄く調子に乗っていた。元々精神は成熟している上に、前例の無い年齢で学校入学、魔法の適性は全属性、両親は私を可愛がる。これで調子に乗らずしてどうする?またその頃には自分の顔立ちの良さも理解していたので、もうウッハウハであった。
入学して1カ月程経った頃だろうか、学校内で仲の良い姉妹を見た時にふと、そう言えば自分にも確か兄が居た事を思い出した。家では常に両親が傍に居たし、兄の姿も特に見ないし、話してもいなかったのですっかり存在を忘れていた。この時の私はちょっとめんどくさいなぁ……と思った。両親は私ばかり可愛がっているし、そんな両親の行動からおそらく兄より自分の方が優れている事が分かっているし、どうせ妬まれ、疎まれているんだろうなぁと思ったからだ。でも、一応兄だし、後でネチネチ嫌み言われるのもうっとおしいから、今の内にビシッと言っておこうと思った。
そうして私は夜中に両親が寝静まると兄であるワズに会いに行った。
「……と、言うわけで私を妬むのは筋違いだから!!」
「……は?……いや、特にそういう事を思った事はないけど……カガネは想像力豊かなんだね」
そういう兄の表情からは本当に私が思っていたような負の感情は一切感じられなかった。むしろ、そこには純粋に家族へ向ける愛情が表れていた。両親は私に構ってばっかりで、兄であるワズはその余波で蔑ろにされていたはずなのに……自分がそうなっている原因は私だから恨みの1つでもぶつけてくると思ったのに……
その瞬間、私の胸がトクンと鳴った……