軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 あたしのお風呂どうするのよ

ミノタウロスは牛頭人身の魔物だ。

身の丈は二メートルを軽く超え、筋骨隆々の体躯を誇る。

それでいて前傾姿勢になって疾走すれば、馬をも凌駕する速度で突進することが可能だ。

「ちょっと待ちやがれ。どう考えても地下14階に出る魔物じゃねぇぞ?」

「まさか最下層の魔物がこの階層に?」

「ど、どうすんのよ?」

不測の事態に少し戸惑うゲインさんたちだったけれど、すぐに覚悟を決めたように武器を構えた。

「……やるしかねぇだろ。一体だけならどうにかなるはずだ」

「そうだな。メーテアがゲインに結界魔法を使って、それでやつの突進を止めてしまえば、後は一気に全員で仕留めるだけだろう」

「分かったわ! 〈ライトシールド〉」

メーテアさんがゲインさんを結界で守り、みんなその背後へ。

腰を落とし、大剣を盾にしながら迎え撃つ体勢のゲインさんへ、ミノタウロスは真っすぐ突っ込んできた。

「……違う。あいつは、ただのミノタウロスじゃないわ」

「え?」

シルアが小さく何かを呟いた直後、ついにミノタウロスがゲインさんと激突する。

バリイイイイイイイイイイインッ!!

「~~~~~~~~っ!?」

結界が粉砕し、ゲインさんは成すすべなく吹き飛ばされた。

「「「えっ!?」」」

予想外の展開に僕たちが唖然とする中、ゲインさんの身体が僕らの頭上を越えていく。

そのまま後方の壁に激突した。

「ゲイン!?」

「い、一撃で結界が破壊されただと!? どうなってやがる!?」

幸い激突の衝撃を受けて、ミノタウロスの突進は止まった。

「……ば、かな……」

結界と大剣で身を守っていたお陰か、ゲインさんも生きているみたいだ。

すぐに立ち上がろうとしているので、ダメージはそこまで大きくないかもしれない。

だけどすぐ目の前で身を起こし、屹立したミノタウロスの大きさに、僕たちは圧倒されてしまう。

「お、おいおい、待てよ……ミノタウロスって、こんなにデカい魔物だったか……? せいぜい身長二メートルちょっとのはずじゃ……」

「こいつどう見ても三メートル以上あるじゃないの!?」

しかもその身を覆うのは岩のようにごつごつとした肌。

ミノタウロスは絵付きの書物で紹介されているのを見たことあるだけで、実物を見たのは初めてだけれど、明らかに普通の個体じゃない。

「ただのミノタウロスじゃねぇってことか!? ……はっ? そういや、この岩窟迷宮のボスの名は、ストーンガーディアン……全身が岩の鎧に包まれた、ミノタウロスの上位異種っ……」

ギルさんが顔を真っ青にして叫んだ。

「な、な、何でこんなところにボスがいやがるんだよおおおおおおおおおおおおおっ!?」

ダンジョンのボス。

各階層に現れる魔物とは一線を画する強さを誇る、ダンジョン内最強の存在。

通常であれば、迷宮の最下層に設けられた特別な部屋にしか姿を現さないはずなのだけれど、ごく稀に自らの巣を離れてダンジョン内を徘徊することがあった。

それはダンジョンで発生するイレギュラーの中でも、最悪クラスの一つだ。

「やば過ぎでしょっ!? どうすんのよ!? こんなやつと戦えないわよ!?」

「もちろん逃げるしかねーだろっ!」

そう叫ぶが早いか、すでにギルさんは踵を返していた。

シーフらしい俊敏さで、僕たちを置いて逃げ出したのだ。

「待ちなさいよ!?」

メーテアさんもすぐにその後を追いかける。

立ち上がったゲインさん、そして僕とシルアも続いた。

「っ、足がいてぇっ……おい、メーテアっ! 治癒魔法を使えっ!」

「そんな暇ないわよっ!」

歩き出すことはできたものの、足を負傷して上手く走れないらしいゲインさんが治療を求めるも、メーテアさんはそれを拒否した。

「てめぇっ、ふざけんなよっ!?」

ゲインさんが激怒するも、メーテアさんは無視して走り続ける。

当然、上手く走れないゲインさん一人が遅れる形となった。

「グモオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「ひっ……」

そんなゲインさんの背後へ、ダンジョンボス、ストーンガーディアンが咆哮を上げながら再び前傾姿勢になって迫ろうとしていた。

先ほどは結界がありながらも防ぎ切れなかった突進攻撃だ。

負傷した身ではもはや大ダメージを避けられないだろう。

そのときゲインさんが叫んだ。

「シルアっ! あいつを止めろっ! これは〝命令〟だっ!」

「っ……」

まるで何かの強制力が働いたかのように、シルアが足を止める。

よく見ると彼女の腕のあたりに禍々しい紋様が刻まれていて、それが不気味に発光していた。

「……まさか、隷属魔法をかけられている!?」

黒魔法の中には、奴隷に対して主人の命令を強制的に実行させることを可能にする、隷属魔法と呼ばれる代物があった。

それは呪いにも近いもので、過去にこの凶悪な魔法によってたくさんの奴隷が惨たらしい扱いを受けたことから、現在この国では使用を禁止されているはずだった。

シルアは一人、強大なダンジョンボスに立ち向かっていく。

ストーンガーディアンは一瞬ターゲットに迷ったものの、近づいてくるシルアに照準を合わせて躍りかかった。

身軽なシルアは咄嗟に横っ飛びしてボスの突進を回避しようとしたけれど、僅かに躱し切れなかった。

宙を舞い、地面に叩きつけられてしまう。

「ぐっ……」

「ははっ、こういうこともあろうかと、あらかじめ手を打っておいてよかったぜ!」

ゲインさんはそんなシルアを置き去りにするつもりらしい。

僕は思わず立ち止まった。

「シルアっ……」

「放っておけ! お前が加勢したところで何の役にも立たねぇよ!」

ゲインさんに止められるも、僕は構わずシルアのもとへと走った。

「おいおい、馬鹿だなァ、あいつ! 間違いなく死んだぜ!」

「ちょっと! 今度からあたしのお風呂どうするのよ!?」

遠くからギルさんたちのそんな声が聞こえてきた。