作品タイトル不明
第71話 中毒症状……怖い
続いてローザさんとカーミラさんが仮眠を取っている間に、僕は亜空間から食材と調理器具を取り出した。
「まさか少年、こんなところで料理でもする気なのだ?」
「はい、そのつもりです。どうせ食べるなら、やっぱり温かいご飯の方がいいですしね」
用意した食材は、パスタ、玉ねぎ、トマト、牛乳、チーズ、それからコカトリスのもも肉だ。
「コカトリスの肉!? 高級肉なのだ! 何でそんなものを持ってるのだ!?」
「魔境に来るまでの間にダンジョンに潜る機会があって、そのときに手に入れたんです」
ほとんど売ってしまったけれど、少し亜空間の中に残しておいたのである。
まぁ少しと言っても、一体分が丸々あるけれど。
「〈水生成〉からの〈湯沸かし〉」
まずは鍋に水を入れて沸騰させ、パスタを茹でる。
「一瞬でお湯が沸いたのだ……」
「〈食材切り〉」
それから玉ねぎを薄切りに、トマトは皮を剥いてからざく切りに、コカトリス肉は一口大に切る。
「その魔法、本来の使い方してるの初めて見たわ……」
ちなみに玉ねぎとトマトは、フェリオネアの農地で収穫されもの。
先日フェリオネアに〈帰宅〉で立ち寄ったとき、ぜひ持っていけとゼファルさんに渡されたのだ。
どうやらあれからも作物の生産は順調らしく、むしろ余っていて近隣の村や街に売っているほどだという。
その品質のよさを聞きつけ、遠方から商人が買い付けにくることもあるとか。
「〈加熱〉」
この狭い場所で火を起こすのは危険なので、加熱したフライパンに玉ねぎを入れて炒める。
パスタを茹でる鍋も火は使ってないしね。
玉ねぎがしんなりしてきたら、コカトリス肉を加えて焼く。
そこへ切ったトマトを加え、水分を飛ばしながら煮詰め、牛乳を入れてさらに煮詰める。
パスタとパスタの茹で汁を入れて全体を絡めたら、フライパンの加熱を止め、最後にたっぷりチーズを投入。
「いいにおいなのだ……じゅるり」
「でもこれ、味が薄くないかしら?」
「はい。なので最後にこれを使います。〈味付け〉」
勝手にその料理に適した味を付与してくれるという、とても便利な生活魔法である。
ちなみに任意で味を付けることもできるのだけど、それだと料理に疎い僕の知る狭い範囲の味しか再現できない。
そのためお任せにした方がいい結果になることが多いと、最近分かってきた。
ただし、使う魔力量には注意が必要だった。
あまり魔力を込めすぎると、意識が飛んだり、場合によっては天国に召されてしまう危険性があるためだ。
「ふぁぁ……本当に何時間も寝たかのようにすっきりしましたわ。……? 随分と良いにおいがしますわね……?」
そこへちょうどローザさんとカーミラさんが起きてくる。
「少年が料理を作ってくれたのだ!」
「適当な時短料理ですけど、よかったらどうぞ」
「チキントマトクリームパスタですの……? まさか、魔境探索中にこんなものを食べることができるなんて……」
ダンジョンでもそうだけれど、こうした魔境の探索中の食事は基本的に持ち運びがしやすい、干し肉や乾パン、ドライフルーツといった保存食だ。
「しかもこの鶏肉、コカトリスの肉らしいのだ」
「コカトリスの肉……? 高級肉ですわよ? そんなものいただいていいんですの?」
「もちろんです」
「ではお言葉に甘えて……いただきますわ」
「「「いただきます」」」
そうして僕が作った料理を口にし、
「「「うまああああああああああああああああああああああああああっ!?」」」
絶叫した。
「何ですの、このパスタ!? 美味しすぎですわ!? もぐもぐもぐっ」
「こんなに美味しい料理、生まれて初めて食べたのだ! もぐもぐもぐっ」
「美味しすぎて食べる手が止まらないわ!? もぐもぐもぐっ」
「……うぅ……な、涙が……止まらない……もぐもぐもぐっ」
アルテアさんはともかく、ローザさんやタティさんですら口周りがクリームで汚れても気にせず、猛烈な勢いで食べ進めていく。
そしてなぜか食べながら泣き出すカーミラさん。
あっという間にお皿が空になってしまったので、
「お代わりありますけど、どうですか?」
「「「食べる!」」」
多めに作ったつもりだったけれど、四人はあっさり平らげてしまった。
「はぁはぁ……お、美味しすぎましたの……」
「も、もうなくなってしまったのだ……? まだまだ食べたいのだ……ところで、少年はそれ、食べないのだ?」
「あ、もちろん今から食べますよ」
みんなのお代わりに対応していたため、自分が食べるのは後回しになってしまったのだ。
「そ、そうか……食べるのだ……」
「こら、人の分まで食べようとするんじゃないわよ。……まぁ気持ちは分からなくもないけど……割とお腹は満足してるのに、頭が今の食べ物を欲し続けてるし……」
「……中毒症状……怖い……」
うんうん、みんな満足してくれたみたいだね。
「よかったです。意識が飛んだりしなくて」
「意識が飛んだりって、それ、どういうことですの!?」
さすがはBランク冒険者。
先に〈快眠〉でぐっすり寝て、心身ともに万全の状態だったのもあるかもしれない。
「じゃあ、僕もいただきますね。パクッ――」
このあと、めちゃくちゃ意識を失った。