軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第69話 住めるような状態に戻しますので

「見ての通り、こいつはもう何十年も使われてねぇ空き家だぜ! 元の持ち主が亡くなって以来、そのまま放置されちまっててよ、危ないからそろそろ解体しないといけねぇなという話が出ているところだ!」

夢追い亭・別邸の店主さんに教えてもらったその空き家は、ものの見事にボロボロだった。

太陽の光が届かず気温も低い場所のため、割と建物が風化しづらい環境のはずだけれど、さすがに何十年も放置されたとあっては無理もないだろう。

「この空き家、貰っちゃっても構いませんか?」

「おいおい、本気かよ? まさか、この家を深部探索の拠点にしようってのか? どう見ても人が住めるような状態じゃねぇぞ? ドアは半壊しちまってるし、窓ガラスはほとんど割れちまってるんだぜ? まぁどのみち持ち主もいねぇ家だし、別に構わねぇけどよ……」

「大丈夫です。住めるような状態に戻しますので」

「……?」

首を傾げる店主さんの前で、僕は〈修繕〉を発動した。

するとボロボロだった空き家が、見る見るうちに元通りになっていく。

「あ、空き家が新築同然になったんだが!?」

「〈修繕〉っていう生活魔法を使いました。こういう建物とかにも効果があるんですよ」

「マジかよ……つーか、生活魔法にそんなもんあったか……?」

すっかり綺麗になった空き家を前に、呆然と呻く店主さん。

「この魔法があれば、壊れた武具も直し放題では……?」

「確かに……家を直せて武具を直せないなんてことはないと思うのだ……」

ローゼさんとアルテアさんも目を丸くしている。

「もしかして本気でこの空き家を拠点にする気? それとも、まさかこんな陰気な街のことを気に入って、今後はここで暮らすとか? カーミラじゃないんだから……」

「……わたしも……御免……人間が、陽キャばかり……無理……」

「いえ、これはあくまで保険ですよ、タティさん」

「保険……?」

念のため店主さん以外の街の人たちからも許可を貰い、正式にこの空き家を所有して構わないことになった。

と言っても、もちろん実際にここに住むつもりはない。

「家の鍵も見つかったし、これでいつでも戻ってくることができるはず」

準備を終えた僕たちは、いよいよ大穴の深部を目指し、ギアの街を出発した。

「もっとも、探索は少しずつ進めていきますわ。最初の探索は三日間を予定していますの。行けるところまで行ったら、Uターンして街に戻りますわ」

宿の店主さんをはじめ、色々と情報は集めたけれど、百聞は一見に如かずだからね。

パーティごとに攻略法も変わってくるわけだし、実際に探索をして初めて分かることも多いはずだった。

「あっ、もしかしてこれが目印なのだ!?」

街を出てすぐの斜面でアルテアさんが発見したのは、店主さんが言っていた目印のマークだ。

丸の中に矢印が書いてあるというシンプルなものだけれど、何らかの魔法を付与されているのか、薄っすらと発光しているため見つけやすい。

目印はだいたい百メートルごとに刻まれていて、思ったよりも小刻みだ。

この暗闇の中だと真っすぐ進んでいるつもりでも、知らず知らずのうちにズレてしまうことも少なくないためだろう。

僕たちはそれを頼りにしつつ、深部を目指して斜面を降りていった。

しばらくは中部にいたのと変わらない魔物が多くて対処も容易かったけれど、三時間も降り続けていると、次第に現れる魔物の層が変化してきた。

「っ、右前方から魔物です!」

〈注意報〉の反応に従って注意を促す。

直後、暗闇の奥から何かが猛スピードで近づいてきた。

「任せるのだっ! って、躱されたのだ!?」

アルテアさんが威勢よく大剣で斬りかかったものの、目測を誤ったのか、あっさりすり抜けていく。

「ぎゃっ!? 腕を切られたのだ!?」

それどころか、すり抜け様にしっかり攻撃も加えていったようだ。

「ナイトホークですわ! 闇に紛れて空から襲いかかってくる厄介な魔物ですの!」

いくら〈視力向上〉で暗いところが見えやすくなっているといっても、速い上に周囲の闇に紛れる黒い体毛に覆われた相手を、ピンポイントで攻撃するのは至難の業。

ローザさんも鞭を振るうけれど、なかなかとらえることができない。

「攻撃力は大したことないけど、確かに面倒な魔物ね……っ!」

「……陰湿な……魔物……」

大きさは羽を広げた状態でもせいぜい二メートル程度で、鋭い爪と嘴はあるものの、タティさんが言う通り攻撃力は高くない。

それでもこちらの攻撃がなかなか当たらず、一方的にやられ続けてしまっていた。

「キーッ、キーッ、キーッ!」

とそのとき、ナイトホークが金切り音のような鳴き声を響かせた。

「き、気を付けてください! 恐らく仲間がこっちに向かってきています!」

「仲間を呼ぶ習性まであるのだ!?」

一体だけでも苦戦していたというのに、仲間まで集まってきたら最悪だ。

「仕方ありませんわ! いったん横穴に退避しますの!」

「あのっ、ローザさんっ、その前にちょっと試したいことが!」

「……何か策がありますの?」

「は、はい、飛んでる相手に有効そうな生活魔法がありまして」

「分かりましたわ! あたくしたちにできることは?」

「それじゃあ、巻き込まれないように僕の近くに集まってください!」

「巻き込まれる……?」

首を傾げながらも、全員が僕の傍に集合したところで、

「では行きますね! 〈そよ風〉!」

宙を舞うナイトホークの群れを目がけ、生活魔法を発動した。