作品タイトル不明
第25話 まず殴られないようにしてください
「ちょっ、待っ……いだっ!? ぐはっ……」
一触即発の男たちのところへ威勢よく割り込んでいったガッツさんが、その二人からボコボコにされている。
最初はあえて攻撃を受けているだけかとも思ったけれど、そんな感じじゃない。
普通にダメージを喰らって痛がっているし。
あれだけ自信満々で割り込んでいったので、てっきり腕に自信があるのかと思っていたけど、完全にやられ放題だ。
やがてゴミと一緒に道路の端っこに転がるガッツさん。
一方その無残な姿に男たちは満足したのか、言い争いもやめ、そのまま去っていった。
「えーと、大丈夫ですか?」
恐る恐る話しかける。
「し、心配は要らないぜ。このくらい、全然大したダメージじゃない」
頭にゴミを付けたまま、ガッツさんは不敵に笑いながら立ち上がった。
どう見ても手酷くやられていたけれど、名前通りガッツだけはあるみたいだ。
と思いきや、
「なにせおれには〈頑丈〉のスキルがあるからな!」
「そうなんですね。確かにボコボコだった割にはあまり怪我してなさそうですね」
「ふっふっふ、そうだろう! そしてああやってやられておけば、満足して平和的に解決できるってわけだ!」
「……そんなに身体を張らなくてもいいような」
その後もガッツさんは懲りることなくパトロールを続けた。
壁に落書きをしている少年たちに注意して殴られ、ホームレスたちの縄張り争いを止めようとして蹴られ、逃げるひったくりを捕まえようとしてあっさり吹き飛ばされた。
「はぁはぁ……どうだ? パトロールもなかなか大変な仕事だろう?」
「……そうですね」
確かにガッツさんの実力では、パトロールが精一杯の仕事に違いない。
彼がこの年齢にして未だEランク冒険者である理由は、火を見るより明らかだった。
単純に弱すぎるのである。
本人は全然ダメージなんてないと言い張っているけれど、念のため僕は〈痛み止め〉を使って治療してあげた。
……ついでにゴミに塗れまくって臭かったので〈汚れ落とし〉も使う。
「なんだ? 急に身体が痛くなくなった?」
「やっぱり痛くはあったんですね……ええと、今のは僕の生活魔法の〈痛み止め〉です」
「そんな便利な魔法を使えるのか! それがあれば殴られ放題だな!」
「まず殴られないようにしてください」
そうして計五時間のパトロールも、残りわずかとなったときだった。
「きゃああああっ! 誰かっ! うちの子がっ!」
聞こえてきたのは女性の悲鳴。
見ると、若い男たちが小さな子供を、馬車が引く荷車に無理やり乗せようとしているところだった。
誘拐だ。
女性が必死に男たちを阻止しようとするも殴られて転倒し、その隙に子供を乗せた荷馬車が走り出す。
「こいつは見過ごすわけにはいかないぜ! おい、お前らっ! 止まれっ!」
ガッツさんが荷馬車を止めようと、道の真ん中で立ち塞がった。
しかし荷馬車は構わず全速力で突っ込んでくる。
いくら〈頑丈〉のスキルがあるとは言え、このまま荷馬車に引かれてはただでは済まないだろう。
「〈重さ軽減〉!」
僕は咄嗟に、荷馬車に向かって生活魔法を発動していた。
次の瞬間、荷馬車とガッツさんが勢いよく激突する。
ドンッ!!
「「「~~~~~~っ!?」」」
「へ?」
吹き飛んだのは荷馬車の方だった。
ふんわりと宙を舞い、それからやけに軽い音と共に地面に落下する。
乗っていた男たちのうち、何人かは投げ出されて地面を転がった。
「いてて……いや、あんまり痛くないぞ?」
身体が軽くなっているため、ダメージはあまりないはずだ。
子供も無事だろう。
「な、何が起こった……?」
「邪魔なあいつをそのまま引いてやろうとして……跳ね返された?」
「おいおいおい、んなことあり得ねぇだろ!?」
予想外の事態に男たちは困惑しているけれど、もちろんガッツさんもまた大いに戸惑っていて、
「え? い、一体何が……?」
「とりあえず僕に話を合わせてください」
僕はそうアドバイスをしてから、
「やいやい! この方を誰だと思っている! かの有名なAランク冒険者のガッツさんだぞ!」
口から出まかせを叫んだ。
「「「Aランク冒険者!?」」」
そのハッタリ効果は抜群だったようで、男たちが大いに動揺する。
さらに僕は畳みかけた。
「お前たち、あの女性の子供を誘拐したな! 僕たちは見ていたぞ! Aランク冒険者のガッツさんは正義感に溢れるお方だ! お前たちのような輩は絶対に許さない!」
「ひっ!」
「え、Aランク冒険者になんか、敵うわけがねぇ!」
「逃げろおおおお……っ!?」
すっかりこちらの言葉を信じたらしい男たちは、荷馬車を放置して蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのだった。
「何が起こったんだ……?」
男たちの後ろ姿を見送りながら、ガッツさんは最後まで呆然としていた。
パトロールを終えて冒険者ギルドへ帰還した僕とガッツさんは、レイラさんに報告した。
「えっ、誘拐されかけていた子供を助けた!? お手柄じゃない!」
さらにあの荷馬車の中を検めてみたところ、盗品と思われる高価そうな品々がたくさん転がっていたので、すべて回収して持ち帰ってきている。
「持ち帰ったって……どこに置いてあるの?」
「僕の〈小物収納〉で亜空間に入れてありますよ。割と量があるので、どこか広いスペースがあればいいんですけど……」
「〈小物収納〉って、せいぜい財布とか家の鍵とかアクセサリーとか、そういうのを収納しておける程度の生活魔法のはずよね?」
レイラさんは首を傾げつつも、僕たちを会議室に案内してくれた。
「じゃあ、ここに出しますね」
そう告げて、僕は亜空間からそれらを取り出していった。
大量の品々が、会議室内にずらりと並んでいく。
レイラさんが慌てて叫んだ。
「ちょ、ちょっ、ちょっと待って!? えっ!? 〈小物収納〉って言ってたわよね!? こんな量、最上級のアイテムボックスにもなかなか入らないわよ!?」