軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第23話 歯を食いしばりなさい

「この家は私が使っていいことになったわ。元々、私の家だったわけだけど」

ホライア家の豪邸。

どうやらシルアはこれからこのフェリオネアで暮らしていくつもりらしい。

もちろん家族が生きている可能性はゼロではないけれど、彼女は一人だけ生き延びた。

幸いというべきか、魔物災害のときのシルアは幼かったこともあって、家族を失ったショックは少ないという。

「……正直、当時の記憶があると言っても、昔のことで曖昧だし、思い入れがあるわけでもないのよ。だから、この街に居続けるかどうか迷ったわ。だけど……私がホライア家の生き残りとしてこの街にいるだけで、この街の人たちにとっては大きな意味があるみたいだもの」

シルアの存在は今やフェリオネアの希望だ。

この街で暮らしていくという彼女の選択は、街の人たちにとって非常に大きい。

「でもこの家、さすがに私一人で住むには広すぎるのよ」

不意に神妙な顔つきになって、シルアは言った。

「ライル……この街で、この家で、私と一緒に住まない?」

ほんのりと頬が赤く染まり、声は緊張を孕んでいた。

平然を装っているけれど、意を決して口にした言葉だったのだろう。

だけど……僕は「ごめん」と返した。

「この街で君と一緒に住むことはできない」

彼女の申し出は嬉しいけれど、僕には夢があった。

「僕は世界一のサポート要員になりたいから……冒険者を続けたいんだ」

シルアは一瞬沈黙した後、大きく息を吐いてから、苦笑気味に笑った。

「女の子の一世一代の告白を断るなんて、なかなか罪な男ね? ま、この結果は予想してたけど……」

ん? 告白?

「あれ? えっと、この街に留まって、これからも街の復興に協力してほしいっていうお願いだよね?」

「………………は?」

なんかすごい馬鹿にされたような目で「は?」って言われた。

「でも、もうこの街の復興は軌道に乗ってきたし……僕がサポートする必要もないかなって……ちょっと待って。何で拳を振り上げてるの? まさか殴ろうとしてる? 何で?」

「歯を食いしばりなさい」

「ええええっ!? ちょっ、死ぬよ! シルアに殴られたら、僕、死んじゃう!」

見かけによらず怪力なのだ。

僕を抱えたままアスレチックを駆け上がるくらいだし……。

「大丈夫。手加減はしないから」

「手加減しないの!?」

僕は堪らず逃げた。

すぐに追いつかれるだろうけど。

幸いシルアが追いかけてくる気配はなく、代わりにため息が聞こえてきた。

「はぁ、婉曲的な表現を使った私が間違いだったわ……。どう考えても、あなたはそういうのに鈍感なタイプよね。そこは完全に予想が外れたわ」

僕は足を止め、恐る恐る問う。

「えっと……さっきの、本当はどういう意味だったの?」

「教えないわ。あと何で足を止めたのよ? 逃げなくていいの? 本気で殴るつもりだけど?」

「うわああああっ!」

この後めちゃくちゃ逃げた。

僕はフェリオネアの街を発つことにした。

ゼファルさんをはじめ、街の人たちからはすごく残念がられた。

それでも出発の当日、大勢の人が僕のために見送りに来てくれた。

「別れは寂しいけどよ、いつまでもお前さんに頼ってばかりってわけにはいかねぇからな!」

「ここまで復興が進んだのはライル殿のお陰だ。それにシルア様のことも……」

「あんたはこの街の英雄だぜ!」

「絶対また来てくれよ! いつでも歓迎する!」

そんな嬉しい言葉を投げかけられる。

だけど、その顔ぶれの中にシルアの姿はない。

「うーん、やっぱりまだ怒ってるのかな……?」

先日の一件以降、出会った当初のように、シルアはまったく口をきいてくれなくなっていた。

あれでお別れになるのは正直寂しいし、せめて最後に仲直りしたかったのだけれど。

心残りがありつつも、僕はフェリオネアに別れを告げ、街道を進み始めた。

と、そこへ。

「待って!」

「……シルア?」

背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには必死に走ってくるシルアの姿があった。

「はぁはぁ……さっき出たばかりって聞いたのに、もうこんなところにいるなんて速すぎるでしょっ……」

「〈歩行補助〉を使ってたから……それより、どうしたの?」

よっぽど全速力で来たのか肩で息をしながらも、シルアが右手を差し出してきた。

「これ、あなたに預けるわ」

「え?」

そう言って渡されたのは、一本の鍵だった。

「私の家の鍵よ」

「家の鍵!? 何で!?」

予想外すぎる代物だった。

「別に深い意味はないわ?」

深い意味もなく家の鍵なんて渡すだろうか?

「……さ、さすがに受け取れないよ」

「受け取りなさい。わざわざあなたのために作ったんだから」

どうやら合鍵を作るのに時間がかかり、ようやくつい先ほど完成したばかりなのだという。

有無を言わさぬ雰囲気のシルアの圧に押され、僕は仕方なくそれを受け取った。

「ふふ、受け取ったわね?」

「えっ、やっぱり何かトラップが!?」

「そんな大層なものはないわよ。単にそれを返したかったら、必ず一度はまた私の家に遊びに来ないといけないってこと」

「そ、それだけ?」

「それだけよ。別に深い意味はないって言ったでしょ」

腑に落ちない思いを抱きつつも、僕はそれを〈小物収納〉で亜空間に仕舞っておいた。

まぁ元々またいつかはフェリオネアに来るつもりだったし、そのときにはシルアにも会いたいと思っていたしね。

「じゃあね、シルア。また会う日まで」

「……うん。ありがとう、ライル。また会いましょう」

そうして僕はシルアに別れを告げ、再び街道を歩き出す。

しばらく進んだところで振り返ると、随分と遠くなっているのに、シルアがまだこちらに手を振り続けているのが見えた。