作品タイトル不明
第22話 何で宙釣りになってるの
ホライア家の邸宅。
知っていないと分からないはずのその構造を、シルアは次々と言い当てることができた。
もちろん幼い頃のことだし、十年も経っているので忘れている部分もあったけれど、家の中を見て回っているうちに、段々と色んな想い出も蘇ってきたようで、
「多分ここが私の部屋だったわ。このおもちゃにも見覚えがある……確か誕生日か何かのときに買ってもらったのよ」
「部屋っていうか、アリの巣みたいになってるけど」
「この方が落ち着くのよ」
猫は狭いところが好きとはよく聞くけど……。
「屋上からスタートするこの滑り台、途中で各階に降りることもできるし、そのまま滑っていけば裏庭にまで出ることができるわ」
「ちょっと勾配が急すぎない?」
「その方がスリル満点で楽しいじゃない」
シルアが久しぶりに滑ってみると、物凄い速さで家の外に飛び出し、着地した。
僕だったら地面に突っ込んでいたと思う。
「夜はみんなで川の字になって寝てたわ」
「というか、ベッドがめちゃくちゃ高いところにある!? 何で宙釣りになってるの!?」
「そう? 慣れたら落ち着くわよ?」
寝ているときに落ちたらどうするんだろう。
「ああっ、噂には聞いていたが、やっぱホワイア家の邸宅は最高の作りだぜっ! 見ているだけで猫の血が騒ぐっ!」
ゼファルさんが感動している……。
どうやらこの家は、猫系の獣人たちの好奇心を掻き立てる見事な構造をしているらしい。
「って、そんなことよりもだ! この家のことを、そこまで詳細に覚えているなら間違いねぇ。お前さん……いや、あなたこそ、ホライア家のシルア様だ!」
ゼファルはその場に膝をつき、シルアに向かって深々と首を垂れた。
「ああ……まさか、ホライア家の方が生きておられたなんて……この事実を知れば、各地に散らばる同胞たちも大いに喜ぶに違いない」
「ちょっと、やめてよ。今さらそんなふうに畏まられると気持ち悪いわ」
シルアは本気で嫌そうに訴えて、
「正直、その何とか家の生き残りだなんて言われても、まったく実感なんてないし」
「……そうだな。十年も昔のことで、しかも幼い頃となればそれは当然の感想だろう。だが嬢ちゃんの想いはともかく、同胞たちは泣いて喜ぶに違いない」
「もしかしてみんなに言う気?」
「嬢ちゃんが良ければ、だが……」
「別に構わないけど、その初代みたいに、みんなを導いたりなんて真似できないわよ?」
シルアはそういうタイプじゃないしね。
「その心配は要らねぇ。権力を放棄されたホライア家の方々は、一般市民と変わらない生活をされていたからな。嬢ちゃんに何か大きな役目を期待するわけじゃない。ただその存在だけで、俺たちは勇気づけられる」
ホライア家の当主には、四人の子供がいたようで、シルアは末っ子だったようだ。
そうしてホライア家の邸宅を後にし、復興隊の拠点に戻ると、ゼファルが報告した。
「あの幼かった末娘様が、こんなに成長されて……」
「他の方々の行方が分からない中、手放しには喜べないけれど……それでも、生きておられて本当によかった……」
「言われてみれば、お母上のシャルア様の面影が……」
ホライア家の生き残りがいたことに、復興隊のみんなは大いに驚き、喜び、中には涙する人もいた。
「けどよ、末娘様が生きておられたんだ! もしかしたら他の方々だって、どこかにいらっしゃるかもしれねぇ!」
「そうだな! もしかしたらひょっこり帰ってこられるかも!」
「そのときのためにも、街をしっかり復興させておかねぇと!」
「しかし末娘様は、今までどうされていたんだ?」
問われたシルアが、魔物災害から逃れた後のことを語ると、その過酷な境遇にまた多くの獣人たちが涙を流した。
当然、憤る者も少なくなく、
「人族め……っ! シルア様を奴隷にし、あまつさえ隷属魔法を施すなどっ……」
「やつらは我ら獣人を、言葉を話すだけの家畜か何かだと思ってやがるっ!」
「やはりフェリオネアの復興は急務だ! 他にも人族に苦しめられている同胞がたくさんいるに違いない!」
怒りの感情が渦巻く中、シルアが言った。
「でも、私はその人族に助けられたわ。ライルは私を解放してくれたのよ」
その言葉を聞いて、激怒していた獣人たちが落ち着きを取り戻す。
「そうだな……人族と言っても、全員が悪いわけじゃない」
「ああ、中には俺たち獣人にも対等に接してくれる人たちもいる」
「何よりライル殿には、シルア様だけでなく、この都市そのものを救ってもらった。感謝してもし切れない」
「ライル殿のような方なら、ぜひこれからもこの街にいてもらいてぇな!」
「「「間違いない!」」」
それからますます戻ってくる元住民が増えて、街は一気に賑わいを取り戻していった。
やはりホライア家の生き残りであるシルアの存在は、フェリオネア出身の獣人たちにとって、非常に大きな希望になったみたいだ。
そんな彼らを食べさせるための食糧問題の解消も順調で、すでに僕が〈庭いじり〉を使わなくても、十分な生産量が見込めるようになっている。
少し前のあの酷い廃墟の様子とは一変した街の姿に満足しながら、僕は呟くのだった。
「うん、もう大丈夫だね。僕のサポートは必要なさそうだ」