作品タイトル不明
18章 帝都 ~武闘大会~ 37
その後俺とカルマは一緒に貴賓席へと向かった。
メンバーたちから俺は賛辞を言われ、カルマは慰めの言葉をもらいつつ席に座る。
次はラーニと『ポーラードレイク』ジェイズの試合になるが、少しインターバルを入れるようだ。
後ろの方でシズナとスフェーニアがカルマを挟んで話をしている。
「カルマの先ほどの戦い、最後は少し肝が冷えたのう」
「本当にそうですね。さすがにあそこで追撃をしたら故意の殺人にはなったでしょうし、彼が上位を目指しているならやらない行為ですが、それでも気持ちのいいものではありません」
「武闘大会という以上、多少荒っぽいのは仕方ないとは思うが、あまり好んで出たいものでもないの」
「だけど基本的には互いにここまでってのは分かってる感じで戦ってはいるからねぇ。見た目ほどは乱暴じゃないとは思うよ」
カルマはすっかり元通りになって軽い感じで答えている。それを見てシズナもスフェーニアも肩の力を抜いたように見えた。
「ならいいのだがのう。次のラーニ相手のように話がわかりそうな感じならいいのじゃが、あのモメンタルというのは危うい感じがするからの」
「あの魔法もやはり発動の早さなどは少し不可解ですね。ゲシューラはなにか気づきましたか?」
スフェーニアに質問され、ゲシューラは尻尾をくねらせながら「ふむ」と小さく唸った。
「確かに妙な力が混じっているように見えた。私が見た限りでは、あらかじめ発動していた魔法をあの妙な力で抑えておいて、それを任意のタイミングで解放していたようにも思えたな」
「そのようなことが可能なのですか?」
「分からぬ。しかし魔法の発動を遅延させる技術はあるのだからできてもおかしくはない」
「そうですか……」
確かに多数の魔法の槍を順次飛ばすという魔法を使っている選手はいた。それを考えるとゲシューラの言ったようなことも可能なのかもしれない。
と、俺が無意識のうちにうなずいていたのか、ゲシューラが席を離れて俺のところにシュルシュルと近づいてきた。
「ときにソウシよ。あの魔法はお前とは相性が悪いように思えるが、なにか対策はあるのか?」
「いや、常に動き回るほかはないな。爆発の場所さえ分かれば盾で防ぐこともできるんだが」
「さすがに事前に察知するのは難しいかもしれぬ。もっともあの程度の爆発であれば、ソウシにはそこまでダメージを与えられるとも思えんが」
「さすがに顔の近くで爆発されたらキツいかもな」
「そこまでの精密な制御は不可能だろう。だが短期決戦がもっとも安全であろうな」
「そうなんだろうが、ただ『衝撃波』は見せてしまったからな。当然向こうも警戒はするだろう」
「うむ。やはりやってみるまではなんとも言えんか。奴もまだ手の内を全部見せているわけでもなかろうしな」
正直な所、『衝撃波』を全開で撃ちまくれば勝負は一瞬でつくような気もしなくはない。しかし恐らく、それをしたら確実にモメンタル青年はただでは済まない……いや、はっきり言えば死ぬ可能性が高い。
ルール上故意でなければ問題はないとはいえ、俺の倫理観もまだそこまで脳筋ではない。彼がいつもの『冥府の燭台』の泥人形だと確信が持てれば話は別だが、それも含めて明日の舞台の上で探らなければならないだろう。
そんなことを考えていると、舞台の上にラーニとジェイズが姿を現した。
ラーニは長剣『紫狼』、ジェイズはこちらも大業物の大剣を携えている。
『闘技大会本選、3回戦第3試合を行う。虹竜の方角は「ソールの導き」のラーニ! 本選初出場。暁虎の方角は「ポーラードレイク」のジェイズ。本選出場4回、最高戦績本選準決勝』
二人は剣の切っ先を合わせる挨拶をし、互いに距離を取る。
『始めよ!』
そしてコールとともに、互いに一気に距離を詰めた。
どちらも『飛刃』スキル持ちだが、最初から遠距離戦は考えていないようだ。
2人の戦闘スタイルは、同じ前衛型ではあるがはっきりと差がある。スピードと機動力、手数で攻めるラーニに対して、リーチの長さと破壊力に優れるジェイズだ。
ラーニが離れた距離から『疾駆』でヒットアンドアウェイを狙いつつ、機を見て自分の距離まで踏み込んでの連続攻撃を仕掛ける。
一方でジェイズは的確な防御と、自分の大剣は届くがラーニの長剣は届かない絶妙な距離での一撃で対応する。
非常に玄人好みの剣の差し合いが、10分ほどは続いただろうか。
「ジェイズってのは場数を相当踏んでるねぇ。あの戦い方はアタシも勉強になるよ。あれをラーニが崩すとなると相当に難しいね」
感心したように言いながら、カルマは身を乗り出して戦いを見つめる。
「ラーニのスピードも、足を止めて冷静に対処されると活かしきれないな。力では勝てない以上、接近しては手数で押すしかないんじゃないか」
「そうなんだけど、剣技そのものも向こうが上かもしれないね。なんだかんだ言ってラーニはまだ冒険者になって1年ちょいだからねぇ」
「経験の差か……それは大きいな」
ラーニとジェイズの戦いは、いよいよ佳境を迎えたようだった。
ラーニは『疾駆』を使っての攻撃をやめ、ステップを踏みながらの接近戦に完全に切り替えたようだ。ジェイズもそれが自分の領分とばかりにがっちりと受けて立っている。
間合いが縮まればラーニが嵐のような連撃で押し、少し距離が離れればジェイズの暴風のような斬撃が走る。動体視力や反射神経を含めて、身体能力が人の域を軽く超えるAランク冒険者だからこそできる立ち合いである。
ただやはり、純粋な剣技比べなら、ジェイズに一日以上の長がありそうだった。次第にラーニが攻め込まれる頻度が多くなる。ただでさえジェイズの圧力は強いので、非常に良くない流れだ。
「マズいね。だけど多分、やるならここだよラーニ」
カルマがボソッとそんなことを言った。
それはどういう意味なのかと聞こうと思った時――
ラーニの『紫狼』が袈裟に走り、ジェイズの大剣がそれを受け止める。その瞬間、『紫狼』の刀身が激しく燃え上がった。『属性付与・上級』による火属性の付与。
ジェイズがそれでも怯まずに大剣を押し込んで前に出たのは彼の積み上げた経験ゆえか。
その時恐らく、ジェイズは目の前に広がった一瞬の炎でラーニの姿を見失っていた。だから彼はすぐに左右に目を走らせた。
だがラーニはその時、彼と同じ 高(・) さ(・) にはいなかった。『疾駆』と『跳躍』、そして『疾駆』と『空間蹴り』。
ジェイズの頭上から急降下したラーニは、ジェイズの肩口に強烈な斬撃を食らわせ、倒れたところでその首筋に『紫狼』を突きつけた。
「参った!」
『勝負ありッ!! 勝者、「ソールの導き」のラーニッ!』
結局最後は自分の得意分野に持ち込んだラーニが、激闘をものにしたのだった。