軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18章 帝都 ~武闘大会~  36

ドロツィッテ女史にも伝えた通り、俺は貴賓席には行かず、舞台へ続く出口の脇で、カルマとモメンタル青年の試合を見ることにした。

モメンタル青年が勝つならなにもないだろうが、もしカルマが彼に勝ったとしたら何らかのアクションを起こす可能性があるだろう。

『闘技大会本選、3回戦第2試合を行う。虹竜の方角は「睡蓮の獅子」のモメンタル! 本選初出場。暁虎の方角は「ソールの導き」のカルマ。本選初出場』

奇しくも初出場同士の戦いだ。モメンタル青年も冒険者になって1年半と言っていたが、それであの強さは凄まじいものがある。ただそれも、彼が普通の人間であればの話だが。

両者が剣の先を合わせ、所定の位置に下がっていく。見た限りではカルマに気負いはなさそうだ。唇の端が少しだけ笑っていたが、構えをとるとそれも消えた。

『始めよ!』

まずは様子見といった感じで、互いにじりじりと近づいていく。カルマもモメンタル青年も飛び道具は持っているが、両者それがメインの戦士ではない。

2人ともそれが分かっているのだろう、余計なスキルは使わず、それぞれに有利な距離を奪おうと、見えない駆け引きをしているようだ。

と、モメンタル青年の身体がピクリと動いた。

ドンッ!!

その瞬間、カルマがいた場所にあの爆発が唐突に起こった。例の魔法だ。いきなりとは。

しかしすでにカルマの身体はそこにはなかった。『疾駆』で一気に前に出ていたのだ。なんという勘のよさと反射神経だろうか。

「っらあ!!」

カルマは振りかぶった『獣王の大牙』を青年めがけて打ち下ろす。青年はその一撃を盾で捌くように受け止める。しかし衝撃を逃しきれず、青年の身体はわずかに泳ぐ。

その時にはもうカルマは2撃目に移っている。石の床に叩きつけた切っ先を、そのまま横に振って胴を狙う。『翻身』スキル持ちにのみ許された斬撃だ。

モメンタル青年はそれも盾で受け止めた。しかも今度は身体を泳がせることなく踏ん張って耐えきった。そして一歩踏み込むと、長剣を閃かせて反撃に移る。

「おらぁっ!」

「しぃっ!」

そこからはしばらくは、ほぼ足を止めての打ち合いとなった。時折『疾駆』で下がって前に出ての動きはあるが、ひたすらに剣と剣、剣と盾のぶつかり合いが続く。

モメンタル青年の技量は高く、攻防一体の動きに隙はない。無論カルマの大剣による圧力も凄まじく、簡単に反撃は許さない。

二つの竜巻がぶつかり合うようなそんな戦いはしかし、極小の力量差が蓄積された結果、優劣が見え始めてきた。

押しているのはカルマだ。虎獣人族特有の動体視力と反射神経、そして自身の身体能力と優れた剣技、それらがあいまって、モメンタル青年の剣と盾を次第に圧倒していく。

そして遂に――

「そこぉっ!」

『獣王の大牙』の横薙ぎが、モメンタル青年の脇腹に食い込んだ。ギリギリ剣で受けたようだが、その身体は10メートル以上も横に吹き飛んで行く。

しかし明らかにそれは決定打ではなかった。

すかさず『疾駆』で追い打ちをかけるべきはカルマ、だが彼女はそこで一瞬戸惑ったような動きを見せた。

石の床の上で、わずかに体勢を立てなおすモメンタル青年。その身体が一瞬ビクッと震える。

「ちィッ!」

爆発魔法――カルマもそう直感したらしく、『疾駆』で再度距離を詰める。

いや、詰めようとしたその途中、カルマの足元で爆発が起きた。

青年が先読みで、進行方向に爆発を 置(・) い(・) た(・) のだ。

「ぐぅっ!?」

カルマの身体が宙を舞った。すでに両足に大きなダメージを負っているのが分かる。彼女はそのまま放物線を描いて、モメンタル青年の足元に落下した。

「くそっ」

カルマはそれでも起き上がろうとした。だがその首に、青年の長剣が走る。

「よせっ!」

俺の口から、声が勝手にほとばしった。

青年の剣はわずかにカルマの首に食い込み、その勢いを止めた。

それが決定的な攻撃だと判断したのか、カルマは地に伏し、力なく「参った」と言った。

動きの取れなくなったカルマの背中に足を乗せ、青年は俺のほうに顔を向けた。

「ほら、心配の必要はなかったでしょう?」

虚ろな笑顔を見せながら、彼はそんなことを口にした。

カルマはすぐに治療され、控室の方に戻ってきた。

その顔には悔しさとと共に、隠し切れない戸惑いと恐怖が浮かんでいるように見えた。

「よく戦ったな、カルマ」

「ああソウシさん、みっともないところを見せちまったね」

「そんなことはない。カルマは俺のパーティのメンバーだと自慢できる戦いだった。ただ最後のあの魔法はひっかけられた感じだったな」

「そうさね。最初避けさせたのも計算づくだったんだろうねぇ。悔しいけどそういう頭脳戦は苦手でさ。してやられたよ」

そう冷静に言いながらも、椅子に座ったカルマの身体は少し震えているようだった。

俺は少し悩んだが、カルマの肩を抱いてやることにした。それが年長者であり、リーダーの役目であると思ったのだ。

「最後、つい俺も叫んでしまったよ」

「あの首への一撃かい? 確かにあそこで剣を振りきられたら首が飛んでたかもねぇ」

「やめてくれ。想像もしたくない話だ」

「ははっ、ソウシさんがそんなに心配してくれるなら女として嬉しいよ」

「もちろんいつも心配はしているさ。ダンジョンでも何があるかはわからないからな」

「そうだね。闘技場だとソウシさんのスキルの効果がなくなっちまうみたいだから、ダンジョンとかだと大丈夫だけどね」

「ああ、そういうのもあるか。しかしカルマ、あの爆発の直前、一瞬動きが止まっただろう? あれは何かあったのか?」

「ああ、あれはね……」

言葉を一度止めたカルマは、眉を寄せ美しい顔を険しくした。

「あの時あいつの脇腹を斬っただろ? その時の手ごたえが、なんていうかこう、人間とか防具とかを斬った感じじゃなかったんだよ。すごくドロドロした、粘り気のある泥を斬ったような感じでさ。しかもその瞬間、すごく嫌な感じがしたんだ。それに気を取られちまった。間抜けな話だよ」

カルマはそこで俺に身体を預けてきた。やはりその身体がわずかに震えているのがわかる。もしかしたら首を斬られそうになったのより、その手応えの異常さが彼女の何かに触ったのかもしれない。

「……なるほどな。まあ明日は俺が戦う番になるし、その時に正体を暴くこともあるかもしれないな」

「やっぱり『冥府の燭台』って奴らなのかねぇ。前に教会で騒ぎがあった時は遠くで見ただけだったけど、もしあんな嫌な感じの奴らってのなら、ロクな奴らじゃないのは間違いないね」

「それは同感だ。いつかは正体を暴いて、全面的に叩き潰さないといけないのだろうな」

「ソウシさんならキレイに叩き潰して平らにしてくれそうだね。アタシも借りは返さないといけないし、もっと強くならないとね」

ニッと笑ってから、頭をごしごしと俺の胸に押し付けてくるカルマ。間近で見る彼女の虎の耳に、つい手が伸びそうになってしまったのはなぜだろうか。

「ソウシさんなら耳触っても構わないよ」

そうニヤけながら言われて、俺はあわてて手を引っ込めた。