軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ティルノーア先生の魔法教室2

「さて、そうしたらジャンルーカ殿下の質問に答えようねぇ」

ティルノーア先生はそう言って椅子にくるりと一回転しながらふわりと座った。ローブの裾が綺麗に広がった状態で椅子に収まっている。

それと同時に、ささっと前に出てきたマクシミリアンが、麦とカップと水差しを片付けて行く。普段から助手として真面目に働いていることがうかがえる。

「まず、体の大きい方が魔力を沢山保持できるというのは本当。魔力の受容量が人それぞれとは言え、それを納めておくのが自分の体であることは間違いないからねぇ」

ティルノーア先生はそう言ってバンバンと自分の胸を叩いた。そして少しむせた。強く叩きすぎたらしい。

「さっきの実験で見せたとおり、魔力の受容量は訓練することで増やす事ができるんだよねぇ。体の中に雑に存在している魔力を、整理して体の隅々まで流して行く事でより沢山の魔力を体にためられるようになるってわけ」

「それで、体の大きな人の方が魔力を多く保持出来るんですね」

ティルノーア先生の言葉に、ジャンルーカが大きく頷いている。

「そう! そして、魔力の保有に余裕が出来てくれば魔力そのものも多くなっていくよ。走る練習をすればかけっこが早くなったり、筋トレすれば筋肉が増えたりするのと一緒だね」

そこで、ティルノーア先生はチラリとエメリッヒを見た。エメリッヒはスティリッツの腕の中ですやすやと眠っている。

「産まれてくる子どもが、両親の特徴を継いでいるのは良くあることだよねぇ。髪の色は父似で瞳の色は母似だとか。眉毛の形は、耳の形は、体の丈夫さは、体の大きさは、爪の形は……。時には祖父母に似た特徴が出てくることもある」

今度は、ティルノーア先生の視線がジャンルーカへと向けられる。

ジャンルーカの産まれたサイリユウムは魔法のない国だが、何代か前にリムートブレイクから王家に嫁入りした人がいる。ジャンルーカの魔力は隔世遺伝じゃないかとジュリアンも言っていた。

「これは、魔力に関しても一緒なんだよね。魔力の受容量の大きさは父似、魔力量は母似。もしくはその逆だったりねぇ。ここで、魔力の受容量が少ない方に似て、魔力量は多い方に似た赤ちゃんが生まれると、魔力過多症になってしまう。一般的に貴族は魔力が多くて平民は魔力が少ないと言われているので、貴賤結婚した夫婦に魔力過多症の子が良く生まれると言われているんだねぇ」

その説明に、スティリッツがしょんぼりと肩を落とした。

スティリッツの実家は今は男爵家となっているが、元は平民の家だ。代々ネルグランディ領の領主直轄地を代官として管理している家なので、この辺りでは顔の知られている家なのだが、叙爵についてはずっと固辞していた。

息子のアーニーのやらかしとスティリッツの結婚という事情があったので、ようやく今代で男爵位を受け取った。出来たてほやほやの男爵家なのだ。

「そんな事情もあって、貴族達は魔力過多症の赤ん坊が生まれても隠すことが多いんだけど……実にもったいない! 魔力の受容量は訓練次第である程度までは増やす事ができるし、対処してあげればお母さんも抱っこできてニッコリ! 赤ん坊も愛情たっぷりでニッコリ! 未来の有望な魔法使いが生まれてボクたちもニッコリ! 良いことずくめなのに!」

大げさな身振り手振りで、ティルノーア先生が演説を始めてしまった。

自分の腕を振っていきおいをつけ、そのままぐるんと後ろを振り返ったティルノーア先生は、側に立っていたラトゥールを両手で指差した。

「ボクの優秀な弟子見習いは、多分生まれた時魔力過多症だったはずだよ」

「え!?」

「えええ?」

この言葉に、カインやディアーナといった魔法学園の生徒達は驚き、ネルグランディ城メンバーは何故驚くのか分からないといった表情で戸惑った。

「ラトゥールは子爵家の令息ですし、両親共に根っからの貴族だったはずです」

カインがそう言えば、ラトゥールもウンウンと勢いよく頷いている。

ラトゥールの家、シャンベリー子爵家は代々騎士を輩出している家系で、ラトゥールの上二人の兄も騎士になっていて、すぐ上の三男も騎士学校に通っている。

「棒ふ……騎士家系だろう?」

ティルノーア先生が棒振りと言おうとして、言い直した。さすがに、領の騎士団長と各部隊長がいる場では気を遣ったようだ。

「先祖代々騎士っていう家の人間は、魔力の受容量が少ない事が多いんだよねぇ。体を鍛えて剣術の練習ばっかりして、魔法の練習をしないからね! しかも先祖代々! 先ほども言ったけど、体力や筋力のように、魔力も魔力受容量も鍛えれば伸びる。だけど、逆に言えば何もしなければ衰えていくんだよ」

「じゃあ、ラトゥールは騎士の父に体が似て、他家から嫁いできた母に魔力量が似てしまった?」

「お母様なのか、祖父母なのか、はたまたずっと昔の先祖返りなのかは分からないけどね。ボクはラトゥールの父も一番上の兄も知ってるけど、顔付きや体の特徴はラトゥールとそっくりだ! でも、魔力は普通の騎士並しかないんだよね、彼らは」

そうであれば、ラトゥールが家で浮いていたのは騎士を目指さなかったからだけでなく、赤ん坊の頃に抱っこすると不快感があったから、というのもあるのかもしれない。

「ラトゥールは騎士としても才能あったものね」

ジャンルーカがティルノーア先生の後ろに立つラトゥールに向かってニッコリと微笑んだ。

先手必勝の奇襲作戦を使ったとは言え、ラトゥールは付け焼き刃の訓練だけで騎士学校に通う兄に勝っている。アルンディラーノもクリスも『ラトゥールは魔法剣の使い方が上手い』と褒めていたので、フィジカル的な特徴はしっかりと騎士家系から受け継いでいるのかもしれない。

「とにかく。魔力過多症なんて成長すれば自然と治まるものだし、将来有望な魔法使い候補なんだから、貴賤結婚の象徴だとか不義の子だとか、不名誉な印象付けるのホントーに迷惑なんだよね!」

ティルノーアが、腕を組んでプリプリ怒っている。

「エルグランダーク子爵令息とその奥方は、気にすること無く堂々とエメリッヒ君を育ててくださることを期待します! そして、出来る事なら領内の魔力過多症でお悩みのご家庭に手遊びで魔力循環を覚えさせることで、一時的にでも気持ちよく抱っこが出来る事を広めていただければ幸いでございます!」

プリプリと怒りながら、そんなことをいって座ったままガバリと頭を下げたティルノーア先生。

黙って聞いていた大人達が困惑した顔で近くに座る人と顔を見合わせていた。

「ティルノーア先生。あわよくば、それで将来有望な魔法使い候補につば付けとこうとか思ってませんか」

「カイン様は鋭いですねぇ~。魔法士団は平民出身者も大歓迎ですからね!」

ティルノーア先生が、カインに向かって一つウィンクをとばした後、カイン達の後ろに座っていた騎士団の各隊長達に向かって「大歓迎!」と腕を広げてアピールをしていた。

「そうか、そういった慣習として残る謂れのせいで不遇を強いられている魔法使い候補をスカウトするという手もあるのだな」

ジュリアンが思案顔でそんなことをつぶやいている。

ジャンルーカが留学から戻ったらサイリユウムにも魔法学校を作る、と言っていたのは冗談ではないようだ。

「将来有望な赤ん坊が国外に流出しないためにも、魔力過多症の誤解を解いていかないといけませんわね」

ジュリアンの独り言を聞いていたらしいディアーナが、カインの顔を見上げてそういった。