軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ティルノーア先生の魔法教室

「それでは、特別授業をはじめようじゃないか」

そう言ってティルノーアは手を広げ、室内をぐるりと見渡した。

場所は、西の離れから本城の小食堂へと移っている。

晩餐用の長いテーブルには、片側だけに人がずらりと並んで座り、その後ろにも椅子だけを持ち出して人が座っている状態である。

カインやディアーナと言った子守部屋に居たメンバーの他に、アルディやメイドの一部子守に携わっていた人や、騎士団の第一部隊から第四部隊までの各隊長もそろっていた。

「ここに、ガラスのカップと水差し、そして精麦済みの麦を用意したよ」

ティルノーアがそう言うと、マクシミリアンがテーブルの上にガラスのカップと水差し、そしてボウルに山盛りになった薄茶色い麦を並べていった。

ちゃんと弟子らしくティルノーアに従っている様子がうかがえて、カインも内心でホッと安堵のため息を吐いた。

「この、ガラスのカップと水差しが生まれたての赤ちゃんの体だとします。水差しは生まれた時のカイン様、ガラスのカップはエメリッヒ君だと思ってくれればよろしいでしょう」

「先生! お兄様は生まれたときそんなに大きくなかったと思います!」

ティルノーアの説明に、ディアーナがビシッと手を上げて質問をした。

水差しは隣に置かれたガラスのカップ三杯分ぐらいの水が入りそうな大きさだ。生まれた時の赤ん坊の大きさに個人差があるとはいえ、三倍も差が出る程のことなど無い。

エメリッヒも未熟児として生まれたわけではないので、なおさらである。

「さすがディアーナ様、良い質問ですねぇ。この水差しとカップは、肉体的な器の大きさではなく、魔力の器としての大きさだと思ってくれるかな。例えばホラ、体がすごく大きくて運動ができるけど魔力が少ない人もいるし、小柄なのに魔力が多い人もいるよねぇ? 魔力の受容量は体の大きさと比例しないんだよね」

「はい!先生」

「はい、ジャンルーカ殿下」

一緒になって話を聞いていたジャンルーカが、ディアーナにつられてビシッと手を上げた。

「魔力の受容量は体の大きさと比例しないとおっしゃいましたが、体が大きいほど魔力の保有量が増えるとも言われていますよね? 魔法使いが髪の毛を伸ばしているのもそれが理由だと聞いています」

ティルノーアもカインも髪の毛が長いし、ラトゥールもマクシミリアンも伸ばしている。

ネルグランディ城の魔道士も皆長髪で、三つ編みだったりポニーテールだったり色々なやりかたで髪の毛をまとめている。

カインは、魔法使いは髪の毛を伸ばすらしいと知って「ゲームのカインと髪型変えられるじゃん!」と思って、これ幸いと伸ばしただけで、より魔力を蓄えようと思ったわけではない。

「殿下も良い質問ですね。これについては後ほど説明しますねぇ」

ティルノーアは、ニコニコと機嫌良さそうにそう言うと、右手を麦の入ったボウルにガッとつっこんだ。

「この麦が魔力です」

説明しながら、掴んだ麦をカップに入れていく。最初の何粒かはカラカラとガラスにぶつかる音をさせていたが、その後ザザザっと一気に手のひらからこぼれおちていき、カップにいっぱいになった。

ティルノーアは更にひとつかみの麦をカップの上から落とし、麦はカップの上に山盛りになったあげく周りにもこぼれてしまった。

「器が小さいのに魔力が多いと、器の外にこぼれてしまう。これが、今のエメリッヒ君の状態ですねぇ」

体から漏れ出す魔力がエメリッヒを抱く人の体に触れ、魔力の波長が合わない人ほど不快感を感じるし、波長が似ている人でも同一で無い限りは違和感を感じる。それが魔力過多症の症状だと言っていたので、このこぼれた麦が人との接触を不快にさせている原因だということだろう。

「もちろん、魔力の受容量が大きければ麦はこぼれない」

ティルノーアは水差しの方にも麦を入れた。当然のことだが麦は水差しの三分の二ほどまでしか入らず、こぼれたりもしない。

「さてお立ち会い。この麦のこぼれたカップだけどね、こうすると……」

ティルノーアが、カップを少し持ち上げて落とした。持ち上げたのはほんのわずか、一センチもないぐらいなので割れたりもせず、トン、と軽い音をさせただけだった。

ティルノーアはそれを何度か繰り返していく。トン、トン、トン。すると、麦と麦の隙間が埋まっていき、山盛りになっていた麦がやがてカップの中へおさまっていく。

「ね? 収まったでしょう?」

ドヤ顔でティルノーアがガラスのカップを手で指し示す。

周りのこぼれてしまった麦はそのままだが、カップのフチより高くこんもりと盛り上がっていた麦はカップの高さまでさがっていた。

カインはこの現象を知っている。例えば植木鉢に土を入れたときも、鉢の横をトントンと叩いて土をさげる事があるし、カップケーキを焼くときに生地を入れたカップをトントンと落として空気を抜くのにも似ている。

前世、営業の一環で保育園や幼稚園の行事手伝いに参加したときにそういった体験をしたことがある。

これをやると、目が詰まるのだ。

「麦の粒が雑にバラバラに入っているとあふれちゃうけど、隙間を埋めて整列させてやればちゃんと収まる。同じように、魔力の流れを制御してうまく循環させることで、魔力は適切に流れて体の中にきちんと収まるってことだね!」

エヘンとティルノーアが胸を張る。

先ほどティルノーアにぶら下がる抱っこひもごとエメリッヒを抱いたカインが、不快感を感じなかったのはこのおかげだった。

ティルノーアは、エメリッヒと手押し相撲をしながら魔力の綱引きをすることで、魔力の流れを制御し、魔力が体から漏れるのを止めたのだ。