軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

なんで僕には友だちがいないんだろうか?

「僕は美少年!」

ブンッ

「僕は顔がいい!」

ブンッ

「僕はイケメン!」

ブンッ

「……何をしてるんですか」

早朝、エルグランダーク家の裏庭で、木刀を持ったカインが素振りをしていた。

変なかけ声をかけながら。

「なぁ、イルヴァレーノ。僕って美少年だよね」

「人に確認しなくてはならない様な何かがありましたか?」

「なんで、友だちができないんだと思う?」

「性格が悪いからでは?」

イルヴァレーノはカインにキメ顔で迫られると弱いが、それ以外の人間の容姿にはあまり興味が無い。

使用人仲間とコミュニケーションを取る時も、相手の容姿によって態度をかえる様な事は無い。

有能さと容姿の良さは比例しないと言うことも理解している為で、自分の仕事がスムーズに済むのであればそれ以外の事は割とどうでも良いと思っていた。

だからこそ「美少年なのに友だちができない」というカインの言葉が理解できなかった。

「……僕って、性格悪い?」

「自覚がなかったんですか?」

へにょんと眉毛を八の字にしたカインが、情けない声でイルヴァレーノにすがりつく。

イルヴァレーノは素っ気ない返事をしながら、すがりついてきたカインをぱっぱっと手で払う仕草をした。

「性格のよろしいお坊ちゃまは、怪我をして蹲っている子どもの肩を脱臼させて引きずったりしないんですよ」

「十年前の話じゃ無いか!」

「性格のよろしい令息は、妹を構い倒してお見合い相手を無視したりしないんですよ」

「うぐっ。あれは、ちゃんと謝ったし和解済みだよ!」

「性格のよろしい先輩は、後輩に家出させるために奇襲作戦を授けてその兄の自尊心をズタボロにしたりしないんですよ」

「うぐぐっ。あれはっ! 仕方が無いだろう!?」

「性格のよろしい主人は、侍従を置いて留学したりしないんですよ」

「……」

イルヴァレーノの言葉に、カインはがっくりと肩を落とした。留学から還ってきて一年と少し。

まだ根に持っていたのかと、ほとほと困った顔をしてイルヴァレーノの表情をうかがうようにして見上げた。

「イルヴァレーノも、実は僕のことが嫌いだったりする?」

「うっ」

肩を落とし、背中を丸め、腰をかがめた状態のカインはイルヴァレーノよりも頭の位置が低くなっている。その情けない体勢から、潤んだ瞳で上目遣いにイルヴァレーノを見つめ、徐々にその顔をイルヴァレーノに近づけていった。

「そ・う・い・う・と・こ・ろ・で・す!」

お互いの鼻先が付きそうになる前に、イルヴァレーノがアイアンクローでカインの顔面をガッと掴んで引き離した。

「自分の美貌を自覚して利用して相手を懐柔しようとする、そういう所が性格が悪いって言うんですよ!」

「いだいっいだいっ痛いっ! 分かったから、わかったからぁ~!」

ギリギリと親指と中指でこめかみを締め上げてくるイルヴァレーノの腕を、パンパンと平手で叩いて降参の意思表示をしながらカインが半泣きで離れて行く。

「うぅ……美少年、二十歳過ぎたらただの人って事なんだろうか。まだ十六だけど」

イルヴァレーノに無茶振りをする度に、壁ドンをしたり顎クイをしたりして照れている隙に言質を取るというズルをしていたカイン。それが効かない事に、ショックを受けていた。

「……。僕は、性格が悪いカイン様でも別に嫌いじゃないですけどね」

ぼそりと小声で言ったイルヴァレーノの言葉はしっかりとカインの耳に届いていたが、これ以上性格が悪いと言われても嫌なのでカインは黙っておくことにした。

しかし、ニヤニヤと顔がゆがむのが我慢ができなかったカインは、それに気がついたイルヴァレーノに後ろから尻を蹴られてしまったのだった。

「で、なんで早朝から素振りなんかやってるんですか」

「あー。ディアーナが学園で女の子だけの騎士団倶楽部を立ち上げようとしてるらしくてさ」

「女の子だけの騎士団倶楽部なら、カイン様の出番はありませんよ? また女装して参加するつもりですか?」

残念なものを見る目でイルヴァレーノがカインを見る。

「まぁ、人数が集まらなければ最終手段は女装なんだけどさ」

「……冗談で言ったのに」

「たぶん、ケイティアーノが頑張って参加してくると思うからひとりぼっちって事は無いと思うよ」

「……まぁ、あのご令嬢だったらありそうですが」

「それは良いとして、指導者がいないんだよ。ディアーナも学園の教師や放課後の補習に来てくれる騎士団員に声をかけたりするだろうけど、多分引き受けてくれないと思うんだよね」

今、リムートブレイク王国には女性騎士は一人も居ない。地方領地の自治組織に所属する女性や冒険者を生業としている女性は少なからず存在しているが、騎士、兵士と名の付く職業には女性は存在していない。

前例のない事に関わろうとするのは勇気のいることである。さらに、良家の令嬢に剣など教えて怪我をさせれば責任問題になりかねない。高位貴族の家から抗議されれば、騎士団を首になる可能性すら考えられる。

稽古中に怪我をしたとして、ディアーナが抗議したりはしないだろうけれど、そんなことは付き合いのない騎士にはわからないのだ。

「それで、カイン様が指導員になろうって事ですか?」

「まぁ、倶楽部立ち上げ当初の初心者講習ぐらいなら出来るんじゃないかなって思ってさ」

カインも、近衛騎士団に混ざって訓練を受けていたのは留学前までで、留学中はあまり剣の練習をしていなかった。

サイリユウムは騎士の国なので、訓練に参加していれば実力がグッと伸びた可能性はあったが、当時のカインは「魔法使い」として振る舞っていたので、積極的に参加したいと申し出たりはしなかったのだ。

それでも、ディアーナ以外の初めて剣を握るような令嬢相手であれば剣の基礎を教えることぐらいはできるだろう。

「自信満々で『教えるよ!』とか言っておいて、実際に剣を握ってみたらブランクでヘロヘロでした~なんてのはかっこ悪いじゃないか」

「だから、ディアーナ様と一緒にランニングする前に剣を振っているんですね」

「そう! なぜならばもう僕は学園に通えるから! 日中もディアーナと一緒に学園にいるから! コソ練出来るのはもう早朝だけだから!」

元々日課のランニングをするために早起きをしているのに、さらに早起きをして素振りをしているのだ。もはや、夜明けと同時ぐらいに起きていると言っても過言では無い。

なのに、ディアーナと一緒に学園に行ける事がうれしいのか、眠そうな様子も疲れた様子もなくカインはとても嬉しそうに笑っている。

「はぁ。まぁ、頑張ってください」

「イルヴァレーノも、ド魔学編入に向けて勉強がんばれよ」

イルヴァレーノはカインの侍従なので、カインが早起きするのであればイルヴァレーノも一緒に早起きすることになる。

早朝ランニングは一緒にやっているが、剣の素振りまで付き合う気はなかった。イルヴァレーノの得意武器は短剣や投げナイフなどの暗器なので、剣を振っても戦闘訓練にはならないのだ。

「……明日から参考書を持って来ることにします」

「うん。それがいいよ」

カインがにこやかに頷いたその時、後ろからディアーナの駆けてくる軽やかな足音が聞こえてきた。

「ランニングの時間だ」

木刀を片付け、振り向いたカインは大きく手を振りながら最愛の妹へと朝の挨拶をする。

「おはようディアーナ! 今日も可愛いね!」

「おはようございますお兄様! 今日こそお兄様より沢山走って見せますわよ!」

いつも通りの兄妹の挨拶を聞きながら、イルヴァレーノも一緒にはしる為に二人の後に付いて歩き出す。

朝日もだいぶ高く昇り、夏を感じさせる青い空が広がっていた。