軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

君なの? それとも、似てるだけ?

セレノスタが住み込みで働いているアクセサリー工房は、貴族達の住む区画と平民が住んでいる区画の間にある、商店や工房などが並ぶ区画の真ん中ほどに位置している。

貴族には、気の置けない友人同士のお茶会や庭園のお散歩などの普段使いに近い気楽なおしゃれ用のアクセサリーを求める店として人気で、平民からはここぞという時の最高のおしゃれ用のアクセサリーを求める店として人気がある。

そんな感じなので、貴族や貴族の使用人もやってくるが格式張っていたり気取ったりしているわけでもないが、平民もやってくるがカジュアル過ぎると言うこともない、なんというかちょうど良い感じの店なのだ。

表通りに面した部分が店になっていて、ぐるりと裏に回ると工房になっている作りだ。カインとディアーナは、今日は羽ペン作り体験をさせてもらう予定なので裏口から入ることになっている。

「ディアーナは、町娘っぽいシンプルなワンピースも似合うねぇ。可愛いねぇ」

「お兄様も、地味な色味のシャツとズボンを素敵に着こなされておりますわ」

今日はお忍びということで来ているので、平民っぽい服装をしてきている。さすがに、以前のように下着になって地面を転がるという事はしない。それをしようとするとまずサッシャに怒られてしまうからね。

ディアーナはフリルやレースやリボンがほとんど付いていない薄桃色のワンピースで、カインは白い長袖のシャツに焦げ茶のベストと七分パンツという姿である。見た目はとてもシンプルで地味なのだが、その生地の良さをみればわかる人には一目で高位貴族の子息令嬢であることはバレてしまう出で立ちであった。

「まぁ、工房にもエルグランダーク家のお嬢様とお坊ちゃまがお忍びで行く、と普通に通達してありますので、これは様式美というものでございますから」

そういってサッシャはディアーナのスカートのしわを伸ばす。貴族でござい! という格好で裏口から入る訳にはいかないとか、周りもわかっていても見て見ぬふりをする、といった世間体を保つための儀式のような物である。

そこそこに人気のアクセサリー店の裏側に回り、工房側の扉を開ければセレノスタが待っていた。

「お待ちしておりました、カイン様。ディアーナ様」

「やあ、セレノスタ。ひさしぶり」

「師匠! おひさしぶり!」

杖をつきながら立ち上がり、頭を下げたセレノスタに対して二人は気楽に挨拶を返す。

工房入ってすぐの部屋には、セレノスタの他にも二人の人間がいて、そのうちの大人の方も緊張しながら頭を下げていたのでカインは手で頭を上げるようにと促した。

さすがに貴族相手に工作の手ほどきをするとなると、子どもだけで作業させる訳にはいかない、ということで見守り役の大人の職人が一人付く事になったと説明を受けた。もっともである。

ただ、カインとディアーナ、そしてイルヴァレーノがセレノスタの友人であるということも考慮されていて、作業の手ほどきについてはセレノスタがやってくれると言うことだった。カイン達としても、その方が気楽で良い。

「そちらのお嬢さんは?」

監督役の職人の他にもう一人、ディアーナと同じぐらいの年の女の子がセレノスタの隣に立っていた。ピンク色のボブヘアに少し垂れ目気味のまんまるい愛らしい目。

カインは嫌な予感にキシキシと痛む胃を我慢しながらにこやかに少女について説明を求めた。

「あー……。アウロラという名前で、この工房に勤める職人の娘です。普段は週一ぐらいでセレノスタに計算や文字の読み書きを教えに来てくれてるんです。羽ペン作りに興味があるってことで、よければご一緒させてもらえませんか」

警備上の理由、身分差、お忍びである事、カインは頭の中でいくつもの断る理由を思い浮かべた。そしてそのどれもこれもが、セレノスタやイルヴァレーノを傷つける可能性だったり、ディアーナに不審がられる可能性が否定できなかった。

「もちろん、構いませんわ」

カインが答えないうちに、ディアーナが大きくうなずいている。

ディアーナを悪役令嬢にしないためには、ヒロインと接触させたくなかったカイン。しかし、優しく思いやりのある子になりますように、とディアーナを育ててきたカインは、まぁディアーナだったらそう言うだろうな、という思いもあって強く反対する事もできなかった。

まだ、このアウロラがヒロインであるとは決まったわけではない。多い訳ではないが、ピンク系の髪色の人間は世間には存在するのだ。ヒロインが世界で唯一というわけではない。

「ありがとうございます。けして、お邪魔はいたしません」

ディアーナに受け入れられたアウロラは、にこりとわらって礼儀正しくお辞儀をした。ディアーナほどではないが、愛らしい少女だとカインは思った。

ド魔学のヒロインにデフォルト名はない。カインは実況者名でプレイしていたので男名だった。

明らかに年上であるセレノスタに計算や文字の読み書きを教えているというアウロラは、平民であるにもかかわらず頭が良いのだろう。

しかし、父がアクセサリー職人だと言っていたので、私塾に通えていただけかもしれない。

桃色の髪の毛の頂点から愛らしいアホ毛が飛び出しているのがド魔学ヒロインと同じだが、今日はたまたま寝癖が直らなかっただけかもしれない。

ド魔学のヒロインとの類似点をみつけつつ、都度無理矢理否定してみるカインだった。

そんな風にカインに見られているとは思わないアウロラは、ディアーナに向かって下げていた頭を上げるとくるりと反転してカイン達に背中を向けた。

そして、こぶしを握りしめるとグッグッと肘を二回ほど引く動作をしていた。

「ヨシッヨシッ」

と小声で言っているのも聞こえてくる。

「……セレノスタ?」

「ちょっと変な子なんです」

セレノスタも、見守り役の職人も困ったような顔をしている。

やっぱり、ヒロインじゃないのかもしれないと、カインは小さく首をかしげた。