軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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数日後、青い羽がきれいな飾り彫りの施された箱に入ってエルグランダーク家へと届けられた。軸部分は磨かれて乳白色に光り、羽部分もピシッとまっすぐ整えられていた。うっすらと油か何かが塗られているのか抜けたばかりの時よりも光沢がありちょっと触ったぐらいでは毛羽立たないようになっていた。それでいて、手触りはとても柔らかい。

「良い羽ですね」

「うん!」

羽の入っていた飾り箱をそっと端によせながらサッシャが目をほそめれば、ディアーナが元気よく相づちを打つ。

「しかし、困ったね」

うれしそうなディアーナの姿を見て、同じように幸せそうに目尻を下げていたカインだったが、この後の事について考えると顔を曇らせた。

羽を手に入れたら、ペンに加工してもらうという約束をしていたメイドのデリナがもう居ないのだ。

「デリナさんもご高齢でしたから」

そもそもが、メイドのデリナが持っていた青い羽ペンをディアーナが欲しがったのが発端なのだが、当時ディアーナは四歳でデリナはすでにディアーナより大きな孫が居る年齢だったのだ。

去年の夏に老齢により引退していて、今は暖かい南の方の領地で細工師の息子と一緒に暮らしているという。

「羽ペン屋? 文房具屋に頼めば良いのかな? こういうのって」

「羽ペン屋や文房具屋はそれらを販売するのが商売ですから。お願いするなら工房でしょうか」

「できれば、デリナのご子息にお願いしたかったですわ」

ディアーナが残念そうな顔をしてそう漏らす。

デリナが引退するまでの間、顔を合わせる度にディアーナは「きっと青い羽を見つけるからね!」と指切りげんまんをしていたのである。

さすがに、エルグランダーク家の領地でもない土地に『羽ペンを作ってもらう』という理由だけで旅行する訳にはいかない。夏休みなのはカインだけなのである。

今のところ、南の方へと旅行をする理由はこじつけといえども思いつかないカインであった。

「職人ということであれば、セレノスタに頼んでみますか?」

ふと、思いついたようにイルヴァレーノが顔を上げた。セレノスタは、イルヴァレーノと同じ孤児院出身の男の子で、今は手先の器用さを見込まれてアクセサリー工房に住み込みで働いている。

セレノスタが木彫りの髪留めをディアーナとカインにプレゼントしてくれたのを見た母エリゼが、アクセサリー工房を紹介したのだ。そういった経緯があるので、セレノスタの働いているアクセサリー工房に仕事を頼むのは立場上も問題は無い。

「でも、セレノスタを呼びつけるわけにも行かないよな」

椅子に座ったまま、傍らに立つイルヴァレーノを見上げるように確認した。セレノスタは足が不自由なのだ。あまり歩き回らせる訳にもいかない。

「お忍びで、工房に遊びに行きましょう!」

パンっと元気よく手をたたいてディアーナが立ち上がった。

「その、セレノスタとやらが所属する工房はどこにあるのですか?」

サッシャが、立ち上がったディアーナの肩に手を置いてそっと座らせながら、イルヴァレーノへと声をかけた。

ディアーナも十歳になり、護衛と侍女を連れて行くのであれば街へと遊びに行くことが許されている。もちろん、範囲は貴族街近くの商店街といった安全な場所に限られているが、商人が家に持ち込むような母好みのレターセットではなく、カインが好きそうなレターセットを自分で選んで買えるのでディアーナは街での買い物が好きだった。

「南地区の商店街の中程です。平民にも貴族にも人気の店らしくて、ちょうど真ん中らへんにある」

イルヴァレーノの説明に、サッシャが自分のつま先を眺めながらしばし思案し、そして一つ頷いた。

「そのあたりでしたら、問題ないかと思います」

だからといって、今日いきなりいけるわけではない。ただ買い物にアクセサリ店へ行くだけなら約束などは必要ないが、工作をお願いしに行くのであれば向かうのは工房である。しかも、会いに行くのは見習いであるセレノスタなのだ。事前に約束を取り付けて、根回しをしておく必要がある。

完璧な侍女を目指すサッシャの、腕の見せ所といえる。

色々と調整をした結果、それから三日後に無事にアクセサリ工房へと向かうことが決まったのだった。

◇◇◇

「アウロラ先生。三日後はお客が来るから教えに来なくて良いよ」

教本にしている先輩職人の作った注文書の束をトントンと机でそろえながら、セレノスタが顔を上げた。

セレノスタと机を挟んで向かい側には、ピンク色のボブヘアに少し垂れ目の丸い瞳が愛らしい少女が座っている。

「誰が来るの?」

「孤児院の時の兄貴分だった人。あと、オレをこの工房に紹介してくれた貴族の人もくるよ」

「へぇ」

平民街で天才少女と名高いアウロラが、父に頼まれてセレノスタの読み書き計算の先生をし始めてもう六年近くになる。

セレノスタはすでに職人としては必要最低限な知識を身につけることが出来ているが、今はさらに注文書や企画書を見やすくわかりやすく書く方法などを教わっている。アウロラもこの世界の注文書や企画書に詳しいわけではないので最初は先輩職人と一緒に習っていたのだが、今はセレノスタと一緒により良いフォーマットにしようとしている所なのだ。

「お兄さんは良いけど、貴族の人は何しにくるの? 自分が紹介したセレノスタがちゃんとやってるか見張りに来るとか?」

アウロラが足をぷらぷらさせている。職人用の椅子は、十歳のアウロラにはちょっと大きい。

「羽ペンを作りに来るんだよ。好奇心旺盛なお方だからな、こちらにお任せってんじゃなくて自分で作ってみたいんだとさ」

お手本として借りていた注文書の束を箱にいれ、背後の壁に作り付けてある棚へとしまう。足の悪いセレノスタは、片手で杖をつきながらも器用に上の方の棚へと箱をしまっている。

「ふぅん。物好きなお貴族様もいるんだね」

アウロラはつまらなそうな顔をしている。

天才少女と名高いアウロラは、ここ最近貴族と引き合わされる事が多くなってきていた。会いに来る人たちは大概高圧的で偉そうで、アウロラは貴族が嫌いになっていた。

「カイン様とディアーナ様は貴族としては変わっていらっしゃるからな。イル兄だってカイン様に拾われたからあんな立派な……アウロラ?」

セレノスタの言葉で、アウロラは椅子からひっくり返るように落っこち、その勢いのままぐるぐると後転して行って壁にぶつかり、その壁にフックでぶら下げられていた作業用のミトンやパーツを分けて入れる為の真鍮の小さなボウルなどが落ちてきてアウロラの頭や肩にコーンといい音をさせながらぶつかっていく。

「だ、だいじょうぶか?」

杖をつきながら、よたよたと机を回り込んでアウロラに駆け寄ろうとするセレノスタ。アウロラは目がこぼれるのではないかと言うほど大きく見開き、アワアワと口が波打つように開いたり閉じたりしている。

「アウロラ?」

「いぃいいぃい、イル兄ってのは、もしかしてイル様?」

「何言ってんだ? イル兄は貴族じゃねぇよ。お貴族様の侍従やってるけど、様つけるような立場じゃないさ」

「じゃなくてじゃなくてじゃなくてさ、イル兄ってイル様っていうか、あれ、なんだっけ。ずっとイル様イル様言っていたから本名出てこなくなってるとかわたしウケるんですが? こう、アレだ! どれだ? ほら、イル様っていったらイル様じゃんか。察して? こう、ほら、あーと。そうだ、イル兄というのはどのような姿形をしている御仁でござるか?」

カラカラと転がるボウルを拾ってよけながら、セレノスタがまたかといった顔をしてアウロラの顔を見つめた。

「早口過ぎて何言ってるかわからないんだけど」

アウロラは、平民街で天才少女と呼ばれているが、同時に変人幼女としても有名なのだった。