軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪い王子様と可愛いお姫様

翌朝の朝食時、カインは母エリゼから「またカインばっかりディに頼られてズルイ!」と怒られ(?)、その3日後には刺繍枠が母から贈られた。

枠の外側に蔦と月と星が、内側には名前が彫刻された物で、カインは青、イルヴァレーノは赤い物をそれぞれ手渡された。

母エリゼは「道具を贈ったからといって刺繍への姿勢を認めたわけではありませんからね。王宮に行きたければ引き続き刺繍を頑張りなさい」と言っていた。

イルヴァレーノは、名前の入った自分だけのものを手に入れるのは初めてだと嬉しそうにしていた。隠していたが。

ディアーナは「にいさまとイルくんばっかり!ディのは!?」と自分の分が無いことに抗議していたが、母エリゼから「お兄様やイル君ぐらい一生懸命刺繍に取り組んだらディにも贈ります」と言われて刺繍にやる気を出し始めた。

そして、王妃主催の刺繍の会前日。カインは完成させた刺繍を母エリゼに見せた。

図案は、白と黒の狼が向かい合って遠吠えをしているところで背景に花と月も配置されている。

王家の紋章が二匹の狼なのでそれにちなんだ図案なのだろうが、紋章とは意匠が全然違うのでちなんだだけの課題としての図案なのだろう。

カインは、狼の毛並みを表現するように糸の流れを意識して刺繍していた。図案で指定されていなかったが、灰色や銀の糸で毛づやのハイライトも表現している。

月も左上を明るく、右下を暗くして陰影を表現し立体感を出している。

イルヴァレーノは単調な色使いで立体感や毛づやのハイライトなどは入っていないが、二月前までは針も持ったことが無いような子どもが図案すべてを埋めただけでもたいしたものだとエリゼはため息を付いた。

「仕方がないわね。明日はカインも王宮に連れて行きます。イルヴァレーノも侍従としてだけど付いてくる?」

エリゼはイルヴァレーノも行きたくて刺繍を頑張ったのかと考えたのだが、イルヴァレーノは「いいえ」と丁重に辞退した。

「イルヴァレーノは明日は里帰りです。僕が不在で身が空くので、先月の給金で土産を買って行くのだそうです」

「あら、そうなのね。そういえばお休みはちゃんと取っていたかしら?カインが離さないからって何でも言うことを聞いてはだめよ。ちゃんと休みは取りなさいね」

エリゼの心遣いに感謝して頷きつつ、カインの発言に「なんで言うんだよ」という無言の抗議をイルヴァレーノは視線で送ったが無視された。

カインの意図は翌日、孤児院に向かう際に判明するが今はただのおしゃべり野郎にしかおもえなかった。

ディアーナも、ランニングステッチ、バックステッチ、チェーンステッチの3つのステッチを覚えてりんごやサクランボなどの単純な図柄を描いて塗りつぶすことが出来るようになっていた。

それについても、やはり母エリゼから苦言を言われたカインだが「名選手名監督にあらずですよ」とよくわからない慰めをしていた。

「ディアーナ。明日行く王宮では、兄様から離れてはいけないよ。悪逆非道の悪い王子様がディアーナを食べようと待ちかまえているんだ」

「わるいおうじさま!?」

「カインっ!何てこと言うの!」

「ディアーナの可愛らしさの前には、世の中のすべての男が欲望に心を乗っ取られ理性を失い暴徒と化しても不思議ではありません」

「……カインは、どうしてこうなのかしら…。明日は、王子殿下だけではなく同じ年頃の子たちが男女関係なく連れてこられるのです。ちゃんと皆と仲良くなさい」

エリゼが額を押さえて頭を振る。

カインがディアーナを溺愛しているのは以前からだが、こんなではなかったはずだ。孤児院で同じ年頃の子たち、女の子だけでなく男の子も含めて友達になったときにはそんなに拒絶反応を示していなかったはずなのに、とエリゼはこめかみを揉む。

もともと刺繍の会にあわせて、王太子のお嫁さん候補と顔を合わせておこうと言うのが最初だったのはカインの思った通りだった。刺繍の会の参加者が侯爵家以上という縛りがあるので、わざわざそのためのお茶会などを開くよりも身元のしっかりした娘だけを集めることが出来るし非公式な集まりなので伯爵以下の家から文句を言われる事もないので都合が良かったのだ。

ただ、その年頃の女の子が集まるなら、ウチの息子や孫のお嫁さん候補にもなるじゃないかと、男の子も連れてきたいとの意見もでたため、結局男女問わず3歳~5歳くらいの子を連れて来ても良いと言うことになった。

「ディ。ディアーナ。明日は、同じくらいの年の子が沢山来ます。お友達になれるように、ちゃんと挨拶をして仲良くするのよ。悪い王子様なんていないのよ」

「お友だち!いしはじきする!?つよいいしひろいに行く?」

石はじきは、孤児院の子たちに教わった遊びだ。貴族の子たちはやらないだろう。

「明日は室内だから、石はじきはやらないわ。みんなにディの頑張った刺繍を見て貰いましょうね」

「いしはじきしないの…」

カインは、あれ以降3回ほど孤児院に行ってるがディアーナは一度も行っていない。両親から外出許可が出ないからだ。

4歳のディアーナは両親不在での外出はまだできない。カインも護衛の騎士に空きがある時でないと出かけることはできないが、ディアーナよりは自由度が高かった。男の子と女の子の差もあるだろうが、カインの発言や行動に子どもらしさが薄いのも理由かもしれなかった。

「カイン。あなたはオマケなのだから明日は大人しくしていなさい。刺繍に興味があると言うから連れて行くのですからね。ディアーナにばかり構う様だったら途中でも追い返しますからね」

エリゼが厳しい顔でビシリと人差し指を突きつけてきた。

ディアーナと王太子の逢瀬を邪魔する気で参加を申し出た事は母にはお見通しで、釘を刺されてしまったカイン。しかし、そもそも連れて行ってもらえなければ現場の様子すらわからなくなってしまうので頷くしかなかった。

「承知しております、お母様」

渋々、苦渋、致し方なくというのがありありと浮かんだ顔で承諾するカインに、母エリゼは不安しか感じられなかった。