軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98.ひと時の休息

時間は少し遡る。

西野は柴田たちと共に、学校付近のコンビニに来ていた。

「いやぁ、まだ食い物が残ってて良かったっすね」

「そうだな。正直、助かった」

お茶の入ったペットボトルに口をつけながら、西野は頷く。

サラダや弁当などの生鮮食品はかなり傷んでいたが、缶詰や真空パック、菓子などは問題なく食べる事が出来た。

店内を見れば、彼の仲間も床に座り、ガツガツと食事を続けている。

そんなに慌てなくても、食い物は逃げたりしないのだが、まあ仕方あるまい。

なにせ、ここ数日まともに食事をしていなかったのだ。

西野も含め、彼のグループは現在十人に満たないが、それでもその人数の腹を満たすとなると結構な量になる。

特に西野や彼の仲間は、育ち盛り食い盛りの高校生だ。

空腹だって人一倍感じるだろう。

ホームセンターでも、学校でも常に食料はギリギリだったし、このコンビニに手つかずの物資が残されていたのは、正に『幸運』だった。

(さて、どうしたもんかな……)

コンビニ限定味のポテトチップを摘まみながら、西野はこれからの事について考える。

これからどこへ向かうべきか?

どう行動すべきか?

(人が集まってそうな場所。ここから一番近いのは市役所か。やはりそこへ向かってみるか……)

逸れた仲間を探すのならば、先ずはやはり人の集まりそうな場所から探すのは鉄則。

それにスキル持ちの自分達ならば、戦力としても歓迎されるだろう。

慣れ合うつもりはないが、共闘関係は結んでおいて損はないだろう。

―――ただ一つの懸念を除いては。

(もし彼女―――五十嵐会長のように『洗脳』系のスキルを持っている奴がいたら厄介だな……)

現在、西野は十香の『魅了』から解放されていた。

五十嵐十香の『魅了』のスキルには時間制限があるからだ。

定期的に状態を『上書き』しなければ、その効果はリセットされてしまう。

それを補う為、彼女は学校の中で定期的に話し合いの場を設け、周りに気付かれる事無くスキルの効果を持続していたのだが、それもモンスターの襲撃によって意味を失った。

西野は本来の思考を取り戻し、同時に彼は学校での自分の言動を思い出し、彼女に『洗脳』されていた事を、確信したのだ。

(我ながらなんて間抜けさだ……)

やはりどこか焦っていたのかもしれない。

仲間と逸れた事は、予想以上に自分の心を揺さぶっていたらしい。

これでは六花のことも笑えない。

彼自身も『そういうスキル』を持っているのだから、他人が―――ましてや一介の女子高生が、あれ程の人数を取り仕切っている事に、少しは疑問を持つべきだった。

迂闊にもほどが有る。

(耐性スキル。もしくは、洗脳されたとしてもそれを『解除』する事が出来るスキルが必要だな……)

洗脳対策。

また誰かに洗脳されることを、彼は非常に危惧していた。

彼だけじゃない。彼の仲間もだ。

洗脳され、誰かの使い捨ての駒にされるような末路だけは真っ平ごめんだ。

かつてホームセンターで、ハイ・オークたちに襲われた際、避難民を切り捨てる選択をした彼だからこそ、その可能性や怖さを十分に理解していた。

(もしくは、俺たちだけでひたすらレベルを上げて、どこかに拠点を据えるのも手か……?)

無理に人手を増やさず、地道にレベルを上げる。

その後で拠点を作り、きちんと『選別』して仲間を募る。

その方がこの世界で生き抜くためには効率的ではないだろうか?

(……有りだな)

仲間と他人。

拾うべき命と、捨てる命。

彼にとって命の重さは平等ではない。

利用できるモノは何でも利用するし、守るべきものは命を懸けてでも守り通す。

今の世界では、それが如実に試されている。

(つくづくクソッ垂れな世界だ……)

スキルが無ければモンスターと戦えない。

だがスキルがあるからこそ、他の人間たちも警戒しなければならない。

心の中で悪態をついていると、不意に視線を感じた。

柴田が不安そうな顔で、自分を見ていた。

「どうしたんっすか、西野さん?怖い顔して」

「ん?ああ、すまない。ちょっと考え事をしていてな」

「考え事―――それって、これからの事とかっすか?」

「ああ、それもあるし、六花や大野たちのこともな……」

スナック菓子を口に放る。

舌が辛くなるほど濃い味付けだ。あまり好きじゃないが贅沢は言えない。

それをお茶で洗い流し、口の中をリセットする。

「……みんな無事だといいっすね」

「生きてるさ、絶対に」

少なくとも六花と大野はなと、彼は心の中で付け足す。

西野は、この二人に関してだけは、その生存を疑っていない。

六花は彼らの中で最も強かったし、大野は気弱なのが玉に傷だが、『生き延びる』という点に関してだけなら文句のつけようがない。

(まあ、他の奴らは多少不安が残るけど……)

それはここで言うべき事でもない。

無意味に仲間を不安にさせる必要はないのだ。

「さて、そろそろ移動するか……」

そう思い、立ち上がろうとした瞬間だった。

≪―――メールを受信しました≫

西野の頭の中に声が響いた。

「……は?」

メール……?

なんだ今の声は?

西野は一瞬、混乱し周囲を見回す。

「どうしたんっすか?」

「いや……」

≪一定条件を満たしました≫

≪スキル『メール』が獲得可能になりました≫

≪現在未読のメールは一件です≫

まただ。

また頭の中に声が響いた。

「ッ……」

西野は慌ててステータス画面をチェックする。

すると、ステータス画面が、メール用のモノへと変化する。

その変化に目を見張りつつも、一つ一つ項目を確認してゆく。

隣で柴田が心配そうな顔でこちらを見ているが、気にしている余裕はない。

やがて『未読』という項目を発見し、そこをクリックする。

(宛名『アイサカ リッカ』?……リッカ―――六花だと!?)

その名前を見た瞬間、彼は血相を変える。

探し求めていた彼の仲間の名だ。

(本人か?それとも別人……?)

すぐさま本文へと目を通した。

『やっほー、ニッシー。ちゃんと生きてるー?六花だよー!(o^∇^o)ノ

いきなりメールしてごめんねー。びっくりしたっしょ?(・ω<)てへぺろ

これ『メール』ってスキルなんだってさ。

そちらはちゃんと無事ですか?

マジ心配です。

あ、ちなみに私はこの通り元気だよーv(。・ω・。)ィェィ♪』

「………………」

そしてすぐに、顔から表情が消えた。

隣で柴田が「ヒェッ」と声を上げる。

(……駄目だ。耐えろ。耐えるんだ)

六花が無事だった事の安心感とか、『メール』というスキルについてとか……ホントもう色々あるのに、この頭の悪い出だしで全てを台無しにされたような気分になってしまう。

深く深呼吸し、眉間を軽く親指で押す。

落ち着け。落ち着くんだ自分。

色々とこみあげてくる感情を押さえつけて、西野は一通り文章を読んだ。

(なるほどな……)

冒頭のふざけた部分を抜かせば、中身は存外まともな内容であった。

六花の現状や、『メール』というスキルの事、可能であればメールを取得して自分へ連絡をしてほしいと書かれていた。

更に『魔石』や野生動物に関する新たな情報など、西野にとって驚くべき内容も記載されていた。

(少なくとも、このメールを送ったのは六花本人だろう。それは間違いない)

この緊迫した状況下で、こんなイラっとする顔文字を使う人間なんて他に居ない。

少なくとも六花は生きている。

そして自分とコンタクトを取ろうとしている。

だが、と西野は考える。

(協力者は誰だ?)

すぐさま彼はその考察に至った。

身もふたもない言い方になるが、六花は馬鹿だ。

いつも考えが足りず、言葉が足りず、口より先に体が動くタイプの人間だ。

そんな彼女に、これだけの情報量を正確に、それも分かりやすい文章にして自分へ送るなんて出来るはずがない。

誰か協力者がいる。

頭の足りないあの少女の代わりに文章を考え、自分に送れと指示した協力者が。

それは誰か?

可能性として考えられるのは、学校に居た生徒会メンバー、逸れた自分の仲間。

そして―――

(一之瀬 奈津、か?)

食堂での戦闘。

それが始まる前に、六花が見せた不審な動き。

あの時、六花は確か『メール』、『ナッつん』と呟いていたはずだ。

(あの時の六花は明らかにおかしかった……)

いや、それ以前から六花は一之瀬の存在を気にしていた。

食堂での独断専行も、彼女を追っての行動と考えれば納得出来る。

(だとすれば、あの戦いの後、六花は一之瀬と合流したのか?そして、一之瀬は六花に『メール』のスキルの詳細を教え、俺に送った……?)

顎に手を当て、西野は考える。

少し強引な推測だろうか?

(確実に間違いないのは、六花が誰かほかの人物と共に行動しているという事くらいか。となれば―――)

素早くステータスプレートを操作し、スキルの追加獲得可能一覧を開く。

その一番下に『メール』が追加されていた。

「―――柴田」

「なんっすか、西野さん?」

「新しいスキルを取得したんだが、試してみたい。協力してくれないか?」

「え?あ、はい。いいっすけど、どんなスキルなんです?」

西野はにやりと笑い、

「―――『メール』だ」

どちらにしても、このスキルは取得しておいて損はない。

今の世界を考えれば、このスキルの価値は計り知れないのだから。