軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

96.彼女のスキル

さてと。

警戒すべき点がまた一つ増えたが、先ずは目の前の事を一つ一つこなしていこう。

さしあたっては、西野君へのメールの件だ。

「先ずは、西野君に相坂さんが無事だと言う事を伝えましょう」

「ほいほい、りょーかい」

ポチポチと六花ちゃんはメール画面を操作する。

流石現役のJK。メールを打つ動作が速い。

「それと『メール』についての詳細や、相坂さんの現在の状況、可能であれば『メール』を取得して貰い、こちらへ返信して貰うよう内容を記載してください」

「……クドウさん、それと魔石や野生動物たちの情報も入れておいた方がいいんじゃないですか?」

「ああ、確かにそうですね。相坂さんそれも追加で」

「え、あ、うん。ちょ、ちょっと待って、いっぺんに言わないで。今打つから。……えっと―――」

その後、メールにした文章を西野君ではなく、一旦イチノセさんに送信して貰う。

ステータス画面同様、メール画面も他人からは見えないからな。

読み上げるか、別の第三者に送信するか以外、確認する方法がない。

「……うん、これなら多分大丈夫かな……」

メールの鬼イチノセさんのオッケーも出たので、西野君へ送信して貰った。

「ちゃんと信じて貰えるかなー?ニッシーってアレで結構疑り深い性格だし……」

メールを送る六花ちゃんはやや不安げだ。

「たぶん大丈夫でしょう。西野君は食堂で相坂さんが『メール』を受信したのを見ています。それに西野君や相坂さんにしか分からない情報をいくつか載せておけば、彼なら信じてくれますよ」

逆に警戒して罠かもしれないと思う可能性も無いとは言えないが、西野君なら大丈夫だろう。

現実主義者っぽいけど、仲間の事は大事にしている節があった。

それに彼や彼のグループにとって、六花ちゃんは主戦力。

『切り捨てる』には惜しい人材のはずだ。

必ずコンタクトを取る。

ただ、懸念なのはスキルポイントが余っていないとメールは取得できないって事か。

西野君が余分にポイントを持っていればいいけど……。

「それじゃあ、移動しましょうか。あまりここに長居はしたくないので」

「わんっ」

「……そうですね」

俺の言葉に、モモが頷き、イチノセさんが立ち上がる。

「えっ?返事が来るまで、ここで待ってるんじゃないの?」

一方で六花ちゃんは、首を傾げている。

「さきほど言ったでしょう?いつモンスターが戻って来るかも分からない状況で、ここに留まるのは危険なんです」

正確に言えば、あのダーク・ウルフが戻ってくることが、だ。

今の俺たちならば、ゴブリンやオーク、ゾンビ程度なら群れで来たとしてもなんとかなるが、あのダーク・ウルフだけは話が別だ。

もしヤツが気まぐれを起こし、再び俺たちを襲ってくるならば、今の俺たちに抗うすべはない。

とはいえ、その可能性は低いだろうと、俺は思っていた。

殺すつもりなら、最初の時点で殺しているだろうし、わざわざ一晩かけて俺たちの回復を待つ必要もない。

見逃された理由は未だに分からない。

ハイ・オークの時のように、俺たちと戦う事が自分の不利になる様な状況でも無かったし、まだまだ余力は残しているように思えた。

本当にただの気まぐれなのか、それとも何か『理由』があるのか……。

「……」

ちらりと俺はモモを見る。

モモは俺の視線に気付いたのか、近づいてきて足元にすり寄った。

可愛い。モフモフする。

俺が見逃された理由も、モモを連れ去らなかった理由も無関係じゃないのだろう。

モモには何かあるのだ。

あのダーク・ウルフに狙われるだけの『何か』が。

「ッ……」

ふざけるな。

そんなの冗談じゃない。

誰があんなモンスターなんぞに、モモをくれてやるものか。

今度こそ、絶対にモモを守ってみせる。

だからこそ、やるべき事はシンプルだ。

再びアイツと出会うまでに少しでもレベルを上げ、強くなる事。

それだけだ。

モモを撫でつつ、俺は心の中で改めてそう決意した。

「ああ、そうだ。移動する前に、一つ確認しておきたかったのですが」

「ん?なに?」

俺に声をかけられて、六花ちゃんがこちらを向く。

「宜しければ、相坂さんのレベルや職業、スキルについて教えて頂けませんか?一時的にとはいえ、パーティーを組むのです。お互いの能力について知っておいた方が動きやすいでしょう」

「確かに私もリっちゃんの選んだ職業気になるかも」

「え、あー……うん、そだよね」

するとなぜか六花ちゃんは僅かに渋い顔をした。

「……私は選んだのは、その―――『狂戦士』って職業なんだ。『狂化』ってスキルがあって、それを使用すれば、戦う時にすっごく強くなるんだよ」

予想はしていたが、やっぱりそうか。

「今の私のレベルは12。『狂化』の他のスキルは、『勇猛』、『戦闘続行』、『斬撃強化』、『打撃強化』、『肉体再生』、それと―――」

「それと?」

「……えっと、あ……それと今取得した『メール』だね。それで全部だよ」

成程。『狂戦士』に相応しいスキル構成だな。

やっぱりあの異常な傷の治りの速さは『肉体再生』ってスキルだったのか。

便利だな。俺も欲しいなそのスキル。

「んで、ナッつんはどんな職業選んだの?銃持ってるし、やっぱ狙撃手?かっこいいなー」

「あー……、えっと違うのリっちゃん、私が最初に選んだのは―――」

言いにくそうに、イチノセさんは自分の職業やスキル、そしてレベルについて説明する。

『引き籠り』を選んだと聞いた時、六花ちゃんは妙に複雑な表情を浮かべていた。「……私の所為だよね」という六花ちゃんに対し、「もう気にしてないし、済んだことだよ」とイチノセさんが言う。すると六花ちゃんは「うん、ありがと」となにやら二人にしか分からないやり取りをしていた。

気になるけれど、俺がずかずか踏み込んでいい事情じゃないだろう。

あえて聞きはしないし、もし話したくなったのならその時話してくれればいい。

それとイチノセさんは、『ガチャ』で手に入れた新しいジョブやスキルについても教えてくれた。

『引き籠り』や『狙撃手』の弱点を補う凄く良い能力だった。

やっぱ、この子、ガチャの運が異常に良い気がする。

欲しい時に回復薬が出たり、俺みたいに職業カンストしなくても、第二、第三のジョブを手に入れてるし。『幸運』みたいなスキルでも持ってるんじゃないかと思ってしまう程だ。

それと六花ちゃんはイチノセさんのレベルを聞いた時にはかなり驚いていた。

まあ、イチノセさんのレベルは23だからな。

六花ちゃんの倍近くある。

「……ナッつんぱない」と小さく感想を漏らしていた。

俺も自分のレベルや、『忍者』や『影法師』など、教えても問題ない範囲の職業やスキルを六花ちゃんに伝えた。

仮にアイテムボックスによる攻撃を行っても、『忍術』って事で誤魔化せるだろうし、イチノセさんにも口裏は合せて貰う。これは彼女も同意の上だ。

俺はまだ彼女の全てを信用したわけじゃないし。

それとモモやアカのスキルについても説明した。

アカの能力を聞いた時の六花ちゃんの感想は「……スライムぱない」であった。

「では、これからしばらくの間、よろしくお願いします」

「うん、こっちこそ、よろしくね、おにーさん!」

お互いに手を取り、握手をする。

ちなみに、六花ちゃんはパーティーメンバーではない。

西野君たちと既にパーティーを組んでいるからだ。

本音を言えば、きっとイチノセさんとパーティーを組みたいのだろうが、それは西野君たちと合流してから決めた方がいいだろう。

それに、そもそもパーティーを脱退する方法が分からないし。

さて、それじゃあ移動しようか。

ボロボロになった昇降口から外に出る。

「改めて見ると、本当に酷い光景だよね……」

ぽつりと六花ちゃんが漏らす。

校舎内はどこもかしこも滅茶苦茶になっていたが、外に出てもそれは変わらない。

校庭に設置されたテントや天幕も壊され、あちこちに死体が転がり、カラスが群がっている。血の匂いも酷い。

この四日間でだいぶ慣れたとはいえ、やはり見ていて気持ちのいい光景ではない。

(死体はアイテムボックスに入んないしな……)

理屈は不明だが、生物同様死体もアイテムボックスには入らない。

『物』ではなく、『者』だからか、それとも天の声の基準が違うからか、そこは分からないが、死体はアイテムボックスに入らない。

病原菌の温床にもなるし、本当なら火葬でもしてなんとかしたいけど、人一人を燃やすには相当な火力がいるし、時間もかかる。

今はその手間が惜しい。

「そうですね」としか、返す事が出来ず、俺たちはそのまま学校を後にした。

ただ、この時の俺は気付いていなかった。

死体を見つめる六花ちゃんの瞳。

そこには、悲しみや憐憫といった感情の他に、もっと別の感情が入り混じっていたことに。

(嘘、ついちゃったな……)

六花は心の中でそう嘆息する。

いや、嘘はついていない。

正確に言えば、ただ伝えていないだけだ。

彼女の持つスキル。

それは先程話したモノで、全てではない。

スキル画面の一番下。

そこには、もう一つ彼女の持ってるスキルが記載されている。

―――『同族殺し』。

このスキルの事だけは言えなかった。

(言えるわけ……ないじゃんか)

やっと再会した親友。

その彼女に、こんな忌まわしいスキルの事など、どうして言うことが出来ようか。

(ごめんね、ナッつん。でも……今度は必ず私が守るから)

再会は果たした。

喜びもした。

でもまだ、六花の心には淀みが残っていた。