軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

217.修行パートはサクサクと

「いやー、ごめんごめん。ついつい張り切りすぎちゃったわ」

テヘペロっとリベルさんが頭に手を添えながら謝罪する。

この人、全然悪いと思ってないわ。

「はぁ……勘弁して下さいよ。訓練の度にこれじゃあこっちの身が持ちません」

「持たないのは体じゃなくて服の方じゃないの?」

ちらりとリベルさんは影から出てきた五十嵐さんの方を見る。

「ッ……!」

カァっと五十嵐さんの顔が赤くなる。

彼女はいつもの制服ではなくジャージを着ていた。

影に入った時は制服だったけど、今はジャージに着替えてる。

……理由は彼女の名誉の為に言わないでおこう。

「まあ、冗談はさておき、正直、このくらいは慣れて貰わないと困るわね。先遣隊や六王クラスとの戦闘はこれくらいの圧に耐えれないと話にならないもの」

リベルさんの視線の先には、一之瀬さん、六花ちゃん、西野君がいる。

全員、表情がこわばり冷や汗をかいている。

多少抑えてたとはいえ、まだまだ耐えるのは難しそうだ。

「とりあえずアンタ以外の四人は私の圧に慣れることから始めるしかないわね」

「ですね。……あれ? それじゃあ、俺は?」

「勿論、同時進行で行くわよ。時間は無駄に出来ないもの」

トントンと、リベルさんは踵の先で地面を叩く。

屈伸や手を伸ばしたりして、何度か体の具合を確かめてから、俺の方を見た。

「――死んじゃ駄目よ、カズト」

次の瞬間――彼女の姿が消えた。

「ッ……!」

反射的に俺はアイテムボックスから忍具作成で作ったクナイを取り出し、背後に迫っていた彼女の攻撃を弾いた。

「良い反応ね」

「ぐっ……!」

いつの間にか、彼女の手には杖が握られていた。

以前、俺が預かっていた『賢者の杖』だ。

スキルやステータスを向上させるバフが山のように搭載された最強の武器。

(魔術師用の武器だけど、リベルさんが使えば文字通り別格だな)

空気が重い。

息をするのも辛い。

全神経を集中させ、目の前の相手だけに集中する。

そうしなければ、あっという間に死んでしまうと思わせる程の 威圧感(プレッシャー) 。

……これ、本当に訓練だよな?

殺しに来てないか?

「勿論、殺すつもりでようやく訓練よ」

こっちの心を読んだかのような言葉。

「読み易い、読み易い。簡単に分かるわよ、カズト分かりやすいもの」

他の人にも言われたな。俺そんな分かりやすいのか?

リベルさんはくるりと杖を器用に片手で回転させ、クナイをいなし、次いで柄の部分で俺の足を払おうとする。

反射的に俺はそれを避けようとして、

「はい、減点」

「――!?」

一気にリベルさんに距離を詰められ、掌底で顎を強かに撃ちつけられた。

「武器に意識を集中させ過ぎ。相手の動きの全体を視なさい」

ぐわん、と脳が揺れる。

や……ばい、意識を、足を動かさないと――。

「わんっ!」

次の瞬間、モモが『影』を使って、リベルさんの動きを阻害しようとして、

「ふんっ」

「わぉんっ!?」

あっさりと『影』を引き千切られた。

「当たり前でしょ。ステータスの差を考えれば、この程度で拘束できるわけないでしょ」

そのまま、モモにカウンターを喰らわせようとするが、

「――でも、流石、モモちゃんね」

地面を蹴り、俺たちから距離を取った。

どうしてだ?

揺れる視界で何とかモモの方を見る。

それで気付いた。

モモの体が僅かに光っていたのだ。

「キキちゃんの『反射』ね。拘束を千切られ反撃される事も予想して、事前に仕込んでいた訳か。……ねえ、カズト。もしかしてモモちゃんってアンタより賢いんじゃない?」

「……否定できない自分がいますね」

正直、モモの戦闘センスは俺よりも凄いと思う。

頭も良いし、モフモフしてるし、ホント最高です、ありがとうございます。

『我モ忘レテ貰ッテハ困ルナ』

刹那――ソラの尾がリベルさんに叩きつけられた。

轟ッと土煙が舞う。

『フハハハハ! 死ネ! 死ンデシマエーーー!』

……ソラの奴、これが訓練だって忘れてないか?

日頃のうっぷんを晴らすかのように、執拗にリベルさんを叩き続けている。

その破壊の余波で、周囲の景色が瞬く間に変えられてゆく。

「あぅ……」

「ナッつん、私の後ろに隠れて! ニッシーもしっかり掴まっててよっ」

「あ、あぁ……」

ちらりと後ろを見れば、六花ちゃんが二人を守る様に構えていた。

額には光る角が顕現し、褐色の肌には幾何学的な紋様が浮かび上がっている。

鬼人に進化した六花ちゃんの固有スキル――『鬼化』だ。

戦闘能力が爆発的に上昇している筈だが、その表情は優れない。

覆しがたい力の差を感じているのだろう。

巻き込まれない様に立ち回るだけで精一杯なのだ。

「それでいいのよ。今はまだその程度でも、その悔しさが今後のバネになる」

「うぉっ!?」

いつの間にか隣に居たリベルさんに俺は再び驚愕する。

『ヌ、何時ノ間ニ――』

「いや、そのくらい気づきなさいよ……」

とんっと地面を蹴って、空中を舞い、ソラと距離を詰めたリベルさんは、手に持った杖を大きく振りかぶり――

「えいっ」

『ゴガァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!』

空気が割れる音と共に、ソラを思いっきり殴り飛ばしたのだった。

「干し草ばっか食べて鈍ってるんじゃないの? フランメなら簡単に避けてカウンター放ってたわよ?」

『貴様ガ我ガ夫の名ヲ口ニするなあああああああああああああ!』

すぐさま起き上がり、大きく口を開けるソラ。

おい、ちょっと待て。

お前まさか、ここでブレスを放つつもりか。

てかその位置だと、俺たちまで巻き込まれるんだけど!?

「思念通話の熟練度が上がったみたいね。ちょっとだけ流暢になってるわよ」

『喰らエ! この――』

カッと光が瞬き、ソラの口からブレスが発射される。

だが、その直前に、

「ほい、落石」

リベルさんはソラの頭上に巨大な岩を発生させた。

それは真っ直ぐ下に落下し、ソラの頭に命中し――、

『あがっ――あ……アギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?』

強制的にソラの口を閉じさせ、ブレスを暴発させた。

ボフッと黒煙を吐き、ソラはそのまま気絶する。

「……アレ、死んでませんよね?」

「大丈夫でしょ、多分」

多分ってアンタ……。

「竜ってブレスを撃つ瞬間、体が硬直するのよ。だからその瞬間に、口を閉じさせればこんな感じに勝手に自滅してくれるの。向こうの世界じゃ、割とよく知られてる手段よ」

そうなんだ……。

「とはいえ、タイミングを見誤れば、相手のブレスを喰らって即死だからレベルの低い奴じゃ、真似したところで死ぬのが落ちよ」

「怖いですね。真似できそうにないな……」

「何言ってんのよ、アンタならこのくらい楽勝でしょ?」

「いや、無理でしょ……」

首を横に振る俺に対し、リベルさんは納得のいかないような顔をする。

「……? この国の人間って妙に謙虚よね? 出来る事を出来ないようにふるまうのが美徳みたいな価値観でもあるの?」

「いや、そういうのは……ある、かも……です」

特に社会人は。

なんというか、出来て当たり前なんだけど、それを出しちゃいけない空気感があるっていうか……。ちょっと得意顔になればすぐにイキってるって言われるし。

まあ、俺の場合は逆に「何で三年も勤めててこんな事も出来ないの?」ってよく清水チーフに怒られてたけど。仕事に対する責任感がどうとか、同じミスばっかりしてとか……あ、思い出したら悲しくなってきた。

「ふーん、まあいいけど。……でも自分の強みくらいは理解しておいた方が良いわね」

「え?」

ヒュンッという風切り音と共に、再びリベルさんが接近する。

杖をクナイで弾き、影で足を絡め取ろうとして――躱された。

攻撃をいなし、躱し、なんとかリベルさんの動きについていく。

「ほら、すぐ私の動きに対応できた」

「いや、ちょ――待って、はや――」

なんでこの状況で会話できる余裕があるんだよ、この人。

姿が消える。

今度は真横――その次はまた背後。

スキルをフル稼働していても付いていくのがやっとだ。

「余裕がなさそうね?」

「そりゃっ……ギリギリ、です……からっ!」

アイテムボックスで壁を作り、距離を取ろうとすれば、即座に回り込まれて距離を詰められる。

影で動きを拘束しようともすぐに千切られるし、そもそも早すぎて当たらない。

常に接近されているからモモの叫びも封じられてる。

やりにくいったらありゃしない。

(どうやって反撃すればいいんだ……?)

相手の動き全体を見るって……そんなバトル漫画じゃないんだから、そんなすぐ出来る訳ないだろうに。

一之瀬さんたちはまだ動きについてくることも出来ないし、影の中に潜んでる五十嵐さんも表に立って戦闘するタイプじゃない。

他にはなにか手はないか、何か――。

「ほら、考えろ、考えろ、考えろ。まだまだ速くなるわよ」

「ぐっ……!」

思考をフル稼働させ、反撃の糸口を探る。

≪熟練度が一定に達しました≫

≪集中がLV8から9に上がりました≫

≪熟練度が一定に達しました≫

≪予測がLV7から8に上がりました≫

スキルのレベルアップを告げるアナウンスが流れる。

少しだけ思考に余裕が持てるようになった。

「集中力が上がったわね。それに動きも良くなった。さあ、まだまだ行くわよ」

「え、ちょっ……ま、まって!」

「待たない。ほらほら、まだまだ動きが甘い! せめて今日中に私に 魔術(スキル) を使わせられるくらいにはなってほしいわね。それとアンタの強みと、その根底にある異常さも気づかせてあげる」

「……?」

いや、それはちょっとハードルが高すぎでは?

リベルさんの容赦のない攻めを捌くので精一杯で、結局その日はリベルさんにまともに攻撃する事も出来なかった。

「ま、今日はこのくらいにしておきましょうか。明日はもっと激しく行くわよ」

「…………」

まともに返事すら出来ず、俺は地面に倒れ込んだ。

これを毎日って……決戦前に死ぬのではなかろうか?

モモをモフモフしながら、俺はそんな事を思うのであった。

……ちなみにその日の訓練が終わるころには、五十嵐さんはジャージから私服にもう一度着替えていた。理由は、彼女の名誉のために伏せさせてもらおう。

その日の夜、藤田さんと十和田さんのチームも帰還した。

ボロボロの傷だらけではあったが、死者は出なかった。

彼らは、彼らだけの力でネームドの討伐を成し遂げたのである。

かなりのレベルアップを遂げたのだろう。

藤田さんらの表情は、以前よりもずっと自信に満ちていた。

二条のヤツが泣きながら抱き着いてきたせいで、服が汚れて大変だったけど。

それでも、少しずつではあるが、全員が地力を上げ始めていた。

モンスター狩り、レベルを上げ、リベルさんとの戦闘を繰り返し――……、

そして瞬く間に、時は過ぎて行った。