軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

214.イッイイイイチノセナッナナナツ

はてさて、これは一体どういう状況なのだろう?

砂浜に突き刺さったままのリベルさんと、それを満足げに見つめる海王にして原初のスライム――シュラム。

意味不明過ぎて、誰かこの状況を説明してほしい。

でもぷんすこ怒っている海王様が昔のアカみたいでちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。

すると俺の後ろに控えていたソラが前に出て、海王とリベルさんを交互に見る。

『フム……』

なにやら頷いた後、海王へ尻尾を伸ばした。

一瞬、攻撃かとも思ったが敵意は感じない。

「……(ふるふる)」

海王の方も体の一部を伸ばすと、差し出されたソラの尻尾を軽く弾く。

人がハイタッチをするような仕草だ。へーい♪って効果音が付く感じのやつ。

『良クヤッテクレタ』

「……♪(ふるふる)」

上機嫌なソラに海王は気にするなとばかりに震えた。

「いたた……ひ、久々の再会なのに随分な挨拶ね……ぺっ」

リベルさんが復活した。

口の中に砂が入ったのか、手から水を出して濯いでいる。

凄くスキルの無駄遣い。

「リベルさん大丈夫ですか?」

「問題ないわ。首の骨が折れただけよ」

大問題じゃないか。

「これでもアンデッドよ。首が折れた程度じゃ私は死なない。あーもう、ローブが砂まみれじゃない。これお気に入りなのよ」

砂埃を払いながら文句を垂れるリベルさんを、海王とソラは冷ややかな目で見つめる。

いや、海王の方は眼とかないんだけど。

「な、何よ? そんな目で見て……?」

その視線にリベルさんは思わずたじろいでしまう。

海王ははぁっとため息をついた。

いや、口とかないんだけど。なんかこう、仕草がね。

『――まず私に謝る事があるのではないのか?』

頭の中に声が響いた。

静かで重く威厳のある声音。

これってもしかして……?

『無論、私だ』

海王が体の一部を伸ばし、自分を指差す。

「しゃ、喋って……?」

『喋ってはいない。思念による通話だ。そもそも我々の種族は発声器官が無い。故に他種族とコミュニケーションを取るには思念による対話を行っている』

「そ、そうですか……」

ま、まあソラも念話が出来るし、スライムが出来てもおかしくないのか……?

『誰でも出来るわけではない。他種族と思念による会話が出来る個体は極一部だけだ。我々に限らず他の種族もな』

「そ、そうですか……」

ちらりと足元で震えるアカを見る。

もしかしたらアカも喋れるようになるのかと思ったが、それは厳しいようだ。

そういや、ソラは『念話』ってスキルを持ってたけど、モモやアカが持っていたのは『意思疎通』だった。

何となく考えてる事が伝わる『意思疎通』とは違い、きちんと会話が可能な『念話』の方が上位のスキルって事か。

やっぱりソラって凄いんだな……。流石、ドラゴン。

『ム、何ダ、カズト?』

「いや、何も……」

まあ、褒めるとすぐ調子に乗るから本人には言わないけど。

あれ? てことは生まれてすぐに『念話』が使えたシロって、もしかしてソラよりも――、

『――で、脱線してしまったが死王リベルよ。貴様、まず私に謝らなければいけない事があるだろう?』

「えーっと、何の事かしら――あぶっ」

海王にぺちんされ再びリベルさんが宙を舞う。

『無自覚ならばそれでもよい。この際だ、きちんと自覚させてやろう』

「だ、だからなんの――ぶべらっ!?」

『まず貴様が! 私や我が同胞を! 廃棄物処理のゴミ箱扱いした事!』

「へぶっ! ごふっ!」

『鳥王の羽を獲りに行くと嫌がる私を無理やり連れだし、あまつさえ山脈に置き去りにした事!』

「おえぎゃぁ!」

『実験に必要だからと事あるごとに私の体を千切って持って行った事!』

「ひでぶっ!」

『他にも――』

「ひぎゃあああああああっ!」

何度も何度もリベルさんは海王に叩きつけられ痛めつけられる。

「うわぁー……」

流石にちょっとドン引きである。

無論、海王の方じゃなくリベルさんの方だ。

何となく予想は付いてたけど、あの人、異世界で結構エグいことやってたんだなぁ。

「……彼女には無自覚に人を煽ったり、巻き込んだりする悪癖がありますから」

相葉さんの言葉に納得しかなかった。

「相葉さんは当時、リベルさんと一緒に居たんですよね? 止めなかったんですか?」

「死ねと?」

「すいません」

うん、無理だよね。

異世界基準でもリベルさんはトップクラスの化け物らしいし、止められる人間なんて殆んどいなかったのだろう。

「てか、あれ止めなくてもいいんですか?」

「大丈夫でしょう。シュラム様はちゃんと手加減をされています。そもそもシュラム様が本気で殴っていれば今頃、彼女だけでなく我々もこの浜ごと消し飛んでいますから」

「なにそれ怖い」

海王さまちょっと強すぎない?

インフレおかしいよ。

「我々に出来るのはただ静かにシュラム様が怒りを収めてくれるのを待つだけです。あ、ちょっと後ろに下がりましょうか」

「……あ、はい」

下がった瞬間、俺たちの居た場所にリベルさんが突き刺さった。

即座に伸びた海王様の触手が、リベルさんを大根のように引き抜いてゆく。

『我モ参加シタイ』

「やめなさい」

リベルさんを殴りたくてうずうずしてるソラを宥めつつ、俺たちは事の成り行きを見守った。

何度も何度も海王様に殴られ、リベルさんはちょっと女性がしちゃいけない顔になっていた。

そろそろダメージがきつくなってきたのか、足元がふらついている。

「ちょっ……タンマ……これ以上はマジ死ぬって……」

『まだだ。まだ肝心な事が残っている』

海王の触手がリベルさんの胸ぐらを掴んで引き寄せる。

「な、なによ……まだなにかあるっていうの?」

『ここまで殴られてもまだ分からないか? 私が何に一番腹を立てているのかを?』

「……?」

リベルさんは本気で困惑した様子だ。

その態度に、海王様から恐ろしい程の怒気が発せられる。

怖い。正直、今すぐここから逃げ出したいほどだ。

「な、なによ……一体何に――」

『今回の件に際し、貴様が私に何も相談しなかった事だ!』

「ッ……!」

その言葉に、リベルさんは明確に表情を変えた。

『何故だ? 何故、私やフランメに相談しなかった……? 何故、我々を頼ってくれなかったのだ?』

「そ、それは……」

『種族は違えど、我らは貴様の事を友だと思っていた。それは我らの思い違いであったのか……?』

「……」

『貴様が師の事で思い悩んでいたのは知っている。この方法以外に、我らの世界が生き延びる手段が無かったのも理解している。それでも……我らは貴様の力に成れると思っていた』

「……」

『貴様は我らを巻き込まなかった。こういう時だけ、貴様はいつも一人で抱え込む。それが私は堪らなく悔しいのだ』

その言葉に力なくリベルさんはその場にへたり込む。

「……ごめんなさい」

ややあって、絞り出すようにつぶやいたその言葉に、今度こそ海王様は満足そうに震えるのだった。

どうやら怒りは収まったらしい。

「はふぅ……」

緊張の糸が切れたのか、俺にしがみついていた一之瀬さんがその場にへたり込む。

「大丈夫ですか?」

「は、はは……腰が抜けちゃいました」

「仕方ないですよ。俺も怖かったですから」

俺と違って耐性スキルを持ってない一之瀬さんの感じるプレッシャーは相当なモノだっただろう。

正直、良く耐えたと思う。

「……ところで相葉さん、フランメって誰ですか?」

「先の竜王の名です。当時の狼王ナハトと並び最強の一角と言われたモンスターです」

『ソシテ我ガ最愛ノ夫ダ』

「成程、説明ありがとうございます」

さりげなく補足されるソラののろけ。

てか、竜王にも名前があったんだな。

まあ、六王だしネームドでもおかしくないか。

それにしてもフランメにナハトねぇ……。

ルーフェン、シュヴァルツ、ティタン、ペオニー、それに海王の名前がシュラム。

……これってやっぱりそういう事なのか? 後で確認した方が良いな。

「シュラム様の怒りも収まったようですし、これでようやく本題に入れますね」

『アイヴァーか……』

「お久しぶりです、海王シュラム様」

優雅に一礼する相葉さん。めっちゃ様になってる。

あ、元々騎士か。

『貴様が付いていながらこの体たらくか……嘆かわしいな』

「……申し訳ありません。その事も含め、一度我々の置かれた状況を説明する機会を頂ければと」

『よかろう。許可する』

「感謝いたします」

頬がパンパンに腫れたリベルさんの代わりに、相葉さんが海王様に事情を説明するらしい。

相葉さんは慣れた様子で、海王様に今の状況を説明する。

傍から聞いてもかなりわかりやすい説明だ。

その間、俺たちは完全に置物となって、成り行きを見守っていた。

……これ、俺たち来る必要あったのか?

「――で、そこに居る彼らがこの世界の協力者です」

「え? あ、はいっ」

必要あった。

どうやらここから俺たちの紹介らしい。

『ふむ……』

海王様はぽよんっと砂浜に着地すると、ゆっくりと此方に近づいてくる。

『海王シュラムだ。貴様ら、名は何という?』

「く、クドウカズトです……」

「い、いいい一之瀬、な、なな奈津です」

『クドウカズトにイッイイイイチノセナッナナナツだな。良き名だ』

海王様違います。

この子、緊張してろれつが回ってないだけです。

もしかして天然なのだろうか?

一之瀬さんはぼそぼそと「ちぎゃぅ……ちぎゃぅ……」と呟いている。

なので一之瀬さんの代わりに、俺が彼女のきちんとした名前を伝えると、

『……なんだ良き名かと思ったが、緊張していただけか』

なんかがっかりされた。

どうやら本気で褒めていたらしい。

なんか、こういうところ、凄くアカっぽい。流石、原種。

「……(ふるふる)?」

足元のアカが「なぁにー?」と震える。可愛い。

『先程から気になっていたが、その個体』

「……(ふるふる)?」

海王様がアカの方を見る。

どうやら自分と同じ色のアカに興味を持ったらしい。

『……ほほう、ここまで透き通る色は久方ぶりだな』

ぷにぷに、つんつん。

海王様がアカに触れる。

くすぐったかったのか、アカがもどかしそうに震えた。

足元で行われるそのやり取りを俺は緊張した様子で見守る。

傍目には二匹のスライムが可愛くじゃれ合ってる風にしか見えないが、足元に居るのはあのシュヴァルツやリベルさんと同格の化物だ。

正直、生きた心地がしない。

『成程、良く分かった』

ぷにぷに終わり、海王様がアカから離れる。

『クドウカズト、この子に名はあるのか?』

「え……? あ、ああ……アカって名だ」

『…………安直だな』

がっかりされた。

すいません。

でもイッイイイイチノセナッナナナツよりかは良い名前だと思います。

『まだ幼いがその分、伸び代は十分にある。気に入った』

すると、海王シュラムはじっとこちらを見つめてきた。

『クドウカズトよ、提案がある。この子を――アカを私に預けろ』

「……どういう意味ですか?」

『言葉の通りの意味だ。この子を我が後継として育てる。次世代の海王はこの子だ』

「なっ……!?」

爆弾発言が飛び出した。

アカを……海王にするだって?

その発言に今まで沈黙していたスライムクラゲたちが一斉にざわつき始めた。

彼らにとっても海王様の言葉は予想外だったらしい。

「……(ふるふる)?」

一方で、当人であるアカは良く分からずに首をかしげていた。

いや、首ないんだけどさ。

なにやらとんでもない方向に事態が進んでいくのであった。