軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

213.海王シュラム

『海王』シュラム。

その正体は年月を重ねたスライムの上位種だという。

「種族名は『カオス・イア・ウーズ』。スライムの最上位種族で、同じ種の個体は私たちの世界でもシュラム以外に確認されていない。正真正銘のユニークモンスターと言えるわね」

「カオス・イア・ウーズ……」

なんかクトゥルフっぽい名称だな。

隣で一之瀬さんが「イアイア」ってなんか手を合わせながら呟いてる。

やだ、この娘、不審者感が凄い。

「……海王がスライムだってのは分かりましたけど、俺たちがもう戦ってるってのはどういう意味です? スライムの原種が海王なら、その辺に居るスライムも――それこそアカも海王の一部って事ですか?」

そういう意味なら確かに戦ったって意味合いにも取れるけど……なんか違くないか?

するとリベルさんはポリポリと頭を掻いて、

「あー、言い方がちょっと紛らわしかったわね。確かに全てのスライムには海王から生まれたって言ったけど、正確には海王から分裂した個体が進化して、更に別の個体を生み出して、それを繰り返してって感じだから、どちらかと言えば超遠縁の親戚ってとこかしら」

「ああ、そういうことですか……」

まあ、それなら確かに全てのスライムは海王から生まれたと言えなくもないか。

「でも、それらのスライムとは別に明確に海王の一部と言われる個体も存在するの。アナタ達が以前海で戦ったって言ってたスライムクラゲ――あれがそうよ」

「ッ……アレが?」

脳裏に浜辺で戦ったスライムクラゲの姿が蘇る。

アレが……海王の一部だと?

「ええ、アレは海王の末端みたいな存在なの。情報収集の為に海王が大量に放っているセンサー。実際、実力は普通のスライムとは一線を画してたでしょ?」

……確かに、あのスライムクラゲの強さは通常のスライムとは比べ物にならなかった。

俺はてっきり海で進化したスライムかと思ったけど、アレは海王の分裂体だったのか……。

考えてみれば、あの時沖合からとんでもない気配がしてた。

きっとあれこそが海王の気配だったのだろう。

「アンタら、アカちゃんを回復させるために海でスライムを乱獲しまくってたんでしょ? そりゃ海王だって不審に思うわよ。運が良かったわね。下手したら、そのまま海王との戦闘になってこの辺り一帯が海に沈んでたかもしれないわよ」

「アレってそんな危機的な状況だったんですか!?」

俺としてはただの漁業のつもりだったのに……。

今更ながら俺たちホント綱渡りしてるな。

選択肢一個間違えれば、即バッドエンドとか昔のエロゲかよ。

「ま、運が良かったって言うよりかは、アカちゃんのおかげでしょうけどね」

「アカの……?」

「ええ。多分、その子、スライムクラゲを倒して吸収した時に、海王と交信したんでしょうよ。そうじゃない?」

「……?(ふるふる)」

リベルさんはじっと俺の足元でプルプルしてるアカを見る。

するとアカはうにょーんと体を伸ばして、プルプル震えた。

「よくわかんない」と言ってるらしい。

(でもそう言えば確かにアカはスライムクラゲを倒した時、何か会話をしていたように見えた……)

今思えば確かに違和感のある行動だった。

アレが海王との交信だったのか?

「ま、その辺はこれから確かめるとしましょうか。それじゃあ、早速行きましょう」

「あの、行くってどこへ……?」

「勿論、海に」

海王に直接会って確かめるのだと、彼女は言った。

そして場所が変わって、海。

何度もスライムを捕獲したあの浜辺だ。

「良い景色ね」

潮風になびく髪を撫でながら、リベルさんはのんびりした様子で沖合を見つめているが、俺や一之瀬さんはとてもそんな気持ちにはなれなかった。

「な、なんですかこの気配……? な、何かに見られてる……? うっぷ……」

「ウゥゥ……グルルルル……」

探知系のスキルを持たない一之瀬さんですら、その異変を感じ取っていた。

口元を押さえ、今にも吐きそうなのを必死にこらえている。

モモも毛を逆立て、警戒態勢で水平線の向こうを睨み付けている、

かくいう俺も先程から寒気が止まらなかった。

ピリピリと肌を刺すような焦燥感。

こんなの今まで感じたことが無かった。

「リベルさん、これは……?」

「ええ、モモちゃんの『影渡り』を使ってここへ来た瞬間、もう向こうも気付いたんでしょうよ。私たちが――いや、『 死王(ワタシ) 』がここへ来たことに。だから、こうして明確に意識を飛ばしてる」

「ッ……」

つまりこれが海王の気配って事か。

進化して強くなった今だからこそ分かる。

この気配の主は――海王は紛れもない化物だ。

それもハイ・オークとも、ダーク・ウルフとも、ティタンとも、ペオニーとも全く違う。

霧のように掴みどころがなく、それでいてセメントよりも濃くて重い矛盾を孕んだ気配。

……本当にこれがアカと同じスライムなのか?

「いやはや、これはとんでもないですね。間違いなく向こうに居た時よりも強くなってる」

相葉さんが顔を引きつらせながら呟く。

その気配を感じ取ったのか、ソラも影から出てきて沖合を見つめた。

『……コレガ海王カ……』

「ソラも知ってるのか?」

『会ッタ事ハ無イ。ダガ、我ガ夫ハ『二度ト戦イタクナイ相手ダ』ト言ッテイタ』

「マジか……」

「まあ、六王の中じゃ最古参だしね。正直、私もアレと戦うのだけは勘弁願いたいわ」

どうやら海王はソラの旦那さんだけでなく、リベルさんまでも戦いたくないと評価する程の相手らしい。

……そんな奴どうやって仲間にするんだ?

擬態を解き、俺の足元に寄り添うアカを見つめる。

「……(ふるふるー)?」

アカは「なにー?」と見つめてきた。ぷるぷるかわいい。

……本当にアカが鍵になるのだろうか?

そんな事を思っていると、気配が一段と濃くなった。

「――来るわよ」

リベルさんがそう言った瞬間、『ソレ』は起こった。

「「「「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!!!」」」」」

白波を立て、沖合から大量のスライムクラゲが姿を現したのだ。

それもあの時遭遇した個体よりも遥かに大きい。

加えて、体色も無色透明ではなく赤に近い桃色をしていた。

――たまにね、先祖返りを起こして、シュラムと『同じ色』になる個体がいるの。透き通るような綺麗な赤色にね。

リベルさんはそう言っていた。

海王に近い個体ほど、鮮やかな赤色になるのだと。

だとすれば、あの無数のスライムクラゲたちは、より海王に近い力を持っているという事だ。

感じる強さは以前戦ったスライムクラゲとは全くの別物。俺たちが戦ったのは本当に末端も末端だったのだと今更ながら思い知る。

確かに今出現したアイツらならば海王の分身と言っても納得出来る。

(それがあれだけ大量に……)

一体何百体居るのか、数えるのも馬鹿馬鹿しい程の大軍だ。

目の前の光景に絶句する俺と一之瀬さんであったが、まだ終わらない。

それらは隊列を成し、まるで軍隊のように進軍を始めた。

沖合から一分の狂いもない完璧な統制のとれた動き。

無数のスライムクラゲはやがて中央から左右に分かれ、十メートル程の間隔が開いた。

それは海に出来た一本の道のようであった。

そう、これは彼らの王が通るための道なのだろう。

「……ッ」

ごくりと、唾を飲む。

やがて水平線の向こうから何かが現れる。

ゆっくりと水面に出来た道を進むのは一体のスライムクラゲだった。

体は周囲のスライムクラゲよりもさらに一回り大きく、その色合いは濃い赤色をしていた。

アレが海王……?

「いや、違う……」

よく見れば、赤色のスライムクラゲの触手が何かを抱いている。

それは周囲のスライムクラゲやソイツに比べればあまりに小さかった。

初めてであった頃のアカと同じくらいの大きさだろう。

アカよりも更に澄んだルビーを思わせる赤色。

だがその小さな身から感じる気配は、周囲のスライムクラゲとは比べ物にならない程濃くて重い。

「アレがスライムの原種にして最古の六王――海王シュラムよ」

「アレが……」

やがて赤いスライムクラゲに抱かれた海王シュラムは俺たちの居る浜辺へと辿り着く。

間近で見れば、やはりそう思わざるを得ない。

――コイツ、アカにそっくりだ。

いや、正確に言えば逆か。

海王がアカに似てるんじゃない。

アカが海王に似てるのだ。

「久しぶりね、海王シュラム。元気にしてた?」

唖然とする俺を尻目に、リベルさんは昔ながらの友人に話しかけるように気軽に挨拶をする。

『……』

海王シュラムは答えない。

いや、そもそもスライムは喋れないか。

でも何やらプルプルと震えている。

「……知り合いなんですか?」

「ええ、海王、竜王とは向こうの世界でも交流があったわ。向こうでも何度も協力して貰ってるし、六王の中では割と仲良いのよ、私達」

「へぇ……」

それでさっきからこの調子なのか。

リベルさんは気軽い足取りで海王へ近づいてゆく。

『……』

「いやぁー、悪いわね。休んでるところを無理やりおこしちゃって。実はまたアンタに手伝ってもらいたいことがあって――ぺぎゃっ」

すると、海王の体の一部が鞭のように変化し、リベルさんを叩きつけた。

パァンッ! と小気味良い音が周囲に響く。

リベルさんはぐるぐると回転しながら数十メートル程吹き飛ばされ、頭から砂浜に顔を突っ込んでようやく静止した。

「…………え?」

え、ちょっと待って、リベルさん?

アンタら仲良いんじゃなかったの?

砂浜に物干し竿のように突き刺さったリベルさんはピクリともしない。

刹那、俺たちにも追撃が来るかと思ったが、その気配はない。

海王は砂浜に刺さったリベルさんを見て、満足そうに体を震わせている。

「……(ふるふる)」

すると足元に居たアカが裾を引っ張りながら、なにやら伝えてきた。

えーっと、なになに……。

「ク、クドウさん、アカちゃんはなんと?」

「……えーっと、その……『事情は把握している。協力してやってもいいが、代わりにそのクソ女を殺させろ』って言ってます」

「……はい?」

良く分からないけど、海王様激おこだった。