軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

193.エピローグ その出会いは唐突に

あの後、俺は西野君たちと無事に合流した。

自衛隊基地――まあ、元がつくが、自衛隊基地は無事に『安全地帯』として機能していた。

多少の混乱や、住民たちの不安はあるだろうが、それは市長や藤田さんたちが何とかしてくれるだろう。

とりあえずは、生活できる場所を再び手に入れることが出来たのだから。

「あー……疲れたぁー……」

『安全地帯』に入って気が抜けたのか、俺は例のごとく疲労と傷で気を失い、目が覚めると次の日になっていた。

んで目覚めた後、西野君が色々と事情を話してくれた。

市長や藤田さん、清水チーフや二条は色々と奔走中。

五十嵐会長や西野君のグループもその手伝いに追われているようだ。

俺もペオニーとの戦闘中の出来事などを話し、お互いの情報を摺合せした。

「――またしばらくは、周囲の探索や情報収集、食料の確保で忙しくなりそうですね」

「そうですね。でも、それについては何とかなると思いますよ。一番厄介な 障害(モンスター) はペオニーが殆ど食い尽くしてしまったようですし……」

西野君の言う通り、この周辺からは生き物の気配が殆どしなかった。

この辺に居たモンスターは、その殆どがペオニーに食い尽くされただろう。そしてこの町の住民も。

「……五所川原さんにとっては辛いでしょうね」

「ええ。でも『記憶』だけでも取り戻す事は出来たので……」

トレントに喰われた人間の記憶。

どうやらそれは食ったトレントを倒すことで、取り戻すことが出来るみたいだった。

一体どういう仕組みになっているのかは謎だが、それでも『奪われた記憶』は皆の元に戻った。

自衛隊の人達の記憶も、五所川原さんの家族の記憶も。

戦いが終わった後、五所川原さんは、一人で泣いていたらしい。

日記帳とハンカチと指輪を前に、手を合わせて祈っていたそうだ。

「あの人は本当に強い人だと思います……。俺なんかよりもずっと……」

「西野君……」

西野君はぎゅっと拳を握り、

「だから、俺ももっと頑張ろうと思います。五所川原さんや、クドウさんにも負けないくらい。俺も……俺にだって出来る事はあるはずですから」

顔を上げて、とてもすがすがしい表情でそう言った。

何かが吹っ切れたんだろう。

前を向いて歩く西野君の顔には、影はどこにも差していなかった。

西野君……君は強いよ。俺なんかよりずっとな。

西野君と別れた後、俺は医務室にやってきた。

お目当ての人物はすぐに見つかった。

窓の傍に備え付けられたベッドの上に彼女は居た。

部屋に入ると、彼女も俺に気付いたようで、ぱぁっと笑みを浮かべた。

「クドウさんっ」

「――お疲れ様です、一之瀬さん」

ベッドの傍にあった椅子に腰かけ、彼女の容態を見る。

両手の指には包帯が巻かれ、うっすらと血がにじんでいた。

「指の方は大丈夫なのですか?」

「はい……。えーっとあの人……あ、そうだ、柴田君が治療してくれました。見た目はこんな感じですけど、痛みはだいぶ良くなりました」

「そうですか。それは良かった……」

大事ないようで安心したよ。

あとどうでもいいけど、人の名前はきちんと覚えようね。

今、柴田君の名前忘れてたでしょ? いや、俺も人の事は言えないけどさ。

「ただあの人、頻繁に来るので、面倒な時は『認識阻害』使って誤魔化してます。その……ちょっと苦手なので……」

「そ、そうですか……」

多分、ちょっとじゃなくて相当苦手なんだろうな……。

「私よりも、クドウさんの方こそ大丈夫なんですか? 左腕……かなり重症だって聞きましたけど?」

「大丈夫ですよ。包帯はまだ取れませんが、数日あれば完治すると思います」

俺の左腕は包帯でぐるぐる巻きにされ、固定されてる状態だ。

少しもどかしいが、『影』でカバーすれば、日常の動作も戦闘もほぼ変わらず行える。

「え……? でも、その、腕、食いちぎられたんですよね?」

「ええ。でも新人の身体能力のおかげか、 回復薬(ポーション) と柴田君の治療で何とかなったようです」

肉が抉れて骨が見えてたんだけどね。

新人の身体能力――というか、生命力は相当高いらしい。

これも『進化』の恩恵だろう。どんどん人間離れしていくな、ホント。

「うわぁーチートです。チート野郎ですよ、この人……」

「久々に聞きましたね、そのセリフ」

出会った当初もそんな事を言ってたよね、一之瀬さん。

「……まあ、クドウさん程じゃないですけど、私も似たような感じです。銃の反動で全身筋肉痛だったんですが、半日も経たない内にかなり良くなって……」

「はは、一之瀬さんもチート野郎になりましたね」

「むぅ……」

いや、女性だからチート女郎か? どうでもいいか。

言い返されたのが悔しいのか、一之瀬さんはぷくーっと頬を膨らませる。

「進化と言えば相坂さんも『 鬼人(オニビト) 』に進化したんですよね?」

「ですです。さっきまでここに居たんですけど、入れ違いになっちゃいましたね」

六花ちゃんもあの戦いで『 鬼人(オニビト) 』に進化した。

普段は元の姿と変わらないが、戦闘時には肌が赤褐色になり、額には光の角が生えるという。

種族説明に書いてあった通りだな。

新人と同じ希少種だし、かなりの戦力アップになるだろう。

「凄い興奮してましたよ。ようやく私やクドウさんに追いついたーって」

「はは、相坂さんらしいですね」

「進化しても、リッちゃんはリッちゃんですから……。周りも普通に受け入れてくれてるみたいですし」

進化してもしなくても、人の本質はそう変わらないって事かね。

それに西野君の仲間も彼女をあっさり受け入れてくれてるって事がちょっと嬉しかった。

西野君もそうだけど、凄く仲間想いだよね、彼のグループ。

「一之瀬さんもかなり経験値が入ったみたいですね」

「ですです。レベルが一気に七つも上りましたよ」

パーティーメンバーの欄で確認済みだが、ペオニーを倒した時に俺だけでなく他の皆もレベルアップしていた。

モモは暗黒犬LV3からLV10に。

アカはクリエイト・スライムLV5からLV11に。

キキはカーバンクルLV2からLV8に。

一之瀬さんは新人LV2からLV9に、それぞれ上がっていた。

「レベルが上がってポイント入ったので早速『ガチャ』回しましたよ」

「そ、そうですか」

「そうです。今回、かなり引きが良くて、またスキルも手に入れたんです。後でお見せしますね」

「へぇ、それは楽しみですね」

「まあ、ソラさんのインパクトに比べれば、ちょっと微妙かもですけど……」

「いや、まあそれは仕方ないと思いますよ」

アレに比べれば、どんなスキルや職業でもかすんでしまうだろう。

「まさか、ソラが『進化』するとは思いませんでしたよ……」

「ですです……」

そう、なんと今回の戦いでソラは『進化』したのだ。

ペオニーの経験値でレベルが最大になったらしく、種族がブルードラゴンLV38から、エンシェントドラゴンLV2になってた。

本人が一番驚いてたよ。

出産したはずなのに、こんな奇跡が起こるなんてって。

相当な衝撃だったらしく、しばらく話しかけても何の反応も無いくらい呆然としていた。

というか、出産と進化と何の関係があるんだろう?

見た目もちょっと変って、翼が二対四枚になって、鱗の色が濃い藍色になってた。

威圧感も半端じゃなく、正直パーティーメンバーを解消されたらどうしようかと思ってしまったが、アイツはまだしばらく俺たちに付き合ってくれるらしい。

曰く、自分の子がある程度育つまでだ、と。

「……『言っておくが、断じてここが気に入ったわけではない。勘違いするなよ、カズト』って言ってましたけど……」

「あの姿じゃ説得力ないですよねー……」

窓の外へ目を向ければ、広場の一角で呑気に昼寝をしているソラの姿があった。

周囲には食い散らかした干し草も散乱してる。

遠巻きに住民たちが見守るその様子は、なんというか柵なしの動物園のようだ。

「警戒心の欠片も無いですね……。あー、イビキに鼻提灯までしてるし……」

「よっぽど居心地良かったんでしょうねー。あ、そう言えば、パーティーメンバーの欄にドラゴンが一体増えてましたけど、これって……?」

「ええ、ソラの子供です。名前は――」

『シローー!』

ぴょんっと足元の影が広がり、中から小っちゃいドラゴンが姿を現した。

そのまま俺の顔にダイブする。

へぶしっ。

『カズトー! 遊んでー!』

「おぶっ……! おまっ、離れろっ、息が出来ないだろっ」

四本足でがっしりしがみ付いてくるシロを必死に引き剥がし、頭の上に持っていく。

「えっと、その子が……?」

「はい。ソラの子供――リトル・ホワイトドラゴンのシロです」

「シロ……?」

一之瀬さんは首をかしげる。

「鱗の色は青色なんですけどね……。どうやらこの子、特殊個体みたいで……」

これはソラから聞いた話だが、どうやら竜は、全てが親と同じ種族になるわけではなく、稀に種族の異なる――いわゆる特殊個体が生まれるらしい。

「今はまだ青色なんですが、何度か脱皮すれば鱗の色も白く変わるみたいですよ」

「脱皮するんですね、竜って……」

「するみたいです」

今明かされるどうでもいい竜の生態。

ちなみに名付け親は勿論、俺。

最初はアオって名付けようと思ったのが、この子の種族名を見て、シロに決めたのである。

ソラ曰く、生まれてすぐ言葉を話せる個体は相当珍しく、『流石我ト旦那ノ子ダ。将来超有望。フフフ……』って上機嫌で言ってた。

ちなみに性別は雌だ。

大きさは今の所、カラスと同じ位。

『カズトー♪ カズトー♪ ムフー♪』

んで、何故か名前を付けた俺に妙に懐いてるらしく、こうして体に張り付いてくるわけだ。

頭の上がお気に入りらしい。おい、髪の毛引っ張るなって。

「わんっ」

「きゅーっ」

すると、『影』が広がり、モモとキキが姿を現す。

モモは足元にすり寄り、キキは俺の肩に乗ってくる。

まるで『ここが定位置!』と主張している様だ。

「……(ふるふる)♪」

アカはアカで服に擬態したまま、楽しそうに震えている。

「……アカちゃんやキキちゃんの時もそうでしたけど、クドウさんってモンスターに好かれるフェロモンでも出してるんですか?」

「そんな事は無い……と思います……たぶん」

『魔物使い』とかを選んでるわけでもないのに、どうしてだろうな?

いや、別に悪い気はしないけどさ。モフモフだし。

シロもモモたちと仲良くしてるみたいだし、別に問題はないだろう。

……まあ、今後シロが急成長して、遊び感覚で俺が大怪我を負う可能性もあるので、その時がちょっと不安である。

「さて、ここなら誰も居なくてゆっくり出来るな……」

一之瀬さんと別れた後、俺は屋上へやってきた。

誰も居ない静かな空間。ここなら誰にも邪魔されない。

調べ物をするのにもってこいだ。

「さて、先ずは何から調べるかな……」

「わふん?」

「きゅー?」

地べたに座ると、モモが膝の上に乗り、キキが横から「なになに?」と訊ねてくる。

ちなみにシロはフードの中で眠っている。

「今回の戦いで色々と気になるものが出てきたからさ。一個ずつ調べていこうと思ってな」

ポイントのステ振りもしたいけど、先ずはこっちからだろう。

俺はアイテムボックスからペオニーの魔石と、その傍にあった『種』を取り出す。

そしてステータスを開き、質問権の項目をタップする。

「確かあの時、質問権のロックが解除されたって言ってたよな……」

俺の聞き間違いでなければ、天の声はそう言っていたはずだ。

ロックが解除されたって事は、今までより色んな情報が開示されるはず。

「とりあえず、何か別のモノで試してみるか……」

えーっと、何かいいのが無いかな?

あ、これなんていいかもしれない。

手に入れてからずっと使い道の分からなかった謎のアイテム『癒しの 宝玉(オーブ) 』。

前回、質問してみた時は『対象を癒す効果がある』としか表示されなかったが、これがどう変化しているのか?

さっそく調べてみる。

すると、以下のように表示された。

・『癒しの宝玉』

対象に掛けられたあらゆる傷、病気、呪い、変異を癒し、元の状態へ戻す効果がある。

ただし回数は一度だけ。

「おお、前回よりも説明が詳細になってる……」

これが質問権のロックが解除されたって事か。

『癒しの宝玉』ってこういう効果だったんだなー。

何気に凄い効果だ。どんな傷でも治るって、ハンター◯ンターの大天使様かよ。一回だけって部分もちょっと似てるし。

これなら、ペオニーの魔石や、種、それに新しく獲得した『英雄賛歌』ってスキルの事も分かるかもしれない。

「……ってあれ? ちょっとまて? ……変異?」

その単語に俺はちょっと首をひねる。

変異って確かアレだよな、人がモンスターに変わる事……だったよな?

その変異も癒す事が出来る。それって、つまり――

「……『 癒しの宝玉(コレ) 』を使えば大野君を人間に戻せるって事か……?」

調べ物はいったん中止し、俺は西野君たちの元へと向かった。

「――成程、そんな効果が……」

西野君は俺から渡された『癒しの宝珠』を眺める。

六花ちゃんや柴田君、そして当事者である大野君も興味深そうに見つめている。

「はは、良かったじゃねーか、大野! これで人間に戻れるんだな!」

「だね。ていうか、おにーさん、良いの? これかなり貴重なアイテムなんじゃない?」

「構いませんよ。聞けば、大野君が居なければ西野君や相坂さんが死んでたかもしれないって話じゃないですか。それなら、俺としても何かしらのお礼はしたいなと思いまして」

「クドウさん……」

西野君がなにやら感動した様子で、こちらを見つめてくる。

まあ、レアっちゃレアだけど、手に入れたのは偶然だしな。

今後は、五十嵐会長と一緒に宝箱探しもしようと思ってるし、また手に入る可能性だってある。

今後も西野君たちとは良い関係で居たいし、このぐらいはお安い御用だ。

「恩に着ます。クドウさん……」

西野君は『癒しの宝玉』を握りしめ、俺に頭を下げた。

「ありがと、おにーさん」

「すまねぇ。恩に着るぜ……」

六花ちゃんや柴田君も頭を下げる。

止めて。そこまで大袈裟なリアクションとられると、かえってこっちが困るって。

「……」

ただ、そんな中で当の大野君はなにやら浮かない表情だ。

「……どうしたんだ、大野? 嬉しくないのか?」

「……」

大野君は俯いていたが、やがて意を決したかのように顔を上げた。

「ごめん、西野君。それにクドウさん。僕は……それは受け取れません。僕は……このままで居ようと思います」

「えっ?」

「な、何言ってるんだ、大野!?」

「そうだよ、大野ん! 人間に戻れるんだよ?」

まさかの返答に西野君だけでなく、六花ちゃんや柴田君も驚きの声を上げる。

「い、いいんだ。僕がこうなったのは、僕のせいだし……。それなのにそんな貴重なアイテムを消費するなんてとんでもないよ」

「でも、お前……」

「そ、それとも西野君たちは、ゾンビになった僕とじゃもう一緒に居られない?」

「そんな訳ないだろっ。どんな姿になっても、お前は俺たちの仲間だ」

「そうだよ、大野ん!」

「当たり前ぇだろうが! 寝言ほざいてんじゃねぇぞ、テメェ」

西野君たちの言葉に、大野君は笑みを浮かべる。

「ほ、ほら……それなら、何も問題ないじゃんか……」

「でも、お前……。お前はそれでいいのか?」

「い、いいよ。それに戦いが終わった後、言ったよね。僕は……仲間を殺したって」

「大野……それは……」

その辺の事情は、俺も西野君から聞いた。

大野君は全てを話したらしい。

西野君たちと別れた後、別の仲間と再会し、もみあいの末、彼らを殺してしまった事。その後、魔石を食べてモンスターになった事。全部、何もかも話したのだ。

「仲間を殺して、モンスターになって、罪の塊みたいになった僕にとって、皆が受け入れてくれた事……。それだけで僕は救われてるんだ……」

大野君は頭を下げる。

「だから……皆、ごめん。でも……お願いします。これからは逃げない。ちゃんと向き合う。一生をかけて罪を償う。絶対に皆を裏切らない。だから……僕から罪を奪わないでほしいんだ……。無かった事になんてしたくないんだよ……」

「大野……」

「大野ん……」

「けっ……」

頭を下げる大野君へ、柴田君がげんこつを入れる。

「痛っ、何するんだよ、柴田君!」

「うるせぇ! そんな辛気臭ぇ顔してれば、殴りたくもなんだろうが! テメェがどう思おうが勝手だがな、俺はテメェを見捨てるつもりは毛頭ねぇんだよ!」

「……え?」

「ダチ見捨てるなんて真似は……もう二度としたくねぇんだよ……俺も」

「柴田君……」

「ちっ、そんな目で見るんじゃねぇよ。気色悪ぃ。ゾンビになったら余計に暗くなりやがって」

「ひ、酷いよ、柴田君っ」

「そーだよ。種族差別はんたーい」

「なっ、相坂テメェどっちの味方だ!」

「んー? 私も人間辞めちゃったから大野んの味方かなー? 鬼人はゾンビの味方なのですー」

「お、おま……西野さん! 西野さんも何か言ってやって下さいよ!」

「……すまん、柴田。俺も六花の進化先を勝手に決めてしまったし、そう強くは言えないな」

「そ、そんなー……」

「うははー、三対一だねー、柴っちー」

「うるせー、ちくしょおおおお!」

うーん……これ、俺忘れられてないか?

まあ、いいか。結果的には問題ないみたいだし。

西野君たちのまとまりを見た俺は、そそくさとその場を退散するのであった。

もう一度屋上へ戻って来た。

さて、それじゃあ調べ物を再開しますか。

俺は魔石と種をもう一度取り出す。

あ、ついでにポイントだけでも見ておこうかな。

入ってるポイントの量が気になったので、確認を込めて俺はステータスを開く。

クドウ カズト

新人レベル16

HP :912/912

MP :422/422

力 :489

耐久 :506

敏捷 :1023

器用 :1002

魔力 :185

対魔力:185

SP :262

JP :133

おお! 入ってる、入ってる。

一気にレベルが11も上がったからな。ポイントの量もとんでもないことになってるなぁ。

それに敏捷と器用が四桁になってる。

凄いなこりゃ。

(うーむ、そろそろ保留にしてた第五職業も視野に入れてみるか……)

調べ物が終わったら、そっちの方も考えてみるとしよう。

やっぱりこの瞬間はちょっとワクワクするよな。

あ、でもその時には一之瀬さんやモモたちにも要相談だな。

彼女たちの意見も参考に、慎重に選ぶとしよう。

「ん……?」

ふと、俺は気配を感じて振り返った。

誰も居なかった。

……気のせいかな?

いや、気のせいだよな。

ここには俺とモモたちしかいない。

それに誰かいれば、すぐにスキルで分かるはずだ。

そもそもこの『安全地帯』にモンスターが入って来れるわけないしな。

「まあ、いっか。さて、とりあえずポイントも確認したし、さっさと調べるとしよう」

「へぇー、何を調べるのよ? そっちの種? それとも魔石?」

「両方だよ。アイテムボックスじゃ、『神樹の種』って表示されたけど、これが何なのか調べて――って、え……?」

いや、ちょっと待て。

今の声……誰だ?

今、ここには俺だけしかいないはずだ。

一之瀬さん? いや、違う。

聞いたことのない女性の声だった。

どくん、と心臓が脈打つ。

ざわりと、寒気がして俺は再び後ろを振り返った。

「――」

誰も居ないはずの屋上。

スキルにも反応がない。

気配もまるでない。

なのに、

――誰かが居た。

「……え?」

女性だった。

銀色の長い髪に、真っ白な肌。

白いローブを身に纏い、手には捻じれた杖を持ち、映画やゲームに出てくる魔術師を連想させる姿の女性が、俺の後ろ――少し離れた場所に立っていた。

本当に唐突に、突然に、それはそこに現れたのだ。

彼女はぺたぺたと己の体を触り、ふぅっと息を吐く。

「ああ、良かった。成功したみたいね、いや、私とお母さんの組んだ術式だもの。絶対に成功するに決まってるわよね、うん」

「……だ、誰だ、アンタ?」

「やっぱり神樹――いえ、ペオニーの影響は大きかったみたいね。ここら一帯のトレントが受け持っていたはずの『異界固定』の効果がかなり薄くなってる。おかげでようやく私もこっちに来る事が出来た」

なんだ?

この女は何を言っている?

そこで女はようやく俺の方を見た。

「あなたのおかげよ。本当に感謝するわ」

「……」

「何よ、そんな怖い顔して? ああ、そうか。私が誰か分からないのね。ええ、そうよね。まずはちゃんと自己紹介をしないといけないわね」

彼女は杖を持っていない方の手を胸に当てて、片膝を突き、俺に礼をした。

「私の名はリベル――リベル・レーベンヘルツと申します。レーベンヘルツ家現当主にして、当代の『死王』。そして、私という存在を貴方たちの言葉で分かりやすく言い表すならば――」

彼女はそこで顔を上げ、こう言った。

「――異世界人」