軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガライ式

「ガライの決闘……?」

猿が眉を寄せる。

「なんダ、それハ」

「知らんのか」

キリーブは鼻を鳴らした。

「まあ、猿が知らんのも無理はないか」

「絞め殺すゾ」

猿が歯を剥き出す。

「審判を侮辱するナ。次に言ったらお前の後頭部をお前の背中にくっつけル」

「前言撤回しよう」

キリーブは慌ててそう言うと、気を取り直すように咳払いをした。

「ガライ貴族の決闘の要諦は」

キリーブは胸を反らす。

「名乗りと口上だ」

その言葉に、猿とアスルが顔を見合わせた。

「名乗りなラ、さっきポロイスがやっていタ」

猿が口を挟む。

「あれと同じカ」

「あんな簡単なものじゃない」

キリーブは首を振る。

「もっとしっかりと名乗らせてもらう。命を懸ける者同士、殺す相手のこともろくに知らないのはおかしいだろう。その人間の人生を自分の手で終わらせるんだぞ。だから、お互いに自分のそれまでの人生を名乗りという形で表現するわけだ」

「ふム」

猿は頷く。

「それぐらいでいいなラ、まア」

「まだだ。最後まで聞け」

キリーブは手を挙げて猿の言葉を遮った。

「名乗りが終わったら、次は口上だ。何のために決闘するのか。相手を殺してまで通したい筋とはなんなのか。それを互いに理解しなければ良い戦いにはならないだろう。これは決闘であって酔っぱらいのケンカではないのだからな。口上で、互いに決闘における己の正当性を堂々と主張するわけだ」

「ふム」

猿は頷く。

「それで終わりか」

「まだだ。剣を合わせたら、いよいよ言葉を交わす最後の機会だ。もう後は、死ぬか生きるかだ。己の強さを誇示し、相手の弱さを指摘する。まず言葉で、相手の意気を挫くわけだ。それが終わったら、勝負開始だ」

「前置きの長い勝負だナ」

猿は何度も瞬きした。どうやら呆れているようだ。

「そんなことをしテ、何が面白いのか分からン。貴族というのは暇なのカ」

「ばかを言え」

キリーブは吐き捨てる。

「本来、命を懸けた決闘というのはこれくらいの儀礼を尽くした神聖性があってしかるべきなんだ。それをお前らは、まあ、あそこの二人もだが、談話室でちょっと遊戯盤を囲むくらいの気軽さでほいほいと。そんなのは僕に言わせれば決闘でも何でもない。ただの殺し合いだ」

「剣の勝負をするとは言ったガ、決闘をするとは誰も言っていないゾ。お前の仲間も含めテ」

猿が反論するが、キリーブは聞いていなかった。

「とにかく僕は自分の命を懸けるのに、そんな軽々しいやり方ではできない。ガライの貴族として、きちんと流儀に則ったやり方をしなければ。そうであれば、負けたとしても諦めがつくというものだ」

「面倒な奴だナ」

猿は人間のように嘆息した。

「よく喋ル」

それから、アスルに顔を向ける。

「どうすル、アスル」

「パグフスの言う通り、確かに前置きは長いが」

アスルはそう言って、薄く笑った。

「勝負自体は変わらん、ということだな」

「ああ」

キリーブは頷く。

「勝負は同じだ。剣が先に当たった方の勝ちだ。お前のその鎧か、僕のこの胸当て……胸……」

胸を叩こうとしたキリーブは、自分が胸当てをまだ着けていないことに気付いて目を白黒させる。

「しまった。胸当てを着けていない」

「なんダ、やっぱり防具は必要カ」

猿が言った。

「どうせ負けたら死ぬかラ、最初から防具なしでやる気なのかと思っていたゾ。見かけによらズ、なかなか勇敢な奴だト」

「ばかも休み休み言え」

キリーブは慌てて首を振る。

「それとこれとは、話が別だ」

「おうい、キリーブ」

後ろからコルエンの大きな声が響いた。

「ほらよ」

と同時に、コルエンの外した胸当てが宙を滑るように飛んできた。

浮遊の術。

治癒術の片手間ながらも、キリーブの足元にきっかりと胸当てを止めてみせたコルエンに、キリーブは渋い顔で一応称賛する。

「相変わらず、雑なくせにこういうコントロールはいいな」

「まあな」

コルエンは笑う。その顔にはもう血の気はない。しゃがみこんだ足元は全て血で真っ赤に染まっていた。

「悪い、結構俺の血で汚れてるぜ」

「ああ。そうだろうな」

キリーブは、せっかくコルエンのよこした胸当てを触りもせず、猿を見た。

「審判。この胸当ては血塗れだ。交換を要求する」

「いいだろウ」

答えて、猿はキリーブの足元に右手を向けた。

どん、という鈍い音とともに胸当てが粉々に砕け散り、キリーブは顔を引きつらせる。

「二つもあると紛らわしいからナ」

猿はこともなげにそう言うと、何もない空間からもう一つ同じ胸当てを取り出した。

「これを着けロ」

「うむ」

キリーブは鷹揚に頷くと、胸当てを受け取り、着け始めた。

だがすぐに首をひねると、アスルに背中を向ける。

「着け方が分からん。僕の仲間はあの通りだ、手伝え」

アスルは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに胸当ての紐に手を伸ばした。

「汝は、臆病なのか肝が据わっているのか分からんな」

「分かってたまるか」

おとなしく胸当てを着けてもらいながら、キリーブは答える。

「こんな異常な状況で臆病もくそもあるか。僕だって自分が何を言っているのか分からん」

「初めてだナ」

猿が歯を剥き出して笑う。

「アスル。お前に胸当てまで着けさせた相手ハ」

「うむ」

アスルは頷いた。

「期待が高まろうというもの」

「勝手に高めるな」

キリーブはすかさず釘を刺す。

「よし」

アスルがキリーブの背中を叩いた。

「これでよかろう」

「おう」

キリーブはアスルに向き直ると、肩をぐるぐると回した。

「重いな」

「もういいナ」

猿が言った。

「アスル。ガライ式とやらでやることに同意するんだナ」

「うむ」

アスルは頷く。

「我は構わん」

「よシ」

猿は両手を挙げた。

「それでハ、始めるゾ」