軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

九つの兄弟石の腕輪

「試験の説明をしよう」

ライヌルは言った。

「ルールは単純明快だ」

そう言いながらライヌルは、足元に横たわるウェンディを見下ろす。

「君たちには、このウェンディお嬢様の命を救ってもらう」

「ウェンディに何をした」

低い声で、アルマークが言った。その声に込められた、有無を言わさぬ強い殺気に、誰もがアルマークを見た。

「そんな怖い顔をするな、アルマーク君」

ライヌルはあくまで悠然とした態度は崩さない。

「何もしていないさ。ただ、この腕輪を嵌めただけだ」

そう言って、膝をつくとウェンディの右腕で怪しく輝いている腕輪に触れる。

「九つの兄弟石の腕輪」

ライヌルは、その魔法具の名を厳かに告げた。

「この腕輪には、名前の通り九つの宝玉が嵌められている。赤、青、白、黒、緑、黄、紫、そして金と銀。この石に込められた私の魔力を全て消し去ることができれば、ウェンディお嬢様は何事もなく目を覚ます」

「石に込められた魔力を消すだって?」

ルクスが眉をひそめる。

「どうやって」

「君たちの命を懸けてさ」

腕輪に触れていたライヌルの手が、黒い霧を帯びた。それに呼応するように、腕輪の九つの宝玉が光を放つ。

「さあ、時間だ」

ライヌルの声とともに、九つの宝玉は腕輪を離れ、宙に舞い上がった。

石は、空中で円を描くようにぐるりと回り、それぞれが禍々しい光を放つ。

「慌てるな」

石を見上げながら、ライヌルは楽しそうに言った。

「もうすぐだ。すぐに存分に力を振るえる」

その言葉が聞こえたわけでもないだろうが、九つの石はピタリと動きを止める。

「行け」

ライヌルが腕を振った。その瞬間、石がそれぞれの色の軌跡を描いて飛び去っていく。

生徒たちが見上げる中、宝玉は凄まじい速度で、バラバラの方向に飛んで消えた。

「君たちがすべきこと、それは今飛び去った石を集めてくることだ」

ライヌルは言った。

「九つの石が全て再びこの腕輪に収まれば、それでこの腕輪は外れる」

「なんだよ、その宝探しみてえな話は」

トルクが鼻を鳴らす。

「そんなことが、命懸けだってのか」

「ただの宝探しではないのだろう」

ウォリスがライヌルを冷たい目で見やる。

「あの邪悪な魔法具に嵌められた宝玉だ。石に何か仕掛けがあるな」

「そこは、探してみてのお楽しみだ」

ライヌルは笑った。

「と、言いたいところだが、これは試験だからね。公正を期すために教えてあげよう」

「何が公正だよ」

ネルソンが吐き捨てる。

「騙し打ちでウェンディをさらいやがったくせによ」

「散らばった石は全て、魔術師の姿を取って君たちを待つ」

ネルソンの言葉に構わず、ライヌルは言った。

「いずれ劣らぬ強力な魔術師揃いだ。彼らを倒さなければ、おとなしく元の石には戻ってくれないぞ」

ライヌルの言葉に、生徒たちに再びざわめきが広がる。

「魔術師と戦え、だと」

エストンが顔を歪める。

「くだらないな。魔法は殺し合いの道具などではない」

「魔法の世界を自分の狭い視野で見知ったつもりでいるのは君の勝手だ」

ライヌルは笑顔で言い放つ。

「その間に、ウェンディお嬢様はお亡くなりになるがね」

その言葉に、エストンは苦々しい顔で口をつぐむ。

「要するに石が変化した魔術師と戦って勝ちゃいいってことだろ」

代わりにコルエンがそう言ってにやりと笑った。

「おもしれえ。こういう試験なら俺は大歓迎だぜ」

「不謹慎なことを言うな」

ポロイスが険しい声でそれを諫める。

「ウェンディの命が懸かっているんだぞ。面白いなどと」

「おう。そうだったな」

さすがのコルエンも表情を改める。

「すまん」

「今のウェンディの状態を教えてもらおうか」

アインが口を挟んだ。

「なぜ、彼女は意識がないんだ」

「腕輪の力さ」

ライヌルの答えは明快だった。

「今、ウェンディお嬢様の魂は腕輪の力によって肉体への干渉を封じられている。大丈夫。まあ、もつさ。きっと今日の夜くらいまではね」

「なんだと」

ネルソンが叫んだ。

「今日の夜だって? じゃあ、それが過ぎたらどうなるんだよ」

「魂は、腕輪の糧になる。死ぬということだ」

ライヌルはあくまで明快に答える。

「そうならないよう、ぜひ諸君には頑張ってもらいたい」

「ウェンディ……」

リルティが呟いた。

女子たちの間に、静かに動揺が広がっていく。

「ウェンディの命を人質に取ったわけか」

ウォリスがせせら笑った。

「下賤な闇の魔術師のやりそうなことだ」

その言葉に、ライヌルは薄く笑う。

「なんとでも言うがいい。私には、時間がないのだ」

「時間がないのは僕らのほうだ」

レイドーが言った。

「ウェンディの命が懸かっているというのなら、すぐに始めよう」

そう言って、ウォリスを振り向く。

「いいね、ウォリス」

「ああ」

ウォリスは頷いた。

「そうだな。時間が惜しい」

その会話の影で、アインがそっとアルマークに歩み寄っていた。

「アルマーク。君の気持ちは分かるが、突出はするな」

アルマークは答えなかった。ライヌルの足元に横たわるウェンディからじっと目を離さない。それでもアインは続けた。

「この戦いはおそらく、君一人が頑張ってどうにかなるようにはできていない」

それでもアインを見ようとしないアルマークに、アインは言った。

「図書館の罠で、君が僕に言ってくれた言葉を返す」

その言葉に、アルマークが目だけでちらりとアインを見る。

「僕は僕の仕事をする」

アインは言った。

「君も自分の仕事をしろ」

ぐっ、と歯を食いしばってアルマークが目を閉じる。ややあって、口の端から息を漏らした。

「……分かった」

目を開けたアルマークは、声を絞り出した。

「今は、耐えろ」

アインはアルマークの肩を叩いた。

「君の怒りがぶつけられるときは、必ず来る。仲間を信じろ」

「すまない、アイン」

アルマークはマルスの杖を握っていた右腕を下ろす。

「冷静さを失っていた」

「前回の僕もそうだった」

アインは頷く。

「大事な人間の危機とは、そういうものだろう」

「さて、諸君」

生徒たちの前に立つライヌルが、声を改めた。

「宝玉を集めてもらうとはいえ、君たち全員がぞろぞろと宝玉探しに行くのも緊張感に欠ける」

そう言って微笑むライヌルをネルソンが睨みつける。

「またおかしなことを言い始めたぞ。何を企んでやがる」

「だから、用意しておいたよ」

ライヌルが左腕を上げると、草原にいくつもの人影が立ち上った。

黒い人型の霧。

実体のないそれはまさに、人影としか言いようのないものだった。

「魔影」

そう呟いたのは、レイラだ。

「ほう」

ライヌルが目を細める。

「よく知っているね」

レイラがその正体にいち早く気付いたのは、泉の洞穴でこの魔法生物たちと遭遇していたからだった。

「気を付けて」

レイラの凛とした声が響く。

「闇の魔影よ。触れると、魂を抜かれる」

魔影がじわりと近付くと、生徒たちは後ずさった。

「必要以上に恐れることはない」

そう言って前に出たのは、ウォリスだった。

「魔法はよく効く」

突き出した右手から放たれた稲光が魔影を消し飛ばす。

「近付けなければいいだけだ。僕らの力なら、なんということもない」

「その通りだ」

ライヌルは頷いた。

「ウェンディお嬢様の身体を、ここで君たちに守ってもらう。宝玉を探しに行くのは誰なのか、よく選別することだ」

アルマークたちは周囲を見まわす。

魔影は、見える範囲でもすでに十数体。まだこれからもじわじわと姿を見せるのだろう。

「戦いには、杖が要るね」

そう言ってライヌルが再び左手を振ると、何もない空中からばらばらと何本もの杖が降ってきた。

「その杖に仕掛けはない。好きに使いたまえ」

ライヌルは微笑むと、それから表情を改めた。

「さて、それでは私は別の場所で待たせてもらうとするよ」

そう言って、ウェンディから一歩離れた時だった。

ぴしり、と乾いた音がした。

ライヌルのすぐ脇の何もない空間に、突如ひびが入った。

「む」

ライヌルが目を見張る。

「この異空間に入ってくるだと。まさか」

空間が穿たれるように、穴が開いた。

そこから伸びた腕が、ライヌルの胸ぐらを掴む。

「ぐっ」

乱暴に引き寄せられて、ライヌルが呻いた。

翻る、もう一つの灰色のローブ。

「先生!」

ノリシュが叫んだ。

今まで生徒には決して見せたことのない怒りを漲らせ、イルミスが姿を現した。