軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狼たち

黒狼騎兵団は母隊を後方に残し、縦に長く伸びた行軍隊形をとっていた。

ギルフィン魔道傭兵団は、黒狼騎兵団から一定の距離を保って追随してくるかと思えば、逆に先回りするような動きも見せた。その動向に、幹部たちは神経を尖らせていた。

偵察部隊のガドルがもたらしたのは、今日も変わらない、ギルフィン魔道傭兵団の不穏な動きの情報。

そして、やはり彼らの動きが意図したものであるということ。

ジェルスとレイズは、それを敵対行動と判断した。

「面白くない話だ」

そう言いながら、後方から馬を駆ってきたのはモルガルドだった。

渋い顔でジェルスとレイズに呼びかける。

「ギルフィンの件はもう報告を受けたのか」

「ああ。今聞いたところだ」

ジェルスは答える。

「連中、うちとやり合うつもりなんだろ」

「厄介だ」

二人に馬を並ばせ、モルガルドは言った。

「蛇骨傭兵団に付く傭兵団もいくつか出てくるかもしれんとは思っていたが」

そう言って、苦いものでも飲んだように顔をしかめる。

「ギルフィンが向こうに回るとはな。実に厄介だ」

「ちょうどいいじゃねえか」

ジェルスは鼻を鳴らした。

「俺は前から気に食わなかったんだ、戦場で剣の代わりに小賢しい魔法を使うあの連中が。敵に回るならちょうどいい」

そう言って、馬上からまた唾を吐く。

「叩き潰す」

「団長殿の威勢がいいのは喜ばしいことだがな」

答えるモルガルドはあくまで冷静だ。

「“蛇の王”の得体の知れない力に、ギルフィンの魔法まで加わったら面倒なのは間違いない。やつらを合流させたくはないな」

「合流する気なら、こんなところでもたもたしてねえさ」

ジェルスは嘲るように言った。

「“蛇の王”に手土産が要るんだろ」

「手土産、だと」

モルガルドが目を見張る。

「ああ」

ジェルスは頷いた。

「やつら、手ぶらじゃ行けねえんだ。“蛇の王”にでも言われたんだろ。我々の仲間になりたいのであれば、それ相応の戦果を見せろ。実力を示せってな」

「ふん」

モルガルドは面白くなさそうに腕を組む。

「我々の首が、合流の手土産代わりということか」

そう言って、ジェルスをじろりと見た。

「甘く見られたものだな、“黒狼”ともあろう男が」

「舐められるのにゃ慣れてる」

ジェルスは口元を歪めて笑う。

「舐められたままでいたことは一度もねえけどな」

笑顔とは裏腹の鋭い眼光。

それを見て、モルガルドは納得したように頷いた。

「そこまで考えているのなら、いい。俺は俺の仕事をするだけだ」

「ああ。よろしく頼むぜ、モルガルド。お前がいねえとうちは回らねえんだからよ」

ジェルスはそう言って目を細める。

二人のやり取りを黙って聞いていたレイズが、不意に吐き捨てるように言った。

「やるならやるで、さっさとかかってくりゃいいんだ」

その声には、はっきりと嫌悪感が滲んでいた。

「人のケツをこそこそと追いかけまわすような、中途半端な真似をしてねえでよ。魔術師ってやつは本当にどうしようもねえな」

その言葉に、モルガルドが眉をひそめる。

「団長殿に引き続いて、副官殿までずいぶんと威勢がいいな。これは近いうちに“狼の王”が誕生する兆しか」

「俺はいいとして」

ジェルスが苦笑した。

「お前も今日はずいぶん魔術師に厳しいな、レイズ。いいのかよ、お前の息子は魔術師になるんじゃねえのか」

「ああ、そういえばそうだったな」

モルガルドが頷く。

「アルマーク。元気にしているといいが」

「あいつが行ったのは、南の魔法学院だ」

レイズは答えた。

「こっちで傭兵の真似事してる連中と一緒にするな」

「ノルク魔法学院か」

モルガルドが言った。

「懐かしいな。フィランあたりのことだったか。学院長だとかいう爺さんを拾ってきたのはお前だったな」

「ああ」

レイズが頷く。

「ヨーログ、な」

「弱そうな爺さんだった」

そう言ってジェルスが笑う。

「だが、あれが本当の魔術師なんだろうな」

「ほう」

モルガルドが興味を惹かれた顔をする。

「俺はよく覚えていないが、確かに弱そうな爺さんだった気がするな。それがどうして、本当の魔術師なんだ」

「弱そうだからだよ」

ジェルスは笑いを含んだ目で即答する。

「本当の魔術師なら、強く見せる必要がねえだろ」

「ふむ」

モルガルドは首を傾げる。

「ジェルス。お前の言うことはよく分からんな」

「俺には分かるぜ」

レイズが言った。

「こっちの魔術師を見ろ。どいつもこいつも、おどろおどろしく、禍々しく。一生懸命自分を強そうに見せてる」

そう言って口元を緩める。

「そりゃもう、涙ぐましい程にな」

「辛辣だな」

ジェルスが嬉しそうに笑う。

「だが、間違っちゃいねえ」

「強くなれば余計なものが削ぎ落ちてくるのは、傭兵だって同じだ」

レイズは言った。

「お前だって知ってるだろ。モルガルド」

「傭兵に例えてもらえれば、俺にも分かる」

モルガルドは頷く。

「だが、そうするとあれか」

モルガルドの口調はあくまで冷静だ。

「南の学院で学ぶと、アルマークも弱そうになるということか。戦場に出た時は、子供だてらになかなかの雰囲気をまとっていたものだが」

「そもそもあいつが杖を振り回すところが、俺には想像つかねえ」

ジェルスはおかしそうにそう言うと、レイズを見た。

「いつもお前の後をくっついて、剣を振り回してたのによ」

「俺にだって、想像できねえ」

レイズは薄く笑った。

「だが、それが成長ってもんだろ?」

「違いねえ」

ジェルスは苦笑する。

「親の想像通りに育ったんじゃ、つまらんわな」

「だが、ノルク魔法学院と言えば」

モルガルドが言った。

「ギルフィンもそこの出身だと聞いたが」

それを聞いて、ジェルスがにやりと笑う。

「ああ、そういやそうだったな。アルマークも、卒業したら北に帰ってきたりしてな」

「そりゃ、あり得ねえな」

レイズがあっさりと首を振ったので、ジェルスはかえって興味をそそられた顔をした。

「ほう。そりゃどうしてだ」

「北は、あいつの生きる土地じゃねえからさ」

レイズはそう言って、身を切る冷たい風に目を細めた。

「南でもあいつは生きていける。俺たちと違ってな」

その言葉の意味を測りかねて、ジェルスとモルガルドは顔を見合わせる。

「なあ、ジェルス」

不意にレイズの声が低くなった。

「わざわざ、向こうから仕掛けてくるのを待ってやる義理もねえんじゃねえか」

「ほう」

ジェルスが目を見張る。

「お前にしちゃ珍しいことを言う」

「目障りだからよ」

レイズは飢えた狼のような狂暴な笑顔を見せた。

「踏みつぶして通ろうぜ」

「おう」

モルガルドも目を見張る。

「副官殿は本気だな」

「そこまで猛ってるなら、レイズ。久しぶりにお前が率いるか」

ジェルスは低く笑った。

「別動隊を」