軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

成果

トルクが教えてくれた石刻みの術は、杖を使ってのやり方だった。今、アルマークの手に杖はない。

だが仮に杖があったところで、アルマークには杖を用いての魔法の使い方などなおさら分からない。このままでいいだろう。

指先を、杖に見立てればいい。指先から魔力が石の裏側に突き抜けるイメージをすればいい。

アルマークは、石の前に屈みこんだ。

イルミスが眉をひそめてアルマークを見る。

見ていてください、イルミス先生。僕の瞑想の成果を。

アルマークは思った。

先生に教えてもらった瞑想のおかげで、僕だって石刻みの術ができるようになったんだってところを。

アルマークは石の表面に右手の人差し指をそっとついた。

ひんやりと冷たい石の指触りを感じながら目を閉じる。

よし。

ここで、魔力を練る。瞑想だ。

ふう、と息をはいて集中力を高める。

トルクの言葉をゆっくりと思い出す。

『目を閉じて深く息を吸い込め』

『体の中にある自分の魔力を感じろ』

一つ一つ思い出しながら、身体の中の魔力を徐々にうねらせていく。

『魔力を杖の先端に集めるイメージを強く持て』

流れのできた魔力を一点に集中していく。

指先に自らの魔力が集まってくるのを感じる。

『そして息を鋭く吐き出しながら、石の裏側に魔力が突き抜けるイメージをしつつ……』

石を割れるだけの力が指先に蓄えられていく。

よし。

アルマークは成功を確信した。

後はこれを発動するのみ。

しかしその時だった。

アルマークの瞑想に突如、雑音が混じった。

集中が不意に乱れる。

その雑音は直感と言い替えても良かった。

待て、と直感が告げていた。

本当にこれでいいのか。

このまま魔法を発動して、本当にいいのか。

なぜ今さらそんな不安を感じるのか、とアルマークはうろたえた。

前回失敗したから、それで魔法を発動するのが怖くなったのか。土壇場で覚悟が揺らいだのか。

やるって決めたじゃないか。ウェンディの親切に報いるためにも、僕は……

アルマークはウェンディの顔を思い出した。

いつも優しいウェンディ。さっきも、自分が試験前だというのに、アルマークを励ましていってくれた。

ウェンディはなんと言ってたっけ。

『大丈夫。アルマークが今までやってきたことを信じて』

そうだ、ウェンディはそう言っていた。

今までやってきたこと。

やってきたことを信じる。

ウェンディの言葉が電光のように頭の中を駆け抜けた。その瞬間、アルマークは頭の中の霧が一瞬で晴れたような感覚を覚えた。

さっき感じた不吉な直感の正体がアルマークの脳裏で具体的な形を取った。

それと同時に、試験前に他のクラスメイトがかけてくれた言葉が次々に脳裏をよぎる。

『平常心だよ、アルマーク』

モーゲンが言っていた。

『いっちょまえに、お前が緊張する必要があるのか。自分にも何かできるとでも思ってるのか』

トルクが言っていた。

『だって先生がいつも言ってるよ。目に見えるものはそんなに大事じゃないって』

デグが言っていた。

みんな、言葉は違うけれど指し示す方向は一つだった。

みんながとっくに答を教えてくれていた。僕だけが分かっていなかった。答は、とっくに自分の中にあった。

アルマークは目を開けた。

そっと石から指を離す。

石の前に膝をつき、ゆっくりと床に座り込む。

怪訝そうなイルミスと目が合う。

アルマークは小さく頷いて、再び目を閉じた。

先生は、授業の成果を見せろ、と言った。この石をどうこうしろ、とは一言も言わなかった。

僕のこの授業での成果は何だ。

それは……この、瞑想だ。

アルマークは、心が緊張から解き放たれ、すっきりと澄みわたっているのを感じた。

僕は、僕に今できることをやる。

アルマークは集中して、身体の中の魔力を練った。

丁寧に、丁寧に、今までイルミスから教わってきたアドバイスを全て思い出して、その通りに練った。

体内の魔力の質が、自分にも分かるほど高まり、澄んでいくのを感じた。

これが瞑想か、とアルマークは自分に驚嘆した。ここまでの集中は初めてだった。すでにこれが試験であることを忘れていた。

「よし、そこまで」

というイルミスの声でアルマークは我に返り、ようやくこれが試験だったことを思い出して目を開けた。