軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

海岸

「おらぁ!」

ネルソンの蹴り上げた海水が、きらきらと日光を反射して輝く。

「うおー! 最高だぜ!」

ネルソンの歓声が砂浜中に響き、アルマークはウェンディと顔を見合わせて苦笑した。

「こうなると思った」

ウェンディが、楽しそうなネルソンを見て自分も楽しそうに笑いながら言う。

海に入る気温ではない。

レイドーは確かにそう言っていた。

それに対して反論する者もいなかった。

だから、ネルソンとデグも、最初はアルマークやほかの女子たちと同じように、波打ち際で寄せてくる波と追いかけっこをするような他愛もない遊びをしていたのだ。

そう、最初のうちは。

だが、やはりそれで満足できるはずはなく、二人は徐々に徐々に海へと近付いていった。

アルマークとレイドーが、

「あそこまで近付いたら濡れちゃうんじゃないかな」

「そうだね。二人とも分かってやってるのさ」

というような会話をしているときだった。

案の定、不意に来た大きめの波からデグが逃げそこねて、膝上くらいまで一気に水に浸かった。

「ああ! 冷てえ!」

デグが情けない声を出し、それを見て大笑いしていたネルソンも次の波から逃げようとして足を滑らせて派手に転び、頭から海水をかぶった。

「ぐわあ!」

なぜか嬉しそうに叫んで、ネルソンが水の中を這い回る。

「絶対やると思った」

ノリシュが顔をしかめた。

「あいつが海に入らないわけないもんね」

「うん」

リルティも頷く。

「自分から入りに行ったように見えたよ」

「もうここまで濡れちまったら関係ねえな」

ネルソンが大声でそんな言い訳をして、上衣を脱ぎ捨てる。

「それもそうだな」

デグが脱いだ上衣も、砂浜にすごい勢いで飛ばされてきた。

「あーあ」

呆れた顔でノリシュが笑う。

「ま、やりたい人にはやらせておけばいいわ」

そうして、ネルソンとデグは二人でしばらくずぶ濡れになりながら遊んでいたのだが。

「あんたたち、ほどほどにしなさいよ」

ネルソンたちに向かってそう言ったノリシュの顔がひきつった。

ずぶ濡れの二人が海から上がり、満面の笑顔で走ってきたのだ。

「ちょっと、あいつらこっちに来る!」

「怖い!」

ノリシュとリルティはレイドーを盾にして走って逃げ出した。

「レイドー!」

ネルソンがレイドーの肩を掴み、デグもその腕を掴む。

「お前も行こうぜ」

「海は楽しいぜ」

「え、いや僕はいいよ」

レイドーは首を振るが、ネルソンは構わずデグを振り返った。

「やっちまってくれ、デグ」

「おうよ」

デグの浮遊の術でレイドーの身体が浮いた。

「え、うそだろ」

その言葉を最後に、レイドーの身体は一気に海の中に放り出される。

「ぷわっ」

ずぶ濡れになったレイドーが水面から顔を出した。

「気持ちいいだろ、レイドー」

ネルソンが叫ぶ。

「海はやっぱり、入ってなんぼだぜ」

「やばい。あいつら、本気だ」

ノリシュが顔をこわばらせた。

「次は誰だ」

ネルソンが次の獲物を探して走る。

「ばか、こっち来るな!」

ノリシュが叫び、リルティは悲鳴を上げてうずくまる。

それを見て、この二人はいつでも捕まえられると判断したのだろう、ネルソンはアルマークとウェンディに向き直った。

「まずはアルマークとウェンディ。お前らだ」

駆け寄ってくるネルソンを見て悲鳴をあげて逃げようとするウェンディを守るように、アルマークが立ちはだかる。

「だめだ、ネルソン。これ以上は行かせられない」

「アルマーク。お前に恨みはねえが」

ネルソンはにやりと笑って振り向いた。

「デグ!」

「おうよ」

ネルソンの後ろから走ってきたデグが、アルマークを浮遊の術で浮かせようとする。

その瞬間、強烈な風。

海岸の砂が巻き上げられ、デグを砂嵐が襲った。

「うおっ」

顔面に砂をまともに浴びて、デグが目を閉じる。

「やりたい放題は許さないわよ」

ノリシュの風の術だった。

「目が、目が見えねえ」

目をこすりながら、それでもデグが見当をつけて腕を振るう。

「この辺か」

「ばか、デグ。俺じゃねえ」

空中に浮き上がったネルソンが叫ぶ。

「あれ?」

その声にデグが腕を下ろそうとするが、とっさにアルマークがネルソンの声をかき消すように叫んだ。

「うわ、やめてくれデグ。下ろしてくれ」

「なんだ、やっぱりアルマークか」

デグがそのままネルソンの身体を海に放り出す。

「ばかやろう! そんな簡単に騙されてんじゃねえよ!」

絶叫とともにネルソンの身体が海に落ちて大きな飛沫を上げた。

「あれ?」

ようやく目を開けたデグが辺りを見回す。

その身体が、宙に浮いた。

「行ってらっしゃい、デグ」

アルマークの後ろからウェンディがそう言うと、にこりと微笑んで腕を振った。

「うおぉ」

水面から顔を出したネルソンのすぐ隣にデグが落下し、また大きな水しぶきを上げる。

「くっそぉ」

ネルソンが叫んだ。

「やれやれ」

ノリシュがようやくほっとした笑顔を見せる。

「大丈夫だった? リルティ」

「うん」

リルティがおそるおそる立ち上がる。

「怖かった」

アルマークはウェンディを振り返った。

「ウェンディも大丈夫かい」

「ええ」

ウェンディは頷いて微笑む。

「さすが、とっさの機転がきくね、アルマークは」

「いやあ、それほどでも。君の浮遊の術だって」

アルマークが照れて頭を掻いたそのとき、不意に空がかき曇った。

「え?」

頭上を見上げたアルマークたちは、巨大な海水の塊が自分たちの上に浮いているのに気付く。

「もうここまで来たら」

海の中から上半身を出したレイドーが、爽やかな笑顔で腕を振り下ろした。

「みんなで濡れようよ」

アルマークたちの頭に海水が降り注ぐ。

女子の悲鳴が砂浜に響き渡った。

一度海水で濡れてしまって踏ん切りがついたのか、ウェンディやノリシュたち女子も、波を跳ね上げながら追いかけっこをしたり、水を掛け合ったり、別人のように大胆になった。

しばらくそうして遊んだ後、息を切らしたウェンディが追いかけていたアルマークの腕を掴んだ。

「アルマーク、捕まえた」

「まいった」

そう言って笑顔で振り返ったアルマークは、走りすぎたウェンディが苦しそうに喘いでいるのを見て、打ち上げられた倒木を指差す。

「ちょっとあそこに座って休もうか」

「うん」

二人は並んで倒木に腰を下ろす。

「ああ、楽しかった」

ウェンディがそう言って笑った。

屈託のないウェンディの笑顔は、久しぶりに見る気がした。

「うん。楽しかった」

アルマークも頷く。

「来てよかったよ」

二人で、無尽蔵の体力ではしゃぎまわるネルソンと嫌な顔をしながらもそれに付き合うノリシュを見ていたが、やがてウェンディが呟くように言った。

「今は、忘れたいな」

「え?」

アルマークはウェンディを見る。ウェンディは穏やかな表情でネルソンたちを見つめながら、囁くように言った。

「忘れたいの。門のことも、試験のことも。この島にいる間だけは、全部忘れて楽しむの」

「うん」

アルマークは頷く。

「そうだね」

アルマークは、ウェンディの呼吸が整うのを待って、立ち上がった。

「楽しもう、ウェンディ」

そう言って、ウェンディの手を取る。

「今度は僕が追いかけるよ」

一瞬戸惑った表情でアルマークを見上げたウェンディは、すぐに嬉しそうな顔で頷いた。

「本気で追いかけないでね、すぐに捕まっちゃうから」