軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夕食

「お待たせ」

ノリシュたちが夕食とともに果汁水の注がれたコップを持って戻ってきた。

アルマークたちの隣に腰を下ろすときに、ウェンディがアルマークのコップに自分の果汁水を三分の一ほど注いでくれる。

「はい、どうぞ」

「ありがとう、ウェンディ」

「あ、いいな」

ネルソンが声を上げた。

「ノリシュ、俺にも分けてくれよ」

「絶対に嫌」

ノリシュの返答にみんなが笑う。

「じゃあみんな揃ったし、ネルソン。いいよ」

レイドーが言うと、ネルソンが、おう、と返事をして咳払いとともに立ち上がった。

「えー、それでは皆様、本日はお集まりいただきまして、まことに……」

「うそでしょ」

ノリシュが目を見張る。

「何を始める気なのよ」

その言葉に、セラハが、あはは、と笑う。

「ネルソン、そういうところ真面目だからね」

「真面目っていうのかな」

ノリシュは首を傾げた。

「頭が悪いだけだと思う」

「うるせえな、黙って聞け」

ネルソンが顔をしかめる。

「僕らも結構待ってるからね」

モーゲンがちらりと心配そうな顔をする。

「あんまり夕食が冷めないうちに頼むよ」

「分かってるって」

そう言うと、ネルソンはもう一度咳払いをした。

「皆様、本日はお集まりいただきまして、まことにありがとうございます。今年も無事、こうして冬の休暇を迎えることができました。休暇が終わればすぐに試験ですが、頑張ってまいりましょう」

「誰なの、こいつは」

ノリシュの呟きにみんながくすくすと笑う。

「あまり私の話が長引きますと、モーゲン君に怒られてしまいますので」

「モーゲン君」

モーゲンが目を丸くする。

「それでは、皆様、コップをお挙げください」

ネルソンはそう言いながら、自らもコップを高々と掲げた。

「乾杯!」

「乾杯!」

みんながそれぞれにコップを合わせる。

アルマークもウェンディやリルティと笑顔でコップを合わせた。

ネルソンが勢いよく残りの果汁水を飲み干して、うまい、と叫ぶ。

「またそういうことをする。ちゃんと味わいなさいよ」

ノリシュの言葉にネルソンが目を剥いて反論する。

「俺の喉は味が分かるんだよ!」

また始まった、という顔のレイドーを尻目に、モーゲンは急いでスプーンを手に取る。

「さあ、食べよう。冷めたらおいしさが半減しちゃう」

「そうだね」

アルマークも頷いて食べ始める。

「ああ、久しぶりに飲むと、本当においしい」

セラハが果汁水のコップを両手で包んで嬉しそうに言った。

「本当にね」

ウェンディも頷く。

「甘いお菓子はたまに食べるけど、果汁水はまた別のおいしさだよね」

「うん。冬は、果汁水の露店も街に出ないしなぁ」

そう言いながら、セラハはふとリルティを見た。

「でも、リルティは結構甘いの飲んでるんだよね」

「ああ、あれは」

リルティはスプーンを置く。

「飲んでるっていうか」

小さな声で恥ずかしそうに言う。

「冬は喉をすぐに痛めちゃうから」

「ご両親がわざわざ蜜を送ってくれるのよ」

セラハの言葉にウェンディも目を丸くする。

「蜜を」

「水に溶かして飲むと、喉にいいの」

リルティが言うと、レイドーが穏やかに頷いた。

「リルティの喉は学院の宝だからね。大事にしてもらわないと」

恥ずかしそうにうつむくリルティを見て、ネルソンが声を上げた。

「あ、ノリシュ。そういやお前、リルティと同じ部屋だよな」

「そうだけど」

ノリシュが答える。

「何よ、いまさら」

「もらってるだろ、お前も」

ネルソンはノリシュをじろりと見た。

「リルティの蜜、お前もこっそり飲んでるだろ」

「の、飲んでないわよ」

ノリシュが首を振る。

「そんなには」

「ほら、やっぱり飲んでるじゃねえかぁ!」

「ノリシュには私があげたの。いつもお世話になってるから」

慌ててリルティが言う。

「ほしければ、ネルソンにもあげるから」

「いや、それは悪いからいいよ」

ネルソンはあっさりと首を振った。

「どうせ、俺の喉が枯れたところで誰も困らねえからな」

「それは言えてる」

セラハが笑顔で頷く。

「だけど、部屋に帰ればそれが飲めるわけだろ」

言いながらネルソンがコップをノリシュに突き出した。

「果汁水、少しくれよ」

「絶対に嫌」

その答えにまたみんなが笑う。

そんな他愛もないことを話しながら、夕食は和やかに進んだ。

「今日は補習、なかったんだね」

ウェンディがアルマークにそっと尋ねる。

「うん」

アルマークは頷いた。

「今日だけね。明日からまたあるんだけど」

「うん。それは知ってる」

ウェンディは微笑んだ。

「私も、もう一回行くもの」

「そうだったね」

アルマークも微笑む。

「ありがとう。助かるよ」

クラスメイトを講師にした補習は、すでに二周目も中盤に差し掛かっていた。

冬の休暇になるとノルク島を出ていってしまうトルクとウォリスの補習は、最初の一度だけだったが、それ以外のクラスメイトは一泊旅行に行く前にそれぞれ二回、アルマークの補習に付き合ってくれる計算になる。

「クラン島にも行けそうで、よかった」

ウェンディがそう言って、それから少し心配そうにアルマークを見る。

「行けるんだよね?」

「うん」

アルマークは頷いた。

「イルミス先生の許可ももらえたし、昨日、ネルソンとノリシュにも話したよ。船、まだ乗れるって」

「そう」

ウェンディは嬉しそうに笑う。

「楽しみだね」

「うん。楽しみだよ」

そう言ってから、アルマークはふと腕を組む。

みんなよりも圧倒的に食べるのが早いアルマークだけあって、目の前の皿はとっくに空だった。

「でも、ノルク島よりも暖かい島か」

アルマークは言った。

「僕には想像もつかないな」

「アルマークは寒いところの生まれだものね」

ウェンディが微笑む。

「うん。ノルク島の冬も、僕にとっては結構驚きだったんだけど」

アルマークもそう言って微笑む。

「まさか、冬なのにこんなに暖かいなんて」

「ここも、ガライ本土よりももっと暖かいからね」

ウェンディは頷いた。

「でも、クラン島の暖かさはこんなものじゃないからね」

「楽しみだ」

アルマークは、コップの中の果汁水を飲み干す。

「結局、来られないのはウォリスとトルクの二人かい?」

「あと、レイラもだよ」

ウェンディは言った。

「レイラは別に故郷に帰るわけじゃないみたいだけど、来ないって」

「どうしてだい」

「レイラは、志が高いから」

ウェンディは微笑む。

「本当は武術大会も魔術祭も、何もしなくてもすむならしたくないのよ。自分の勉強だけに没頭していたいの」

「なるほど」

アルマークは、以前、港でレイラから聞いた話を思い出す。

レイラに絡みつく見えない鎖は、決して切れてなくなってしまったわけではない。

ただ、レイラがそれを見せないように振る舞い始めただけのことだ。

「でも、能力が高いから、みんなが放っておかないの」

「そうだね。武術大会でも魔術祭でも大活躍だった」

ウェンディの言葉にアルマークは頷く。

「そういえばこの間の補習で、レイラが褒めてくれたんだ」

アルマークの言葉に、ウェンディは目を見開く。

「レイラが」

「うん」

レイラの二度目の補習となった、つい先日のこと。

レイラの指示に従い、マルスの杖をアルマークが実際に目にしたことのない動物に変えると、その再現性にレイラは目を見張った。

「前にも言ったかも知れないけれど」

レイラは言った。

「本当にあなたにはよく見えているのね」

「見えている?」

アルマークは首を傾げる。

「でも僕は、今までにこれを見たことがないんだよ」

そう言って、目の前のふわふわとした白い毛皮の獣を手に載せる。

「見えるということは、見えない部分を正確に予測できるということでもあると思うの」

レイラは手を伸ばして、その獣を撫でた。

「あなたには、それができる」

「見えない部分を正確に予測することが、よく見えるということか」

ウェンディは頷く。

「レイラらしい言葉だね」

「あ、おい」

ネルソンが不意に声を上げた。

食堂の窓から外を指差す。

ちょうど、闇の中を小さな炎が揺れながら遠ざかっていくところだった。

「ウォリスだ」

ネルソンは言った。

「あいつ、休暇前はいつも夜に帰るよな」

「港で一泊して朝一番の船に乗るんだろうけどね」

レイドーが答える。

「彼の実家は遠いから」

「モズヴィル家、か」

ネルソンが頷いた。

アルマークはその炎を見つめながら、先日のウォリスの言葉を思い出していた。

「僕は君の存在を信用していない」

それではウォリスは誰を信用しているのだろう。

あの小さな炎の先、遠くモズヴィル家の領内に、彼の信用できる人がいるのだろうか。

アルマークの視界の先で、炎はやがて木の陰に隠れて見えなくなった。