軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ひらめき

モーゲンがまとめて投げたひときわ小さな石のかけらたちを、アルマークの光の網ががっちりと捕らえた。

取りこぼしは一つもない。

「いいね」

モーゲンの声に、アルマークは笑顔で頷く。

お互いに汗だくになっていた。

「今日はそのへんにしたまえ」

二人の背後でイルミスが手を叩いたので、アルマークとモーゲンはそれでようやくずいぶん時間が経っていることに気付いた。

振り返れば、いつの間にかラドマールの姿はない。

「もうそんな時間でしたか」

アルマークの言葉にイルミスは頷く。

「ラドマールはもうだいぶ前に帰った。熱心なのはいいが、これ以上続ければ明日に差し障りが出るだろう」

「はい」

二人は頷いた。

「収穫があったようだな」

「はい。とても」

イルミスの言葉に、アルマークは笑顔で答える。

「モーゲン。やはり君が来るとアルマークが生き生きするな」

「いえ、僕といいますか」

モーゲンはにこにこと笑って首を振った。

「ちゃんと練習の前に食べたからだと思います」

「なるほどな」

イルミスは微笑む。

「道理だ」

二人は石を片付けると、イルミスに挨拶して外に出た。

汗で火照った身体に、冬の冷気が心地よかった。

「汗が冷える前に帰らないとね」

モーゲンがそう言いながら、ローブの袖を探る。

「そうだね」

アルマークは頷いて、モーゲンが袖からまた焼き菓子の袋を取り出すのを笑いを含んだ目で見た。

「今日はもうこの時間だと、夕食は片付けられてるだろうね」

「うん、そうだね。まあ、覚悟はしていたけれど」

モーゲンはそう言って頷くと、焼き菓子を一つ口に放り込む。

「僕はこの日のために前もって計画的に買い置きしてあるから、大丈夫なんだ。アルマークはどうするの?」

もぐもぐと口を動かしながらずいぶんと大げさなことを言って、モーゲンはアルマークを見た。

「ああ、僕はいつものことだから」

アルマークは微笑む。

「朝のパンの残りをもらってあるんだ」

「それだけじゃ足りないでしょ」

モーゲンは顔をしかめて、もう一つ焼き菓子を口に入れた。

「しっかり食べないと元気出ないよ」

二人の歩く夜道を、アルマークの灯の術が照らし出す。

「はい。これ、最後の一枚だから」

モーゲンがアルマークに焼き菓子を差し出した。

「いいよ、モーゲン」

アルマークは手を振る。

「君が食べなよ」

「僕は僕で、帰ってからまだいろいろと食べなきゃいけない物があるんだ」

モーゲンは言った。

「あれだけ魔力を使ったんだから、パンだけじゃダメだよ」

そう言って、強引にアルマークに菓子を握らせる。

「ありがとう」

アルマークはお礼を言って、菓子をかじった。

口の中いっぱいに甘さが広がる。

風味とか食感とか、細かいことは分からないけれど、アルマークでもこれなら自信を持って言える。

「甘い」

「そうでしょ」

モーゲンは微笑む。

「これからまた勉強するんだから。甘いものはたくさん取っておいたほうがいいよ」

「うん」

アルマークは頷いた。

モーゲンは空になった袋を逆さにして、焼き菓子のかけらや粉を手のひらの上に出すと、名残惜しそうに口に入れる。

それを見てアルマークは申し訳なさそうな顔をした。

「ほら。やっぱり君が食べたほうがよかったんじゃないか」

「いやいや」

モーゲンは首を振る。

「これは、作った人に対する礼儀としてね」

そう言いながら、袋を丁寧に畳んで袖にしまう。

それを見て、ふと気になってアルマークは言った。

「そういえば、袋はいつもそれだね」

「うん。僕はたくさん買うからね。これをお店に持っていって入れてもらうんだ」

モーゲンは言う。

「僕の大事なお菓子袋さ」

「なるほど」

微笑んで前に向き直ったアルマークに、モーゲンが思い出したように言った。

「明日は、キュリメが来るよ」

「キュリメだね。分かった」

アルマークは頷く。

「何を教えてくれるんだろう。楽しみだな」

「キュリメは謎が多いからね」

モーゲンは微笑んだ。

「どういう子なのか、僕もいまだによく分からないからなあ」

「そうだね。おとなしいけど、きっとみんなのことをすごくよく見てるんだと思う。そうでなきゃ、あの台本は書けないよ」

アルマークの言葉に、モーゲンは頷く。

「そうだね。ウォリスに言われるまで、そんな才能があるなんてちっとも知らなかったけど」

「うん。明日を楽しみにするよ」

頷いて話題を変えようとして、アルマークは口をつぐんだ。

突然、天啓のようにひらめきが舞い降りてきた。

さっきのモーゲンの言葉。

「お菓子袋」

アルマークがそう言って、モーゲンを見る。

「え?」

モーゲンはきょとんとした。

「お菓子袋がどうかしたかい」

ローブの袖から、また袋を出してアルマークに見せる。

「いや、袋自体はどうでもいいんだ」

アルマークは首を振る。

魔法を使いすぎて疲れた頭の中で、モーゲンの言葉が引き金となって新しい考えが生まれ、形を持ち始める。

僕の大事なお菓子袋。

モーゲンはそう言った。

そうか。

大事ではないが、大事なもの。

そういうことか。

そういえば、あれはいつのことだっただろう。

キリーブたちが最初にあの男を見たと言っていた日は。

その日、何があった?

アルマークの中でひらめきを起点として、今日までの様々な点と点がつながっていく。

黒ローブの男の問い。

笑い。

そうか。

イルミスの言葉。

ウォリスの言葉。

ウェンディの言葉。

彼らの言葉が次々に蘇る。

そういうことだったのか。

「やっぱり君の言うことはいつも正しいな」

アルマークは言った。

「頭を使う時は甘いものに限る。僕も次からはそうするよ」

「何かいい考えが浮かんだみたいだね」

モーゲンはアルマークの表情を見て頷く。

「僕のあげたお菓子のおかげかい」

「ああ」

アルマークは頷く。

「君のお菓子と、君と、それからみんなのおかげだ」

僕にはやっぱりみんなの力が必要なんだな。

アルマークは思う。

自分一人では、この程度の謎も解けやしない。

「それはよかったね」

モーゲンは微笑んだ。

「でも、何かするならちゃんと夕食を食べてからにしなよ」