軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

挨拶

料理があらかた片付いてお腹も膨れると、みんな思い思いに席を立って話し始め、談話室のあちこちに会話の輪が生まれる。

キュリメのところにはさっそく感想を聞こうとモーゲンとバイヤーが一番乗りしていた。

ウェンディのところにリルティが来て二人で話し始めたのを機に、アルマークも立ち上がる。

ウェンディに付き合って、いつも以上に食べてしまった。

腹ごなしついでにみんなのところを回って労おう。

大きく伸びをして、アルマークはまずはいつも一緒の三人組のテーブルに近付いた。

「みんな、お疲れ様」

「アルマーク。珍しいな」

デグが手を挙げた。

「今日は良かったよ、ネルソンとの戦い。練習と全然違ってさ」

そう言ってにやりと笑い、立ち上がる。

「こう、こうして、さ」

言いながら、アルマークとネルソンの動きを再現し始める。

「それで、ここでアルマークが剣を両手に持ち替えてさ」

デグはガレインを立たせてネルソン役にして、見えない剣で斬り結んでみせる。

ガレインも律儀にネルソンの動きをなぞる。

「で、ネルソンをふっ飛ばして、俺は一人でも強いんだーって言って」

デグが仁王立ちでうろ覚えの台詞を言い、ガレインが、ネルソンの真似のつもりなのだろう、がっくりとうなだれる。

人が自分の真似をするのを見せられるのは、相当恥ずかしいことだとアルマークも気付いた。

「そのへんでいいよ、デグ。ありがとう」

そう言って、まだ続けたそうな二人を座らせ、自分も腰を下ろす。

「トルクもお疲れ様。かっこよかったよ」

「ふん」

トルクは鼻で笑う。

「別に。練習どおりやっただけだ」

「そうかな」

アルマークは首をひねった。

確か、いくつか即興の台詞があった気がする。

「でも、君のデミガル王、すごく評判が良かったみたいだよ。露店で並んでいる時、ほかのお客さんが何人も君の話をしていた」

「興味ねえよ」

トルクは首を振る。

「もう終わった話だ」

トルクはもう、劇についてあまり触れられたくないようだった。

それでもアルマークは一つ言っておくことを思い出す。

「そういえば、僕の最初の場面で影の鬼をひとつ余計に出しただろ」

「知らねえな」

トルクは横を向く。

「お前が数え間違えたんじゃねえのか」

「なら、まあそういうことにしておくよ」

アルマークは頷いて、ガレインを見た。

「ガレイン。君は台詞が少なかった分、それがすごく印象に残った気がするよ」

「俺はトルクに、王、ご命令をって言うだけだから」

ガレインはそう言ってにやりと笑う。

「難しそうな台詞は全部、デグが引き受けてくれた」

「俺だって別に難しくねえよ、あれくらい」

デグも笑う。

「トルクがまず台詞を言って、俺はその受け答えがほとんどだからさ。トルクが間違えなきゃ俺も間違えない」

「なるほど」

アルマークは頷いてトルクの方を見るが、トルクは素知らぬ顔でミルクを飲んでいる。

「俺達も後でキュリメのところに行ってみるんだ」

デグが言った。

「トルクは行かないんだってさ」

「トルクらしいね」

アルマークの言葉に、トルクは肩をすくめた。

「キュリメがどう思ったか聞いてどうするんだ。何にもならねえだろ」

「そうかな。僕は聞いてみたいけど」

アルマークはそう答えて、デグとガレインに手を振って3人の席を離れた。

すぐ隣のテーブルの、セラハの隣が空いていたのでそこに滑り込むように座る。

「セラハ、お疲れ様」

セラハの顔がぱっと明るくなった。

「来てくれたの」

「うん。せっかくだからみんなのところを回ろうと思って」

「いいよ、ずっとここにいなよ」

そう言って、自分の皿をアルマークの前に置く。

「これ食べた? おいしかったよ」

「ああ、うん。ありがとう。お腹はもういっぱいだ」

アルマークは微笑んで手を振った。

「そう?」

笑うセラハは、もうすっかり劇以前の明るい女の子に戻っているように見える。

「魔女セラハはもう店じまいだね」

「うん」

セラハは頷く。

「やりきったからね。商家の娘で魔術師の卵のセラハに戻ったの」

笑顔でそう言ってから、アルマークの顔を見る。

「アルマークもそうでしょ?」

「ああ」

アルマークも頷いた。

「僕の方も、呪われた剣士は無事旅立ったからね。今はもうすっかり、北から来た魔術師の卵のアルマークだ」

「おかえりなさい」

セラハが笑って言い、お互いに顔を見合わせて笑う。

しばらく他愛もない話をした後で、セラハはふとアルマークの目を覗き込むようにして言った。

「でも、アルマークも感じない?」

「え?」

「私はね、まだ身体の中のどこかに、魔女セラハの欠片みたいなものが残っている気がするの」

「ああ」

アルマークは頷いた。

「分かるよ」

それは、アルマークも同じだった。

劇の終わりとともに、呪われた剣士アルマークはその役目を終えたわけだが、自分の中から完全に消えたわけではない。

そんな感覚があった。

「僕たちの中で、魔女や剣士が本当に生きた証だよ」

アルマークは言った。

「忘れないであげよう」

「うん」

セラハは神妙な顔で頷いた。

さっきまでいろいろな人に囲まれていたはずのレイラは、いつの間にか一人で窓際に座っていた。

そういえば武術大会の後の飛び魚亭でのお祝い会にはレイラは来なかったんだっけ。

そんなことを思い出しながら、アルマークはレイラに近づく。

「レイラ、お疲れ様」

「あら」

レイラは切れ長の目を細めて薄く微笑む。

「私のところになんか来ていていいのかしら」

「どういう意味だい」

「そのままの意味だけど」

レイラは肩をすくめた。

「まあ、いいわ。座って」

レイラはアルマークを自分の前の椅子に座らせると、テーブルに肘をついて、組んだ両手の指の上にあごを載せる。

「私もあなたに聞きたいことがあったから」

その言葉の響きで、アルマークもレイラが聞きたいことをなんとなく察した。

「昨日のこと、かな」

「ええ」

レイラはそのままの姿勢でアルマークを見た。

「教えて。昨日は何があったの」

「ああ」

アルマークは頷く。

だが、どこまで話していいのか。

ウェンディが「門」であること。

マルスの杖が「鍵」であること。

それに自分の名前の意味まで含め、アルマークにはレイラに今の段階でどこまで話していいものか判断がつかなかった。

「ウェンディと二人でいるときに、闇の魔術師に襲われたんだ」

結局、一番端的な事実だけを伝えたアルマークの言葉に、レイラは少し眉を上げる。

「闇の魔術師。それって、例の」

「うん」

アルマークは頷いて、自分の右手を見た。

昨日、マルスの杖を殴ったせいでぐしゃぐしゃに折れて、その後でウェンディが治療してくれた手だ。

きっと、この中にはまだ黒い蛇が一匹、とぐろを巻いているのだろう。

「そう。僕に蛇の呪いをかけた人だ」

「倒したの」

「いや。逃げられた」

そう答えてから、アルマークは訂正する。

「見逃してもらった、という方が正しいのかも知れないな」

ふうん、とレイラは相槌を打つと、指を解いて身体を背もたれに預けた。

長い黒髪が揺れて、頬にかかる。

「そう」

そう言ってアルマークを見た。

「詳しい話はここじゃ話しづらいでしょうから、後で聞かせて」

「うん」

アルマークは頷き、それから改めてレイラをまじまじと見る。

「なに?」

その視線に気付き、レイラが訝しげな声を上げた。

「おかしな目つきね」

「いや。劇でのレイラ、本当にきれいだったと思って」

アルマークが言うと、レイラは一瞬きょとんとして、それから苦笑した。

「何を言うかと思えば」

「本当だよ」

アルマークは言った。

「会場中が君に見とれていた」

「トルクは泣いていたけれどね」

レイラの言葉に、アルマークは声をひそめた。

「あれ、どうして泣いていたんだろう」

「さあ」

レイラは首を振る。

「言ったでしょ。王妃の笑顔は鏡だって。デミガル王を演じていたトルクの気持ちは、トルクにしか分からないわ」

「でも君は泣いているトルクを見ても、ちっとも驚いてなかったじゃないか」

「驚いていたわよ」

レイラは肩をすくめた。

「でも、劇の本番中だもの。表情に出すわけにはいかないでしょ」

「それは確かにそうだけど」

分かっていても、それができる人は多くはない。

「さすがだね」

「それに」

レイラは思い出したように付け加えた。

「あの涙は、別に悪い感じを受けなかったから」

「悪い感じ?」

アルマークがレイラの意図を図りかねたその時。

「おい、さすがに」

不意に、すぐ横からウォリスの声がして、アルマークとレイラは会話を止めてそちらを見る。

ウォリスは窓の外を見て、顔をしかめていた。

「ネルソンとノリシュが帰ってくるのが遅すぎる。おかしいな」

その言葉通り、窓の外はとっくに真っ暗になっていた。