軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カーテンコール

拍手が鳴り止まない中、再び舞台の幕がするすると上がった。

観客の拍手がさらに大きさを増す。

舞台上に、この劇の全ての出演者が整列していたからだ。

「皆様、ありがとうございました」

中央に立っていたクラス委員のウォリスが一歩前に出て、客席にそう呼びかけた。

「全員のアイディアを詰め込んだ結果、とても長い劇になってしまいましたが、最後までご覧になっていただけて、3年2組一同、ほっとしております」

ウォリスは如才なくそう言うと、整列している仲間を振り返る。

「僕のクラスの仲間たちの紹介をさせてください。まずはこの劇の主人公、ガイベル騎士の華。ネルソン!」

ウォリスに名前を呼ばれ、ネルソンが一歩前に出る。

「ありがとうございました!」

ネルソンは元気に頭を下げた。

「ネルソン!」

「かっこよかったぞ!」

大きな歓声が上がる。

「ネルソン、よく生きて戻った!」

そう叫んでいるのはフィッケだ。アインはその隣で横を向いて知らんぷりを決めこんでいる。

ネルソンの父は拍手をしながら、客席からの声にいちいち嬉しそうに頷いている。

「父ちゃん!」

ネルソンはそう呼びかけながらもう一度剣を抜くと、高く掲げてみせた。

ネルソンの父が顔を歪ませて大きく手を振る。

ウォリスがそっと杖を振り、剣を七色に輝かせた。

客席から、ネルソンの父に向けて拍手が起こり、ネルソンの父は慌てて立ち上がる。

「どうも。息子が、どうも。いつもお世話に」

そんなことを言いながらぺこぺこと頭を下げる姿を、アルマークは舞台上から、少し羨ましく眺めた。

ネルソンの父は、最初から最後までずっと、ネルソンの味方だった。

一貫して息子の味方であることを、恥じる素振りは一切見せなかった。

僕の父さんがもし、この場にいたら。

そんな想像をしてみる。

父さんは、僕になんて言うだろう。

アルマーク。戦ってる最中に敵から目を離すやつがあるかよ。

喋ってる暇に相手の息の根くらい止められたろうが。

そんな言葉が思い浮かんで、苦笑する。

ダメだ。そもそも、父さんと一緒に劇なんて一度も見たことがないんだ。

父さんがなんて言うのかなんて、分かるわけがないや。

拍手が一段落し、ネルソンが次の生徒の紹介をする。

「レイラ王妃の勇敢な侍女、ノリシュ」

ノリシュが一歩前に出て、頭を下げた。

「ありがとうございました」

「ノリシュ、可愛かったぞ!」

拍手の中でそう声を上げたのはコルエンだ。

隣でポロイスが渋い顔をしている。

「ネルソンと仲良くな!」

その言葉にさらに拍手が大きくなるが、ノリシュは顔を赤くしてうつむいた。

暖かい拍手の中で、ノリシュが気を取り直して次の生徒を紹介する。

「笑顔を取り戻した王妃様。……レイラ」

レイラが前に進み出て、優雅に膝を折る。

その美しい笑顔に客席からは、ほう、というため息が漏れる。

「信じることを畏れないガイベル王、アモル。……レイドー」

レイラの呼びかけに、レイドーが進み出た。

レイドーの落ち着いた威厳は、貴族の子弟と言われてもまるで違和感のないものだった。

トルクが貴族の所作を教えてくれた。もちろんそれもあるだろう。

でも、とアルマークは思う。

それだけじゃない。

レイドーはとても良く見ている。みんなのことを。

そうでなかったら、いくら教えてもらったからってあんなに立派に貴族の振る舞いができるわけないじゃないか。

レイドーの、クラス全員を見渡す広い視野は、余り目立たないけれど実はウォリスに匹敵するのではないかとアルマークは密かに思っていた。

「王国の忠実な大臣にしてラッパ手。ピルマン」

レイドーの紹介とともに、ピルマンが手に持っていたラッパを吹き鳴らす。

最後に挨拶しようという話をすっかり忘れて衣装を脱ぎ捨てていたピルマンは、慌てて大臣の服を着直したものだから変に着崩れたおかしな格好になっていたが、高らかに鳴るラッパの音が全て帳消しにしてくれた。

「野心に燃えるムルボード王デミガル。トルク」

ピルマンの声に、トルクは一歩前に出ると、無愛想に一礼した。

さっきまでの熱演はどこへやら、もうさっさと終わりにしたいという表情がありありと見える。

それでもトルクは最低限の務めを果たした。

「無口な一徹者。ガレイン」

ガレインはぎこちなく前に出ると、大きく一礼した。

その作り物めいた動きに、客席からは拍手とともに笑いが起きる。

「俺の気持ちの代弁者。デグ」

ガレインのその紹介に、舞台上の2組の生徒たちが噴き出す。

デグも苦笑しながら前に出て、頭を下げた。

「天使の歌声を持つ王女。リルティ」

デグの紹介でリルティが進み出ると、ひときわ大きな拍手が起きた。

深々と頭を下げたあとで、リルティが何か言うが、拍手と歓声で何も聞こえない。

モーゲンが慌てて風の魔法を使おうとするが、隣にいたアルマークはそっとそれを制止する。

「モーゲン、リルティは大丈夫だよ」

その言葉通り、リルティは息を吸うと、有名な歌の一節を口ずさんだ。

「愛は闇を呼ぶが、闇は愛に応えぬ」

その歌声は客席にしっかりと響き渡った。

そして歌うように次の生徒を紹介する。

「魔女セラハ」

セラハが黒いドレスをたなびかせて前に出ると、大きな拍手が上がった。

「かっこよかったぞ、森の魔女!」

そんな声が上がり、セラハはそれを噛みしめるように少し目を伏せると、優雅に一礼した。

「儚くも美しい未練。ウェンディ」

そんな紹介を受けて、ウェンディが進み出た。

頬はもうすっかり健康的な赤みを取り戻していたけれど、穏やかに微笑むウェンディにはやはりどこか現実感のない儚さと美しさがあった。

ウェンディは丁寧に頭を下げると、アルマークを振り返った。

「呪いに落ちるほどに純粋な思いを持った剣士」

そう言って、微笑む。

「アルマーク」

アルマークは頷いてウェンディに微笑み返すと、前に出た。

手に持った木剣を軽やかに身体の周りで振り回すと、客席からどよめきと大きな拍手が上がった。

アルマークは一礼し、モーゲンを振り返る。

「木工の匠にして味覚の狩人」

その言葉に、客席の生徒たちから笑いが漏れる。

「モーゲン」

モーゲンはにこりと笑って進み出た。

「皆さんありがとうございました!」

元気に言うと、下級生から再び「モーゲン!」という歓声。

モーゲンは笑顔でバイヤーを振り返った。

「生ける森の精霊、薬草博士。バイヤー!」

拍手の中でバイヤーが前に出る。

おどけた動作で頭を下げると、両手を挙げてウォリスを示す。

「そして僕らのクラス委員にしてこの劇の総監督。精霊王ウォリス!」

大きな拍手の中で、ウォリスが再び進み出て、優雅に頭を下げた。

拍手に混じって、黄色い歓声が上がる。

顔を上げたウォリスは、右手で客席の最前列の一角を指差した。

そこに照明が当たり、照らし出されたのは、恥ずかしそうにうつむく一人の女生徒。

「この劇の台本を書いてくれた、僕らの仲間の最後の一人。キュリメ!」

ウォリスはキュリメに、さあ舞台へ、と呼びかける。

ウォリスに手を引かれて舞台に上がったキュリメは、拍手を浴びながら真っ赤な顔で頭を下げた。

「キュリメ、何か一言」

ウォリスが囁く。

「え?」

キュリメは困った顔でウォリスを振り返るが、ウォリスは肩をすくめて何も言わない。

その隣でネルソンが笑顔で頷いた。

「おう、そうだよ。キュリメだけこの舞台で何も喋ってねえからな。せっかくだから何か喋っとけって」

「そうだね。こんな機会はなかなかないからね」

レイドーもそう言って頷く。

「キュリメ、頑張って」

「大丈夫、何でもいいのよ」

ノリシュが励ますように言う。

「思ってること、言っちゃいなよ」

「胸を張ればいいのよ」

レイラがそう言って微笑んだ。

「この劇を作ったのはあなたなんだから。この拍手の半分はあなたのものよ」

みんなの言葉を受け、それでも迷ったようにキュリメがアルマークを見る。

「キュリメ、僕も聞きたい」

アルマークはそう言って、キュリメの目を見て頷いた。

「君がこの劇を見て、どう思ったのか。君の言葉で聞かせてほしい」

その言葉に、キュリメがようやく決心がついたように客席に向き直った。

「……皆さん、ありがとうございました」

キュリメはそう言って頭を下げた。

顔を上げて、目に映る客席の人の多さに少し怯んだ顔を見せるが、それでもしっかりとした口調で話し始める。

「キュリメといいます。ウォリスの紹介してくれたとおり、確かにこの劇の台本を書いたのは私です。でも」

キュリメは後ろに並ぶ2組の仲間を振り返って、微笑んだ。

「私の書いた台本は、もっととてもシンプルなものでした。そこにみんながどんどん肉付けをしてくれて。そして私の書いたぼんやりとした世界に、はっきりとした色と形を与えてくれました。だから、今日私は客席でこの劇を見ながらずっと思っていました。私、こんなすごい劇の台本、書いてないって」

その言葉に客席からも暖かい笑いが起きる。

キュリメは自分でも少し笑って、それから言った。

「でも、この劇の台本を書けたことは私にとって誇りです。ここにいるみんなが、私の勝手に当てた役をこれ以上ないくらい真剣に演じてくれたことも。だから、皆さん。今日はこの劇をともに楽しんでくださって、盛り上げてくださって、本当にありがとうございました」

キュリメが頭を下げると、この日一番の大きな拍手が起きた。

「皆さん、本当にありがとうございました!」

最後にウォリスの言葉に合わせて全員が頭を下げる。

幕が下りる。

幕が、ゆっくりと舞台の16人の姿を隠していき、やがて完全に見えなくなるまで、拍手は続いた。