軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

集大成

何度も根気強く鍋を交代でかき混ぜていると、アルマークにも、鍋の中の液体が強い魔力を帯びてくるのが分かった。

魔力を中に通す、とか、表面を魔力で包む、とかそんな一過性のものではない。

何層にも複雑に折り重なった魔力が鍋の隅々、液体の一滴一滴にまで染み込んでいる。

薬草を単に煎じたり煮詰めたりという作業は、夏前の授業でもやったし試験問題にもなっていたが、魔力を丁寧に染み渡らせたこの液体こそが、魔術師だけが作り得る真の薬湯なのだとアルマークにも分かった。

同時に、自分が今まで苦悶とともに飲み下していたセリアの薬湯のすごさにも気付かされた。

あの薬湯の、優れた治癒力。

その薬効はおそらく、今作っている薬湯の比ではない。

一体何種類の薬草を配合しているのか。

そして、極めて複雑な、ごくわずかなずれでも台無しになってしまうような薬草同士の作用の均衡を崩さぬように、一体どれだけの魔力を、どれだけの繊細さで注ぎ込んだのか。

アルマークは、自分が薬湯作りの入り口に立ったばかりなのだということを思い知る。

「奥が深いな。薬湯は」

思わずそう呟くと、ウェンディが微笑む。

「いつも飲んでいると、やっぱり感じ方も違う?」

「そうだね。最近はとても身近だから、特にそう感じるのかもしれない」

アルマークは頷く。

「もう少しかな」

「そうだね。もう少しだと思う」

ウェンディもそう言って鍋を覗き込む。

「ねえ、アルマークは」

不意に、ウェンディの隣にいたフィタが言った。

「闇に好かれちゃう体質なの?」

「んん?」

アルマークは思わず手を止めてフィタを見る。

「ごめん、何だって?」

「うん、えーとね」

フィタは困ったように言葉を探す。

「イルミス先生が言ってたの。アルマークは、闇を引き寄せちゃう体質の人だから、魔物に狙われやすいんだって。そのせいで苦労をしてるから戦い方も上手なんだって」

「ああ……」

イルミス先生、任せろって言ってたけど、二人にそんな説明をしたのか。

アルマークは苦笑いをする。

「実はそうなんだ」

アルマークは声を潜めてフィタに頷いてみせた。

「でもこのことは内緒にしてくれるかい? 他の人に知られると怖がられてしまうから」

「うん」

フィタは頷いた。

「イルミス先生も、誰にも話しちゃいけないって。だから私とザップだけの秘密にしたの」

「ありがとう」

アルマークは微笑んだ。

「代わるわ、アルマーク」

ウェンディがそっとアルマークから棒を引き取った。

気付けばどこのグループも最後の仕上げに入っていた。

鍋を離れて別のグループを冷やかしに行っていた生徒たちも皆自分の鍋の周りに戻っている。

バイヤーの鍋を偵察に行っていたモーゲンとザップも戻ってきていた。

「うん。いい感じ」

鍋をかき混ぜる手を止めて、ウェンディが微笑んだ。

「魔力が、すごくよく行き渡ってる。去年作ったものより、ずっといい気がする」

「やっぱり自分たちが中心になって作ったものはよく見えるよね」

モーゲンがそう言って頷く。

「そうね、確かに贔屓目もあるかもしれないけど」

ウェンディはどろりとした液体を最後にもう一度ぐるりとかき混ぜる。

「でも、苦労した分いいものになったと思うな。ね、フィタ」

「うん」

嬉しそうにフィタは頷く。

「来年もこんな風に作れるといいな」

「きっともっと上手に作れるわよ」

ウェンディはフィタに微笑む。

「ザップもお疲れ様」

「うん。僕もうまく作れて満足だよ」

ザップが言う。

しかしその笑顔とは裏腹に、身体は徐々に鍋から離れていこうとしている。

「満足だから、実習はここまでで終わりにしよう」

「ダメよ」

ウェンディがザップを軽く睨む。

「きちんと自分で作った薬湯を飲んで、その効果を実感して実習が終わるの」

そう言いながらも、その目は笑っている。

「だからちゃんと飲まなきゃダメ」

「うへ」

ザップがあからさまに嫌な顔をする。

「僕、絶対に病気にはならないよ」

ザップは言った。

「そうすれば薬湯を飲まなくていいんでしょ」

「そうね」

ウェンディは優しく頷く。

「でも、今日は飲む練習をする日よ。きっとラドマールはもっと苦い薬湯を飲んでいるわよ」

「う、うん」

ラドマールの名前を聞いて、ザップが頷く。

「ラドマールも飲んでるのかな」

「飲んでるさ。とびきり苦いのを」

モーゲンが答える。

「魔術師たるもの、薬湯の一杯や二杯、飲めないと」

その言葉に、ザップは渋い顔をする。

「飲みたくないなあ」

「ザップ、頑張ろう」

フィタが自分の顔の前で両手で握りこぶしを作った。

ザップは驚いたようにフィタを見る。

「私も頑張るから。最後まで一緒に頑張ろうよ」

そう言って、まっすぐな目でザップを見る。

「一昨日の夜だって、ラドマールと3人で諦めずに頑張ったじゃない」

「女の子のほうが、だいたいこういう時は勇敢なんだ」

モーゲンが笑ってザップの肩を叩く。

「ザップ。フィタだけに頑張らせるわけにはいかないよね」

「うん」

ザップは勇気付けられたように今度はしっかりと頷いた。

「そうだよな。色々あった実習の集大成だもんな」

「そうだよ。あんな怖いことがたくさんあったけど、ちゃんとやりきったんだから」

二人で頷きあうのを見て、ウェンディとモーゲンは安心したように頷く。

「まあそんなに気負うこともないよ。これは薬湯の中では間違いなく最も飲みやすい部類だ」

アルマークが言いながら鍋に大きな匙を突っ込んで薬湯をすくうと、ぐびりと一口飲む。

「うん。すごく口当たりがいい。これなら赤ん坊でも飲めるんじゃないか」

「飲めないよ」

「飲めるわけないでしょ」

モーゲンとウェンディの声が重なった。