軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レイラの薬湯

ウェンディの交代でモーゲンが戻ってきて、ザップと他愛もない雑談をしながら鍋をかき混ぜ始める。

ウェンディはアルマークに、

「疲れたね。まだ先は長いから、休みながらやろう」

と微笑む。

「そうだね」

アルマークは頷き、かまどに薪を一本投げ入れる。

「ウェンディ! ちょっと教えて」

向こうでノリシュの声がした。

振り向くと、ノリシュとネルソンがかまどの前で手を振っている。

「ネルソンが変なことしたから、途中で分からなくなっちゃったのよ」

「変なことじゃねえよ。俺はちゃんとした薬湯を作ろうとしただけだっつうの」

「あ、うん。今行くよ」

ウェンディは答えて、アルマークを振り返る。

「ちょっと行ってくるね」

「うん」

アルマークは頷く。

「私も行く」

すっかりウェンディに懐いた様子のフィタもそう言って、ウェンディと手を繋いでノリシュの方へ行ってしまう。

ふと一人になったアルマークは、ほかのグループの様子を見るとはなしに見る。

ネルソンのグループは相変わらず賑やかだ。

何をするにも笑い声が一緒についてまわっている。

今はどうやら、ネルソンの水虫防止の薬湯から普通の薬湯に切り替えた時に何かトラブルがあったらしく、ピルマンやキュリメを含め、みんなで鍋を覗き込んでいる。

そこにウェンディとフィタも加わり、みんなで相談を始めたところだ。

トルクのグループでは、リーダーのトルクは相変わらず無愛想に、退屈そうに鍋をかき混ぜているが、デグとセラハはすっかり2年生たちと打ち解けているようで、和気あいあいと楽しそうにやっている。

トルクはその空気が若干苦手なようで、鍋を混ぜていない時は用もないのにその辺をうろうろしていたりする。

そういえばさっきも僕の隣を二回も通りかかったな、とアルマークは思い出す。

ウォリスのグループは、もはやバイヤーの独壇場といったところだ。

ウォリスは全体のリーダーも兼ねているので、自分のグループのことはバイヤーにほとんど任せてしまっている。バイヤーはそれをいいことに、かまどを三つも使って薬湯を作っているのだ。

時折リルティに手伝ってもらう以外は、鍋から鍋を飛び回って休むことなく三つの鍋をかき混ぜているが、その姿は実に楽しそうだ。

レイラのグループでは、レイドーが穏やかにガレインに話しかけているのが見える。

ガレインは時折頷く動作も含めて、黙々と鍋をかき混ぜ続ける姿は機械仕掛けのようだ。

レイラがいない、と思ったら、一人で隅の目立たないかまどの前に立っていた。そこに小さな鍋が置かれていて、レイラは難しい顔をして中身をかき混ぜている。

僕に飲ませるために、なんてレイドーは言っていたな。

その難しい表情になんだか申し訳なくなってきて、アルマークはモーゲンを振り返る。

「モーゲン、ちょっと他を見てくるよ」

「ああ、ごゆっくり。こっちは適当に混ぜておくから」

モーゲンは鍋から目を離さず、ひらひらと手を振る。

「どうにかして、おいしくできないかなぁ」

「料理じゃないんだから。さっき、それで先生に怒られたばっかりじゃんか」

未練がましい顔で鍋を覗くモーゲンをザップがたしなめる。

「そうなんだけどね。うーん」

そう言いながらモーゲンが無意識の手付きでローブの袖を探る。

ザップが慌てて声をあげる。

「モーゲン! また何か出そうとしてる!」

「はっ」

モーゲンは目を覚ましたような顔をする。

「危ない。また勝手に塩を振ろうとしていたよ。止めてくれてありがとう」

「ザップ。モーゲンを頼むね」

アルマークの言葉にザップは真顔で頷く。

「うん。僕がいないとモーゲンは何を始めるか分からないからね」

「その通り」

モーゲンが頷く。

「頼んだよ、ザップ」

「自分でも少しは気を付けてよ」

そう言って呆れた顔をするザップに手を振り、アルマークは自分達のかまどを離れた。

レイラのところへ行こうと思っていると、キュリメが駆け寄ってきた。

「アルマーク、待って」

「やあ、キュリメ。鍋は大丈夫なのかい」

「うん。ウェンディが来てくれたから、何とかなりそう」

そう言ってアルマークを見上げるキュリメは頬を紅潮させていた。

「あのね、ウォリスが言ってくれたって」

「言ってくれた?」

一瞬きょとんとしてから、アルマークはすぐに思い当たって頷く。

「ああ、リルティの話だね。そういえば実習の時に話すって言ってたな」

「うん。それで、リルティも引き受けてくれたって」

キュリメの嬉しそうな顔を見て、アルマークも微笑む。

「そうか。それならよかった。じゃあ、台本の方も」

「うん」

キュリメは力強く頷いた。

「もうすぐみんなに見せられると思う」

「よかった。僕も楽しみだ」

笑顔でそう言った後で、アルマークはふと声を潜めて尋ねる。

「ちなみに僕も劇に出るのかい? 裏方も必要だろうし、実際に出るのって何人くらいになるんだろう」

「何言ってるの」

キュリメは楽しそうに笑った。

「私以外、全員に出てもらうに決まってるじゃない」

キュリメと別れてから、アルマークは炊事場の隅のかまどで難しい顔をしているレイラのところへ歩み寄る。

「レイラ」

声をかけると、レイラは驚いたように顔を上げた。

「アルマーク」

いつもならこういうときは長い髪がぱさりと顔にかかるところだが、今日は実習のために後ろで一つに縛っているので、きりりと凛々しい横顔がはっきりと見える。

「こんなところで一人で何をしてるんだい」

わざとそう訊いてみると、レイラは顔をしかめて目の前の鍋を指差す。

「自分でもう一つ別の薬湯を作ってみているのよ」

「何の薬湯なんだい、これ」

アルマークは深緑色に濁った液体を覗き込む。

「あなたに飲んでもらおうと思って」

「僕に」

レイドーの言ったことが本当だったと分かって、アルマークは少し照れくさくも驚く。

「ありがとう。でも、魂のずれはほとんどないよ。もしも君がそれを気にしてるのなら」

「ええ、それは知ってるわ」

レイラはあっさりと頷く。

「もうそれを気にしてるわけじゃないから、あなたも変な気は使わなくていいわ」

「あ、うん」

アルマークは頷く。

「ええと、それじゃあこの薬湯は」

「前から作ってみたかったのよ。中等部の3年で習う薬湯なんだけど、調べたら今回の5種にイッセンビカリグサがあれば作れることが分かったから、挑戦してるの」

レイラはそう言いながら、鍋をかき混ぜる。

「ああ、うまく魔力が広がっていかないわ。やっぱり少し難しいのよね」

「なるほど」

アルマークもつられて再度鍋を覗き込む。

「これも君の将来のための研究ということだね」

「そうね」

レイラは頷く。

「でも、初めてだし成功するかどうか分からないのよ」

「うん。そうだろうね」

「飲んでみなきゃ結果は分からないけど、めったな人に飲ませるわけにはいかないでしょう。それで思い出したの。あなた、普段からものすごい量の薬湯を飲み慣れているわよね」

「うん、まあ」

その言い方は語弊があると思ったが、アルマークはとりあえず頷く。

「だからあなたに飲んでもらうなら、もし失敗していても大丈夫だと思って」

「実験台ってことかい」

アルマークは苦笑いする。

「まあはっきり言ってしまうとそうなるけど」

レイラは否定しない。

「嫌なら無理強いはしないわ。自分で飲むから」

「いや、飲むよ」

アルマークは答えた。

「レイラが作るなら、大丈夫だろう」

「そうとも言い切れないけど」

レイラは首をかしげる。

「できたら、声をかけるわ。ああ、魔力が拡散しない」

焦れったそうに声をあげるレイラの邪魔をしては悪いので、アルマークはそっとその場を離れた。

モーゲンと交代して鍋をかき混ぜながら、アルマークはレイラが何の薬湯を作っているのか聞かなかったことを思い出した。