軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

申告

曲名を聞いて少し顔をこわばらせたウェンディと、ぎこちなく朝の会話を終えたアルマークは、その日の授業を終えた後、レイラとともにイルミスのもとを訪ねた。

闇の罠に出遭いました、というアルマークの申告に、イルミスはちらりと眉をひそめ、詳細を聞くことなく二人を学院長室へと連れていく。

二人を迎えたヨーログは、身を乗り出してアルマークから説明を聞き、ところどころでレイラにも状況を確認した。

「ふむ」

ヨーログは聞き終えると、背もたれに身を預けた。

「ルルの泉の洞穴には、中等部以上の学生しか立ち入ってはならないのは知っているね」

「はい」

アルマークは頷く。

「すみませんでした」

「学院長先生、私が悪いんです。アルマークは私を止めに来ただけなんです」

「えっ」

レイラの意外な言葉に、アルマークは驚いて彼女を見た。

「罰を科すなら、どうか私だけに」

レイラはヨーログをまっすぐに見て言った。

アルマークは事前にレイラと、先生たちにどう説明するのかを話し合っていた。

アルマークは、コルエンとの決闘の話やレイドーと洞穴に入った話はわざわざする必要がないことを、ウェンディに説明した時に痛感していたので、それをレイラに話す。

「当たり前でしょ」

レイラは呆れたように首を振った。

「そんな話をしたら、コルエンとかポロイスとかレイドーとか、みんなこの件に巻き込むことになるじゃない」

「そうだね」

アルマークは頷く。

レイラはさらに指摘する。

「コルエンたちはともかく、レイドーは洞穴に入ってるんだから、何か罰を受けるかもしれない」

「それはよくない」

アルマークは困った顔をする。

「じゃあどうしようか」

「私が洞穴に入ってるって噂を聞いたあなたが、私を止めに来た。それだけでいいでしょ」

「でもそれだと、君だけが悪者みたいだ」

「嘘は言ってないでしょ。現に私は規則を違反していたんだし」

「規則を破ったのは僕も一緒だ。君を止める前に、先に一度洞穴に入ってるんだから。罰があるなら僕も受けるよ」

頑固に言い張るアルマークに、レイラはため息をつく。

「分かったわ。じゃあ、二人で別々に洞穴に入ろうと思ってやって来たら、たまたま洞穴の前で一緒になった。だから一緒に入った。これでいい?」

「うん。それなら罰を受けるのは僕たちだけだ。それでいこう」

アルマークは頷いた。

これで話は決まったはずだった。

それなのに。

「学院長先生、罰を科すならどうか私だけに」

レイラがそう言い出したので、アルマークは慌てた。

「レイラ、何を言い出すんだ」

「アルマークの制止を振り切って洞穴に入ったのは私なんです。私が洞穴に入ってるって噂を聞いて、止めに来てくれたのに。アルマークは、最後まで私を止めようとしてくれました」

レイラは目を伏せてそう言った。

二人の教師はレイラの告白にも特段驚きは示さなかった。

「そんなところだろうと思ってはいたよ。だがね、レイラ・クーガン」

ヨーログは穏やかな声でレイラに呼び掛けた。

「はい」

「君のアルマークを庇いたい気持ちはよく分かる。しかしアルマークはこれが一度目ではないのだよ。アルマーク、君は確か、前回学んだのではなかったかな?」

ヨーログはそう言ってアルマークに呼び掛けた後、傍らに立つイルミスを見上げた。

イルミスが頷いて、アルマークに尋ねる。

「アルマーク。レイラが試練の洞穴に出入りしていると聞いて、君がすべきだったことは」

「先生への報告です」

アルマークは観念して答えた。

「レイラのことを、先生に報告して止めていただくべきでした」

「そうだ」

イルミスは頷く。

「君は前回も同じ過ちをした。前回はアインとフィッケ。今回はレイラを危険に晒すことになった」

「はい」

アルマークはうなだれる。

「イルミス先生。アルマークは私を庇って」

「それは分かっている」

イルミスは厳しい声でレイラの言葉を遮る。

「だが、これは校内のちょっとしたルール違反を見逃してもらったのとは訳が違う。前回も今回も運が良かっただけだ。君たちは命を落としていてもおかしくはなかった」

「それは」

レイラも反論できずにうつむく。

「こんなことで、未来の優秀な魔術師を失うわけにはいかない」

イルミスが厳しい声で続ける。

「君たちには将来がある。生き急ぎ、死に急ぐような真似はするな」

「はい」

二人は返事した。

「そういうことだな」

ヨーログはそう言って、アルマークを手招きする。

「どれ。手を見てみよう」

アルマークは机を回り込み、ヨーログの脇に立つと、差し出された手に自分の手を合わせる。

「レイラ。君も見なさい」

ヨーログに言われ、レイラもアルマークの隣に立ちその手を見る。

ヨーログの手が光を放つと、アルマークの隣でレイラが息を呑むのが分かった。

アルマークの手の中で黒い蛇が二匹、絡まりあっていた。

「これが、蛇の呪い」

レイラが呟く。

「確かに、また一匹減っているな。たいしたものだ」

ヨーログが呟く。

「泉の洞穴の魔影が闇の罠だったというのは間違いなさそうだね」

「それにしても、あんなところに」

イルミスは思案顔をする。

「初等部のアルマークを狙う罠を仕掛けますか」

「そこだね」

ヨーログは、アルマークを見た。

サファイアのような青い目がアルマークを映す。

「君に、レイラが泉の洞穴に行っているようだと話したのは誰かね」

「誰だったかな」

アルマークは顔をしかめて考える。

ヨーログは低く笑う。

「心配しなくてもいい。その子に迷惑はかけないよ」

「コルエンです」

決まり悪そうにアルマークは言った。

「でも、コルエンも誰かに聞いたような口ぶりでした」

「そうか」

ヨーログは頷いて、イルミスを見た。

「イルミス先生」

「はい」

イルミスも頷く。

「前回の図書館の噂も、出どころは中等部の誰かでした。私が学生だった頃からある、有名な噂ですから、出どころの特定まではできませんでしたが。しかし、今回も中等部しか入らない泉の洞穴に罠が仕掛けられていた。それを考えれば、やはり中等部にいるようですな」

「闇との内通者が、かね?」

「そこまで言ってよいものか」

イルミスは首を振る。

「利用されているだけかもしれません。いずれにせよ、調査には慎重を要します」

「そうだね。中等部の先生方にご協力願おう。アルマーク、レイラ。君たちだけで噂の出どころを調べたりは決してしないように」

ヨーログはそう言って、二人が頷くのを見て付け加えた。

「君たちの安全のためだけではない。君たちにバレそうだと分かれば、その中等部の誰かが、トカゲの尻尾切りのように切り捨てられてしまう可能性も十分にある。手がかりを途切れさせないためにも、君たちは動いてはいけない。分かるね」

「はい」

二人は頷いた。