軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

朝の風景

朝の教室前の廊下。

キュリメとアルマークに呼び出されたウォリスは、

「珍しい組合せだな」

と言いながら、教室から出てくる。

そこで声を潜めた二人から、リルティの歌の提案を聞くと、開口一番、

「いいじゃないか」

と微笑んだ。

その表情にキュリメが嬉しそうな顔を見せる。

「リルティが素晴らしい歌声の持ち主だという噂は僕の耳にも入っている。いつか聴いてみたいと思っていたが、劇の舞台上で大観衆の前でか。それもいいかもしれないな」

ウォリスは優しい眼差しでキュリメを見る。

「キュリメ、君のアイディアか」

「ううん、アルマークの」

キュリメが慌てて首を振ってアルマークを指差す。

「ああ」

ウォリスはアルマークの顔を見て、合点のいった顔をする。

「そういえば昨日の演奏会で、君はリルティの隣に座っていたな」

「よく見てるね」

アルマークが苦笑いすると、ウォリスは涼しい顔で答える。

「クラス全員に目を配るのがクラス委員だからな」

「さすがだね」

アルマークは素直に称賛する。

「でも、心配があって」

キュリメが口を挟む。

「分かっている」

ウォリスは穏やかに手で制す。

「リルティが引き受けてくれるかどうか、だろう? それはこちらで引き受ける。君は何も心配せずにリルティの歌う場面を書き上げてくれて構わない」

「ありがとう」

キュリメがほっとした顔を見せた。

「リルティ、恥ずかしがって嫌がるかもしれないから」

「きっと嫌がるだろうな」

ウォリスはあくまで穏やかに頷く。

「なんとかする」

その声は自信に満ちていて、聞く者の不安を払拭してくれる。

「やっぱりウォリスに相談してよかったね」

アルマークが言うと、キュリメは笑顔で頷く。

「こういうときのためのクラス委員だ。武術大会では君とトルクに任せっきりだったからな」

ウォリスはそう言うと、二人から離れて教室へ戻っていく。

「また何かあったらどんどん頼ってくれ」

最後に背中越しにそう言って、ウォリスは手をひらひらと振った。

一仕事終えてアルマークが自分の席に戻ると、すぐに深刻な顔をしたネルソンとモーゲンが近付いてきた。

「おい、アルマーク。お前もされたか」

妙なひそひそ声でネルソンが尋ねてくる。

「え、何をだい」

アルマークが聞き返すと、ネルソンが口に指を当てて、しー、と言う。

「僕もさっき、されたんだ」

モーゲンもアルマークに囁く。

「何か、悪いことの前触れかと思って」

「だから、何をだい」

アルマークが声を落として尋ねると、ネルソンが周囲を気にしながら、囁く。

「レイラだよ。レイラが自分から挨拶してきたんだ」

「え?」

「朝、通りがかりに、おはようって。反射的に、おう、おはようって返したけど、後からそれがレイラだったことに気付いてびっくりしちまってさ」

「僕も挨拶されたんだ。おはよう、モーゲンって」

モーゲンは心配そうに眉を寄せる。

「びっくりしすぎて、何も返事できなかった。レイラ怒ったかな」

「レイラだって挨拶くらいするだろ」

アルマークは苦笑いする。

「いや、しない」

ネルソンは首を振る。

「俺の知ってるレイラはしない」

「僕の知ってるレイラもしない」

モーゲンも言う。

「だいたいなぁ……」

何か言いかけたネルソンが、急に黙った。

モーゲンも身を硬くする。

アルマークが振り返ると、ちょうど歩いてくるレイラと目が合った。

レイラはアルマークの顔を見て、少しだけ口許を緩めると、そのまま通りすぎていった。

「……されなかった!」

レイラが通りすぎた後、ネルソンがアルマークを指差した。

「アルマークは挨拶されなかった!」

「な、なんだよ」

アルマークはネルソンの嬉しそうな顔にうろたえる。

「べ、別に挨拶くらい」

「そうだよ、アルマーク。別に挨拶くらい、されなかったからって気にしないで」

モーゲンがそう言って優しくアルマークの肩を叩く。

「何かレイラに言いたいことがあったら、僕が代わりに伝えてあげるからね」

「う、うん。いや……うん」

アルマークは釈然としないまま頷いた。

大騒ぎしながらモーゲンとネルソンが去った後、アルマークに話しかけてきたのは、隣の席のウェンディだ。

「アルマーク、昨日はお疲れ様。疲れは残ってない?」

「うん、大丈夫。ウェンディこそ遅くまで僕の話に付き合ってくれてありがとう」

「どういたしまして」

ウェンディの笑顔に、アルマークも思わず笑顔になる。

二人が他愛もない話をしていると、アルマークの横に誰かが立った。

「あ、リルティ。おはよう」

ウェンディが声をかけ、アルマークも顔を上げる。

立っていたのは恥ずかしそうな顔をしたリルティだった。

「ああ、リルティ。昨日はありがとう」

「どういたしまして」

リルティは相変わらず小さな声で答える。

「あのね」

話すときに顔が赤くなるのは、彼女の癖だ。

「昨日、アルマークが気に入った曲の名前が分かったの」

「ああ、あの北の」

ウェンディが微笑んでアルマークを見る。

「よかったね、アルマーク」

「うん」

アルマークは頷く。

「父さんと故郷を思い出せた曲だ。わざわざ調べてくれたのかい」

「ううん、わざわざというわけじゃないの」

リルティは首を振る。

「私もあんなに感動してもらえて嬉しかったから。演奏会の後で、楽団の人に挨拶に行った時に聞いてみたの」

「そういうことか。ありがとう」

アルマークも微笑む。

「よかったね。アルマーク、泣いてたものね」

ウェンディが優しい笑顔で言い、アルマークは恥ずかしそうに首を振る。

「なんだろう、心に響いたんだ」

その言葉に、リルティも微笑む。

「あの曲の題名はね」

続くリルティの言葉に、ウェンディの笑顔が少し曇った。

「『草原の傭兵』っていうんだって」