軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

才能

「私の役に立つ?」

レイラが思わず足を止める。

「レイラ」

アルマークが冷静に手で促す。

「歩いて」

顔をしかめて、レイラが歩き出す。

「あなたが私の役に立つ? どうやって」

レイラは歩きながら、背中越しにアルマークに言う。

「霧の魔法じゃ魔影は倒せないわよ。まさか洞穴の中であの大きな火柱でも立てようって言うんじゃないでしょうね」

「ちょっと試したいことがあるんだ」

レイラの言葉に構わず、アルマークはそう言うとレイラの前に出た。

「何のつもり?」

レイラが抗議の声を上げる。

その時、二人の前方の曲がり角から、ふわりと魔影が揺らめき出た。

「ちっ」

レイラが杖を構えようとするのを、アルマークが手で制する。

「見ててくれ」

アルマークはそう言いざま、魔影に向かって走った。

「ちょっと!」

レイラが声を上げる。

アルマークは、右手のマルスの杖を、もう一度握り込む。

杖の中に、自分の魔力を流し込む。

くらえ。

マルスの杖を一閃すると、魔影は弾かれたように消え失せた。

「そんな」

レイラが驚きの声を上げる。

「魔影には、魔法しか通じないはずなのに」

「魔法さ」

アルマークは、マルスの杖を掲げて見せる。

「何よ、その不恰好な棒……杖なの?」

「僕の杖だ。この中に魔力を込めた」

アルマークは答える。

「それで、殴った。だから、これは魔法だろ?」

「何言ってるの。そんなに簡単なものじゃないわ」

レイラが呆気にとられたように首を振る。

「魔力の付加は、もっと高度な魔法よ。杖にただ魔力を込めたからって、それがそのまま魔法になるなんてこと、あるはずがないでしょ」

「そうなのかい」

アルマークはレイラに向かって踏み込んだ。

思わず足を止めてしまったレイラの脇に魔影が顔を覗かせていた。

アルマークの大上段からの一撃が、魔影を散らせる。

「でも、現にほら」

「なんなの、あなた」

レイラが首を振る。

「理解できない」

「行こう、レイラ」

アルマークはレイラを促す。

「ここは僕のやり方で行けそうだ。迷路もきっと抜けられるよ」

二人は、分かれ道に立つ。

一方の道には魔影が。もう一方の道には何もいない。

「魔影のいない方へ行くというレイラの考えは合ってると思うんだ」

アルマークはそう言いながら、レイラの先に立って魔影のいない道を歩き出す。

「でも、もし魔影が追ってきたら」

そう言って振り返ると、マルスの杖を一閃して追ってきた魔影を散らす。

「それはきっと、道を間違えている合図だ。戻ろう」

アルマークはそう言って、レイラを伴って先ほどの分岐をもう一方の道に進む。

「これで合ってるの?」

レイラが不審そうな声を上げるが、アルマークは、いいからいいから、と言いながら先頭に立って魔影を薙ぎ払っていく。

「歩くのを止めさせないのは、じっくりと考えさせないためだ」

アルマークは歩きながら、言う。

「だから、賢い君でも気付かなかった」

「あなたは気付いたって言うの」

「僕は動きながら考えるのに慣れてるんだ。それに、ここの答えがちょうど僕の考え方に合っていた」

「意味が分からないわ」

レイラが不満そうに言う。

だが、魔影を薙ぎ払いながら分かれ道をさらに三つ越えたところに、下へ下りる階段を発見すると、レイラは盛大なため息をついた。

「本当にそんな単純なことだったなんて。魔法も関係ないじゃない」

その言葉に、アルマークは微笑む。

「ありのままを見る」

アルマークの言葉に、レイラがじろりとアルマークを睨んだ。

「何よ、急にイルミス先生みたいなことを言って」

アルマークは、一度言ってみたかったんだ、と笑う。

「ここの試練は、魔法を使って解答を出すというだけじゃない。全て、そこにある物それ自体をしっかりと見ることができなければ答えが導き出せないようになっていた」

小鬼の表情。

龍の種類。

扉の罠。

全て、観察眼が問われていた。

それは、ありのままを見なければならない、魔術師のための試練だからだ。

「立ち止まってじっくりと考えれば、なぜ追ってくる魔影と追ってこない魔影がいるのか、すぐに疑問に思うはずだ。君ほど賢くても、そこに気付けなかったのは、足を止めてはいけないというルールに急き立てられ、注意力を奪われていたからだ。ありのままに考えれば、答えはすぐに出る問題だった」

アルマークの言葉に、レイラが悔しそうに顔を歪める。

「この程度のこと、私にも気付けたはずなのに」

「ね」

アルマークは笑顔でレイラの顔を覗き込む。

「一人では意外と気付かないもんだろ」

レイラは、ぷい、と横を向く。

意外にも子供らしい仕草だった。

「僕だけだったら、そもそもここまでたどり着けていない。君の言うとおり、足も引っ張ってしまった。でも、やっぱり役に立つこともあるだろ」

アルマークの言葉に答えず、レイラは第四層に下りる階段をじっと見つめた。

「レイラ。分かっただろ、もう一人でここに潜るのはやめよう」

アルマークは呼び掛けたが、レイラは黙ったまま階段を見つめていた。

やがて、アルマークをゆっくりと振り返ったとき、レイラの顔からは険が少し消えていた。

「……私だって、そこまでバカじゃない」

レイラは静かな声で言った。

「あなたの言ってることの意味くらい、私にも分かる」

「それなら」

どうして。

「頭ではね」

アルマークの言葉を、レイラは穏やかに遮った。

「父とのこともある。でも、結局は私の性格なんだと思う。何でも一人でやりたいのよ。誰の力も借りずに」

レイラはうつむいた。その口許が自嘲気味に歪む。

「ロズフィリアに負けて、あなたに港で北の海峡の話をされて。なんだったかしら、あの海峡の名前」

「メノーバー海峡」

「そう、それ」

レイラは微笑んだ。

「それで、私も自分一人の限界には薄々気付いてはいたんだけどね。でも、心のどこかで、思ってしまうのよ」

レイラがうつむいたまま見ているのは、彼女の手の中の杖であることにアルマークも気付いた。

「まだやれる。私は一人でまだやれる。私には、その才能があるって」

それから、顔をあげてアルマークを見た。

その顔は笑顔だったが、アルマークが思わず目を逸らしたくなるほど悲しそうに見えた。

「でも、分かったわ。心底分かった」

レイラは、ぽつりと言った。

「本当に才能があるって、あなたみたいな人のことを言うのね」

その声にいつもの力が全く感じられず、アルマークは戸惑った。

「違うよ」

アルマークは慌てて首を振る。

「僕だけの力じゃない。僕はいつもみんなに助けられてきた。今日だって君に助けてもらったし、これもたまたま僕のやり方に合っていたってだけで」

「慰めてくれなくていいわ」

レイラは笑った。

「あなたを見ていると、自分が肩肘張って必死に頑張っているのがばかばかしくなってくる」

「そんなことはないよ」

アルマークは必死に首を振った。

「僕は君を止めたくて」

その必死な表情を見ていたレイラの表情が、徐々に優しく緩んでいく。

「今思い出してみたら、あなたすごいこと言ってたわ」

レイラは悪戯っぽくアルマークを見た。

「もう君を一人にしない、とか」

「えっ」

アルマークがぽかんとする。

「何でそれがすごいことなんだい」

「君を一人にしないって、プロポーズの言葉よ。普通は」

レイラは意地悪な笑顔で続ける。

「北では違うのかしら」

アルマークはようやくレイラの言葉の意味を理解して、うろたえる。

「いや、違うよ。違う違う。そんな意味で言ったわけじゃないんだ」

「分かってるわよ、そんなこと」

レイラが呆れたように肩をすくめる。

「あなたにはウェンディがいるんでしょ」

「えっ」

アルマークはますますうろたえる。

「違うよ。ウェンディとは別にそんな」

「普段あんなにデレデレしてるくせに、ここで照れる意味が分からないわ」

「いや、違うってば」

言い訳を続けようとしたアルマークの表情が、不意に変わった。

「レイラ」

そう呼び掛けるアルマークの声の調子が変わったことに、レイラも気付く。

「どうしたの」

不審そうな顔でアルマークを見る。

「この通路を逆戻りすれば、すぐに出口に着くんだよね」

「ええ」

レイラは戸惑いながら頷く。

「じゃあ、急いで帰ってくれ」

「は?」

レイラが眉をひそめる。

「急に何を言い出すの。あなたはどうするの、まさか第四層まで下りる気?」

「違うんだ」

アルマークの右手が禍々しい反応を示していた。

手の中で、漆黒の蛇が蠢いているのを感じる。

こんなところにも、罠を隠していたっていうのか。

「逃げてくれ、レイラ」

アルマークは言った。

「ここからは、僕の問題だ」

階段の下から、ゆっくりと人影が上ってくるのが見えた。

魔影。

だが、その大きさは通常の魔影の優に三倍を超えていた。

階段いっぱいを覆うようにしながら、上がってくる。

「なに、あれ」

レイラの声が震えた。

「あれは、僕の獲物だ」

アルマークは、まるで悦んでいるかのように打ち震えている右手に無理やり力を込めて、マルスの杖を握り直した。

「頼む。逃げてくれ、レイラ」