軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

試練の洞穴

最初の部屋は、アルマークが見たことのない部屋だった。

壁にいくつものボタンがあって、それぞれに文字が書かれていた。

入ると、すぐにレイラが天井を見上げる。

そこに、二匹のトカゲが向かい合うように這っていた。

「あれも彫像か」

つられて天井を見上げたアルマークが呟く。

レイラは両手で空中に円を描く。

声狩りの術。

二匹のトカゲの彫像の会話を盗み聞きしたレイラは、そこに含まれた情報から正解のボタンを押して、次の扉を出現させた。

「すごい」

アルマークの言葉に、

「この部屋にはもう何度も来てるから」

とレイラは事も無げに答える。

「第一層なんかで時間は使っていられないの。さっさと行くわよ」

次の部屋は二体の小鬼の部屋だった。

アルマークが嬉しそうに、

「僕知ってるよ。この部屋は」

と言いかけたときには、レイラが風曲げの術で壁際の小鬼の像に風を吹き下ろしていた。

「さあ行くわよ」

壁に出現した通路へ早くも歩き出したレイラの後をアルマークも慌てて追う。

そんな風にしてレイラは造作もなく次々と小部屋の試練を潜り抜けていく。

アルマークは、ただただ感心しながら、その後ろを追いかけた。

と、不意にレイラが足を止めた。

目の前に鉄の扉がある。

漂うわずかな魔力。

アルマークは鋭い声を上げた。

「レイラ、気を付けろ。こいつは」

「黙ってて」

レイラは素っ気なく言うと、杖から稲光を走らせた。

ばしっと鈍い音がして、扉に擬態していた不定形の塊は石の床に吸い込まれるように消えた。

「さすがだな」

アルマークは感嘆する。

「レイドーは湧水の術で撃退したんだ。君の稲光の術なら一瞬だったな」

「別に第一層だけで帰るつもりなら、湧水の術でもいいけど」

レイラはもう通路を歩き出しながら、言う。

「もっと下まで下りるつもりなら、魔力は温存しておかないと。湧水の術は消耗が激しすぎるわ」

「なるほど」

アルマークは頷く。

勢いだけで試練に挑んでいたアルマークとレイドーとは違い、レイラはずいぶん戦略的に試練に挑んでいるようだ。

じきに、下へと下りる階段に突き当たった。

「どう?」

レイラが冷たい表情でアルマークを振り返る。

「ここまででもう分かったでしょ? 私には十分な力があるし、あなたはここでは何の役にも立たない。意地を張るのはやめて、ここで帰ったら?」

アルマークは肩をすくめる。

「足手まといになりそうなのは認める」

レイラが小さく頷く。

「でも、僕は帰らない。まだまだ付き合うよ」

アルマークの言葉に、レイラは小さくため息をついた。

「どうなっても知らないわよ」

そう言って、さっさと階段を下りていく。

アルマークもその後ろに続いた。

第二層は、下りたときには第一層と変わらないように見えた。

石の床、石の壁。通路が奥へと続いている。

しかし、アルマークの気持ちを見透かしたかのようにレイラがぼそりと言う。

「上と違って、通路にもいろいろと仕掛けがあるから気を付けて」

「分かった」

アルマークは頷く。

第二層でも、レイラの動きは手慣れたものだった。

通路の両側に設置された火を吹く魔物の像を手際よく押さえ込み、無作為に開く落とし穴の罠をかいくぐった。

アルマークには、レイラが何の魔法を使ってそれらの試練をかいくぐっているのか、半分も分からなかった。

時折現れる小部屋の謎解きでは、レイラはアルマークに説明もせずにさっさと解いてしまうので、アルマークは極力レイラの邪魔にならないように、部屋の隅に待避していた。

「付いてこられないなら、帰りなさい」

レイラに言われ、それでもアルマークは、とにかく魔物の像も落とし穴も壁を蹴って飛び越した。

「罠の危険度が上がってるね」

アルマークは前を行くレイラに声をかけた。

第一層は、最後の扉の罠も含めてせいぜいが身体の自由を奪う程度のものだったが、第二層の罠は炎や落とし穴など、対応を誤れば大怪我をしそうなものが含まれてきていた。

「そうね。怖じ気づいた?」

レイラが振り返りもせずにそう答える。

「いや。ますます君が心配になった」

アルマークが言うと、レイラは不快そうに振り返ってアルマークを睨んだ。

第三層に下り立つと、雰囲気が上二層とは明らかに変わった。

再びごつごつとした岩肌の通路になっていた。

「ここからは、油断するとあっという間にやられるわよ」

レイラの声の調子も先ほどまでと変わり、緊張感を漂わせていた。

「分かった」

アルマークは頷く。

しばらく歩くと、分かれ道に突き当たった。

第二層までは、すべて一本道だった。

分かれ道が出てきたのは初めてだ。

「第三層は、迷路みたいになっているわ」

レイラが言う。

「それに、たくさん『敵』が出てくる」

「敵?」

アルマークは聞き咎める。

「魔物は出てこないって聞いたけど」

「魔物は出ないわ。出てくるのは、先生達の作った魔法の障害」

レイラは言いながら、一方の道を指差す。

「ほら」

そちらの道からは、薄い光を放つ人影のようなものがゆっくりと近付いてくるところだった。

「通称、魔影って呼ばれている。触れると魔力を吸いとられるから近付かない方がいいわ」

レイラは近付いてくる人影を見ながら、冷静に説明する。

「彼らにあなたの得意な剣は通じないわ。効くのは、魔法による攻撃だけ」

「なるほど」

アルマークは頷く。

「消耗は避けるわ。こっちよ」

レイラが魔影のいない道を歩き出す。

「あいつ、追っては来ないのかい」

「たまに追ってくることもあるけどね。大抵は追ってこないわ」

「ふうん」

アルマークはゆっくりと近付いてくる魔影を一瞥してから、レイラの後を追って歩き出す。

それからもいくつもの分かれ道が続いた。

魔影はその後も頻繁に現れ、レイラは基本的には戦いを避けたが、進行方向を塞がれたときと、魔影が意外な速さで追いかけてきたときは、やむを得ず杖を振るった。

レイラの稲光の術を受けると、魔影は岩肌に染み込むようにして消えた。

二人はかなり長い時間、通路をそうやって進んだが、一向に階段にはたどり着かない。

「前回もこの迷路で魔力が尽きたのよ」

もう何度目になるか分からない分かれ道を過ぎた後、レイラは忌々しそうにそう言った。

「迷路がここまで広大なわけがない。どこかでループをされていると思うんだけど、それが分からない」

「なるほど」

アルマークは立ち止まった。

さっきから気になっていることがあった。

アルマークの理性と野性が回り出す。

上二層とは明らかに違う。

この第三層の構造と仕掛けは、アルマークのやり方に噛み合うように思えた。

「ねえ、レイラ」

先を行くレイラに声を掛ける。

「何よ」

煩わしそうに振り返ったレイラの顔色が変わった。

「危ない!」

駆け寄ると、アルマークを思いがけず強い力で突き飛ばす。

壁から滲み出るように、魔影がアルマークのすぐ隣に忍び寄っていた。

「くっ」

レイラは杖を光らせて魔影を撃退するが、その瞬間に魔影の手がレイラの肩を撫でていた。

「ぐうっ」

レイラは苦痛の呻きを漏らす。

「レイラ」

アルマークは駆け寄った。

「すまない。大丈夫か」

「魔力を持っていかれた」

レイラは肩をさすって顔をしかめた。

「せっかく温存してきたのに」

「すまない、僕のために。気付かなかった」

「歩いて」

レイラは言いながら、自分でも歩き出した。

「ここでは、少しでも立ち止まると壁から魔影が湧いて出てくるの。足を止めちゃいけない」

事実、一瞬立ち止まっただけの二人の脇の壁に、魔影がちらりと顔を覗かせたが、二人が歩き出したのを見てまた壁の中に姿を消す。

「分かったでしょ」

レイラが歩きながら、苛立ちを隠さずに言う。

「自分が足手まといだっていうことが。もう帰って」

振り返りもせずに後ろを指差す。

「通路を逆戻りすれば、じきに扉に突き当たる。それを開ければ、第一層の入口に着くわ。これ以上私の邪魔をする前に、帰って」

「うん」

レイラの後ろを歩きながら、アルマークは頷く。

「君の気持ちはよく分かる。僕は君の邪魔をしてしまった。すまなかった」

「だったら」

怒りを滲ませてレイラが振り返る。

しかし、アルマークは真剣な表情で、レイラに告げた。

「ここの謎は大体分かった。ここからは、君の役に立つよ」