軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決闘

結局、さらに三回の仕切り直しを経て、まるで仮面のように無表情になったアルマークが、二人の延々と続く舌戦を鋼のような忍耐心でじっと見つめ、最後にぽつりと「はじめ」と言ったことで、ようやく決闘が始まった。

試合は、始まってしまえば、さすがに初等部で屈指の実力者であるポロイスと中等部のガレルの二人だけあって、なかなかレベルの高いものとなった。

激しい攻防は、だがやはり年長者のガレルにやや分があるように見えた。

ガレルの激しい突きが、ポロイスの防具をかすめ、鈍い音を立てる。

「当たった!」

ガレルが叫びながら間合いを取る。

「今、当たっただろう」

「当たってない」

アルマークは首を振る。

「かすっただけだ」

「ちゃんと見てるのか」

付添人のモルフィスが声を荒げる。

「これだから素人は」

「当たってねえよ。アルマークの言うとおりだ」

腕組みして見ていたコルエンも声をあげる。

「防具をかすめただけだ。身体の芯には当たってない。そういうのは無効だ」

「勝手な理屈を」

モルフィスが気色ばんで身を乗り出すが、ガレルは手を上げて仲間を制した。

「いや、いい。モルフィス。この一本は奴への貸しにしておく」

「貸しだと?」

ポロイスが目を剥く。

「奴の実力はもう見切った。次は奴が何の言い訳もできない形で決めてみせる」

ガレルの言葉に、モルフィスが舌打ちして引き下がる。

「お前は寛大すぎるんだよ、ガレル」

「よし。続けて」

アルマークが声をかけ、決闘が再開される。

自らの言葉通り、ガレルが猛然と攻めこんでいく。

ポロイスは防戦一方となった。

「おう、いいぞガレル!」

モルフィスが歓声を上げる。

コルエンは無言で戦いを見守っている。

時折爪先でとんとん、と地面を叩くのは、二人の攻防のリズムを測っているのか。

ガレルの攻撃を受けるポロイスの目が反撃の機会を狙っているのが、アルマークには分かった。

ポロイス、相手を引き込んでいるな。

アルマークがそう思った矢先、ガレルの攻撃をかわしたポロイスの突きがきれいにガレルの胴を捉えた。

「それまで」

アルマークは声をあげた。

「ポロイスの突きが決まった。一本目はポロイスの勝ちだ」

「ぐぬ」

ガレルが呻く。

さすがに言い訳しようのない一撃だった。

ポロイスが息を吐き、ガレルの顔を見て笑う。

「言い訳できない形、というのはこういうことを言うんだ」

「くそ。卑怯な」

ガレルが呟く。

悔し紛れに言っただけのようで、何が卑怯なのか具体的な言及はなかった。

「気にするな、ガレル」

モルフィスが手を叩いて仲間を鼓舞する。

「まだ一本取られただけだ。すぐ取り返せる」

「無論だ」

そう答えてガレルも胸を張る。

「では、二本目。剣を合わせて」

アルマークが指示し、二人が剣先を合わせる。

「二本目、はじ……」

「今のはただの余興に過ぎん。僕の本当の実力はこれから徐々に明らかになるだろう」

「ふん。一本目にして早くも馬脚を現したようにしか見えんがな」

「あ、一本ごとに喋るんだね」

アルマークの言葉に二人が同時に彼を見るが、アルマークはうつむいて手振りで話を促す。

「僕は気にせず、どうぞ続けて」

ポロイスが咳払いして気を取り直す。

「三本目を待たずに貴様が戦意喪失しないことを祈ろう」

ポロイスの言葉に、ガレルが鼻を鳴らす。

「その思い上がりがいかに恥ずかしいものか、今夜部屋で一人で思い出して身悶えするがいい」

「ぬかせ」

「ふん」

アルマークは二人の顔を交互に見て、もうどちらも口を開かなそうだと判断してから、再度指示を出した。

「二本目、はじめ」

二本目は、ガレルが先程の失敗に学んだのか、積極的に前に出ず、静かな立ち上がりとなった。

それに力を得て、徐々にポロイスの攻撃のペースが上がる。

ポロイスの一気呵成の踏み込みからの流れるような三連撃。

それも見事だったが、体を捌きながらそれを全てきれいにかわしたガレルも見事だった。

「おう」

思わずアルマークも声をあげる。

「いいぞ、ガレル!」

モルフィスが叫び、得意の攻撃をかわされたポロイスが「くっ」と呻く。

怯んだポロイスの隙をついたガレルの反撃が、ポロイスの胴を抉った。

「それまで!」

アルマークが声をあげ、二人を制止する。

「二本目はガレルの勝ちだ」

「くそ」

ポロイスが肩で息をしながら天を仰ぐ。

「汚いぞ」

悔し紛れに言っただけのようで、何が汚いのか具体的な言及はなかった。

「よし、それでいいぞ」

モルフィスがガレルの肩を叩く。

「このまま一気に決めてしまえ」

「ああ」

ガレルも頷く。

「やはり正義はこちらにあるということだ」

「バカなことを言うな」

ポロイスが気色ばむ。

「まだ一対一だろうが」

「その通りだ、ポロイス」

コルエンが声をかける。

「実力は互角だ。年上だからって大したことはない。相手の動きをよく見ろ」

「うむ」

ポロイスは頷いた。

「じゃあ、三本目いこうか」

アルマークが声をかける。

二人は汗を拭って向かい合う。

「剣を合わせて」

二人が剣先を合わせる。

「三本目」

「僕に勝てると思っていい気になっているだろう。それが貴様の命取りになる」

「ふん、貴様ごときに勝って僕がいい気になるとでも? 冗談も休み休み言うんだな。当然の結果が示されるだけのことだ」

「これから貴様はその結果に打ちのめされることになる。もう勝負は始まってしまったからな。今さらなかったことにしてくれと言っても手遅れだぞ」

「その言葉はそっくり貴様に返そう。結果を受け止めるだけの度量が貴様にあることを祈るよ」

「……」

アルマークは二人の応酬を黙ってじっと待った。

やがて二人が、

「ふん」

「くだらん」

などと言って黙ると、そこでようやくアルマークが開始の号令をかける。

「三本目、はじめ」

「やり方がつかめてきたな」

コルエンがそう言って笑うのがアルマークの耳にも届いた。