作品タイトル不明
名乗り
アルマークは、手際よく防具を着ける二人を眺めながら、コルエンに声をかける。
「で、この決闘で結果が出たらどうなるんだい」
「負けた方は、今後勝った方に何を言われても我慢するんだってよ」
「ふうん」
アルマークは頷く。
まあ、決闘といってもその程度のことだろう。
怪我しそうになったら止めればいい。
「用意はいいかい」
二人が防具を着け終えたところで、アルマークは再度声をかける。
「こちらはいいぞ」
ガレルが言い、ポロイスも頷く。
「僕も構わん」
「それじゃあ向かい合って。剣を合わせて」
「待て待て」
ガレルの付添人のモルフィスが声をあげる。
「ったく、これだから素人は。肝心の名乗りを抜かすんじゃねえよ」
「ああ……」
アルマークは思い出した。
武術大会でポロイスがやった、あれか。
「いいよ。それじゃあそっちからどうぞ」
アルマークが手を差し出して促すと、ガレルは渋い顔で首を捻る。
「どうも気分が出ないな」
後ろでそれを見ていたコルエンはにやにやと笑っている。
「まあいい」
ガレルは気を取り直したようにそう言うと、三歩後ろに下がった。
そして剣をポロイスに真っ直ぐ向け、ゆっくりと左肩に振りかぶると、再びポロイスに突きつけた。
「デルガー家当主ガッシュが三子、ガレル!」
武術大会でポロイスがやっていた名乗りと一緒だ。
続いて、ポロイスが三歩下がる。
「スタウツ家当主メリクが次子、ポロイス」
「あ、先に名前を言うのか」
思わずアルマークが感想を口にすると、ポロイスにすごい目付きで睨まれる。
後ろでコルエンがこらえきれず、くくく、と忍び笑いを漏らす。
ポロイスは剣を振り上げ、素早く十字を切るように動かすと、最後にガレルに突きつけた。
「ガレル・デルガー。貴様の横暴も今日までだ。我が正義の剣を受けよ」
まるで刑を宣告するかのように、重々しくそう告げる。
それを聞いたガレルの顔が憎々しげに歪む。
「こざかしいことを」
「へえ。いろんなやり方があるんだな」
アルマークが感心して言うと、ポロイスが顔をしかめた。
「気が散る。君は余計なことを言うな」
「それはすまない」
アルマークは謝ってから、二人の顔を見る。
「じゃあ始めてもいいかな」
二人は互いに目をそらさず、頷く。
「よし。剣を合わせて」
アルマークの指示で剣先を合わせると、ガレルが吐き捨てるように、
「貴様の得意気な顔を見るのも今日が最後だ」
と言い、ポロイスが
「それはこちらの台詞だ」
と応じる。
「貴様の無様な負けっぷりが明日には中等部にまで広まっているだろう」
「ふん。貴様こそ、来年中等部に進学するのが怖くて仕方ないようにしてやる」
「後悔するなよ、僕を怒らせたことを。もっとも今となってはもう」
「はじめ!」
剣先を合わせたまま長々と会話が始まったので、アルマークがそれに構わず開始の号令をかけると、二人が同時にすごい勢いでアルマークを振り向いた。
「待て!」
ガレルが叫び、
「僕たちがまだ喋っているだろう!」
とポロイスも声を荒げる。
「え、あれを待つのかい」
アルマークは目を丸くする。
「当たり前だろう!」
という声はきれいに揃った。
「気分が削がれた。やり直しだ!」
ガレルがそう言って剣を下ろす。
「貴様の言うことに従うのは気に食わんが、それには同意せざるを得ん」
ポロイスもそう言って剣を下ろす。
「やり直しってどこから」
「決まってるだろう。名乗りからだ!」
ガレルが言い、アルマークは絶句する。
「ええ? 嘘だろう。あれをまたやるのかい」
「あれとはなんだ、あれとは!」
ポロイスが叫び、コルエンの笑い声がそれに重なった。
また二人は最初と同じように向き合い、冒頭の名乗りからもう一度始める。
「デルガー家当主ガッシュが三子、ガレル!」
今度はガレルも最初に名乗った。
ポロイスの真似をして剣を突きつけてから何か言うつもりなのだ。
さっき、名乗りのときに一方的に言われたのが悔しかったのだろう。
案の定、ガレルは剣をポロイスに突きつけてから、長々と口上をぶち始めた。
ポロイスは時折怒りで顔を赤くしながらも、律儀にそれを全て聞く。
ようやくガレルの口上が終わった後で、今度はポロイスが名乗りをあげる。
「スタウツ家当主メリクが次子、ポロイス!」
そしてガレルに剣を突きつけ、こちらも長々と相手を非難する。
ガレルは顔を歪めながらも、それを全て聞く。
聞き終えると、ガレルが吐き捨てた。
「ふん。貴様のしたり顔も今日までだ」
「貴様こそ、明日からは恥ずかしくてノルクの街も歩けなくなるぞ」
ポロイスが応じる。
「剣を合わせて」
「まだ話しているだろう!」
「君はもう少し待てないのか!」
「ええ……?」
またも二人に同時に怒鳴られて、アルマークは困惑した。
「もう名乗りは終わったんじゃないのか」
「どちらかが喋っている間は、君は口を挟むな!」
ポロイスが叫び、ガレルの付添人のモルフィスが呆れたように、
「いつになっても始まらねえじゃねえか。しっかりしろよ」
とアルマークを睨む。
いや、それは僕の台詞だ。
アルマークは思った。
ずっと喋ってばかりで、この決闘は一体いつになったら始まるんだ。
やっぱりこんな立会人なんて引き受けるんじゃなかった。
アルマークはそっとため息をつき、楽しそうにこちらを眺めているコルエンを睨んだ。