軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

訪問

結局、どんな物語を書くのかは、キュリメに一任された。

台本ができてから再度、誰が何の役をやるのかを相談して決めることになった。

「キュリメのやつ、ノリシュの提案した悲恋物語に頷いてなかったっけか」

ネルソンがぼやく。

「いや。どうだったかな。モーゲンの森の味覚採集物語には頷いてなかったと思うけど」

アルマークが言うと、ネルソンは呆れたようにため息をつく。

「当たり前だろ、なんだよ味覚採集物語って。でもキュリメの大人しい性格からいって地味な恋愛ものになりそうな気がするな。くそ、俺に文才があればな」

ネルソンも最初はそんな風にぶつぶつ言っていたのだが、自分で台本が書けるわけではないので、意外とすぐに諦めがついたようで、持ち前の前向きさを取り戻した。

「ま、仕方ねえな。キュリメの書きたいように書いてもらうしかねえよな」

「キュリメには文才があるんだね」

アルマークの言葉に、ネルソンは首を捻る。

「初耳だけどな。あいつ恥ずかしがり屋だから隠してたのかもな」

「どんな物語になるのか、楽しみだね」

アルマークは微笑んだ。

その日の夜。

ノックの音を聞き、アルマークは瞑想を中断して自室のドアを開けた。

「ん、君は」

アルマークは意外な人物の訪問に怪訝な顔をする。

「僕に何か用かい」

そう言って、その顔を見上げる。

「俺のこと覚えてるのか」

アルマークを見下ろしながら、その人物は嬉しそうに笑う。

「お前とは話したことなかったと思うけど」

「覚えてるさ」

アルマークは答える。

「武術大会での君の突きはすごかった」

「突きって、俺は一回しか出してねえぞ」

そう言って苦笑いしたのは、3組のコルエンだった。

飛び抜けて高い長身で、アルマークを見下ろしている。

「あの一回で十分に分かったよ」

アルマークは言う。

モーゲンとの試合には敗れたが、あの日、その強さはアルマークにも伝わってきた。

「それにモーゲンの突きを受けても君は微動だにしなかった。実のある強さだと思った」

「嬉しいこと言ってくれるね」

コルエンが相好を崩して体を揺らす。

「……で、何の用なんだい」

「おう、そうだった」

コルエンは表情を改めて、アルマークに向き直る。

「アルマーク。お前に頼みがあるんだ」

「僕に頼み……君が?」

「ああ。いや、こんなこと頼めた義理でもねえんだけどさ」

コルエンは、頭を掻く。

「決闘の立会人になってほしいんだよ」

快活な口調で物騒なことを言う。

「決闘?」

アルマークが眉をひそめると、コルエンは手を振る。

「いや、もちろん殺し合うわけじゃないぜ。ただの武術の延長さ」

「それはそうだろうけど」

アルマークは言う。

「君と誰の決闘なんだい」

「俺じゃない」

コルエンはまた手を振る。

「武術大会でお前と試合した、ポロイスのことは覚えてるか」

「ああ、もちろん」

「ポロイスが中等部の一年生と決闘することになった」

それを聞いて、アルマークはますます眉をひそめる。

「話が見えないな」

「だろうな」

コルエンはあっさりとそう言って頷く。

「順を追って話す」

コルエンの話を総合すると、こうだ。

ポロイスは、かつてネルソンの怒りを買ったように、誰に対しても比較的尊大に接する人間だが、それは上級生に対しても同じだった。

そのせいで、入学当初から、ポロイスは一学年上の学生の一人と非常に折り合いが悪く、顔を合わせる度に侮辱し合い口げんかをする関係が続いていたが、昨年の最後には危うく殴り合いに発展しそうなほどの激しい口論となった。

血を見なければ収まらない雰囲気だったが、その時はコルエンらが間に入り、なんとか事なきを得た。

今年になり、その相手が中等部に進んだことで、いさかいはほとんど見られなくなり、周囲は安心したが、それは誤りだった。

休日にたまたま街で出会った二人は、前回もかくやというほどの激しい口撃をし合い、最後には、決闘の約束をして別れた。

その決闘が、今度の休日に行われるというのだ。

「なんとも言い様のない話だね」

アルマークはため息をついた。

「ポロイスの言葉には刺がある。敵を作るよ。僕にもそれくらいのことは分かる」

「面白いよな」

コルエンが笑顔で頷くので、アルマークは自分の言葉が聞こえなかったのかと訝しむ。

「僕は敵を作るって言ったんだけど」

「あいつのああいうところが俺は好きなんだ。見てて退屈しない」

コルエンの言葉に、アルマークは首を振る。

「僕とは考えが違うみたいだ」

「お前ももう少し付き合ってみれば分かるって」

「で、なんで僕なんだい」

「ん?」

「立会人なら君がやればいいじゃないか。エストンでもルゴンでもいいだろう。僕がやる必要はない」

「それがそうもいかないんだよ」

コルエンの口ぶりは、やはりどこか軽い。

「俺はポロイスの付添人として行く。相手が出した条件が、立会人はポロイスと同じクラスになったこともない、相手と会ったこともない者が務めること」

「なんだ、その条件」

「変わってるだろ、相手も」

コルエンは嬉しそうに言う。

「それで思い出したのが、お前だ。アルマーク、お前なら相手と面識もないしポロイスと同じクラスになったこともない」

「行く理由がないな」

アルマークは首を振った。

「僕には、その決闘とやらの立会人をする理由がない」

「まあそう言わないでくれよ」

コルエンは笑顔を引っ込めた。

「ただとは言わない」

アルマークがコルエンの顔を見上げると、コルエンは頷く。

「立会人になってくれれば、俺の知っている話をお前に教える」

「君の知っている話?」

アルマークが問い返す。

「何の話だ」

「きっとお前が知りたい話さ」

コルエンはそう言って、また笑顔を見せた。