軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

前へ

武術場から程近い草むら。

そこに練習用の剣と防具が二組、ぽつんと置かれていた。

「練習に付き合え」

「……まさか、このために待ってたのか?」

「悪いか」

言いながらトルクはさっさと自分の防具を着け始める。

何かと思えば、武術の練習か。

アルマークは思った。

トルクも、武術大会のチームリーダーとして、責任を感じているのかもしれない。

しかし、それにしても。

「練習なら、武術場でやらないか。この時間ならウェンディやレイラもいるだろうし」

「ダメだ」

トルクはにべもなく断る。

「ここでやる」

アルマークは顔の前を飛び交う羽虫を手で追い払って、仕方なく防具を着け始める。

「付き合うけどさ……何もこんなところで。すぐそこが武術場なのに」

「無駄口を叩くな。早く着けろ」

トルクは既に防具を着け終えて、剣を持って待っている。

「……分かったよ」

アルマークも防具を着け終えて、トルクの前に立った。

「……手加減無用だぞ」

トルクは言って、剣を上げる。

アルマークがその剣先に自分の剣を合わせる。

それから二人は素早く間合いを取る。

おっ。

アルマークは目を見張った。

トルクの構えが変わっている。

以前は、体格を利して相手を圧していこうという隙だらけの構えだったが、今、目の前のトルクは、慎重にアルマークに対して半身を維持して隙を見せないように工夫している。

そのまま二人は間合いを保ったまま、ゆっくり、ぐるりと円を描く。

「うまくなったな、トルク」

アルマークが声をかける。

「ほざけ」

トルクが吐き捨てる。

その額に汗が滲む。

「隙がない。前はどこからでも打ち込めたのに」

アルマークは素直に驚いてそう言った。

確かに、規則上打ち込めるのが胴だけなので、実戦と比べてどうこうというものではないが、それにしてもトルクの上達ぶりは顕著だった。

隙がないなら、崩すしかない。

アルマークは自分から剣を軽く突く。

トルクがそれに反応して飛びずさって間合いを取る。

そこにアルマークは踏み込んで追撃の突きを打ち込む。

トルクがそれを剣で弾く。

アルマークが突き、トルクが受ける。

動きが激しくなればなるほど、そこに隙が生まれる。

攻防を続けながら、アルマークはトルクの防具に打ち込める隙をいくつも発見した。

「だんだん隙が多くなってきたぞ、トルク」

「うるせえっ」

トルクは必死に剣でアルマークの攻撃を受け流しながら叫ぶ。

「隙があるなら打ちゃいいだろうが!」

「それじゃ……」

アルマークは踏み込みの角度を急に変えて、トルクの胴の脇を突いた。

「ぐっ」

トルクがうめいて膝をつく。

「くそ」

拳で地面を叩く。

「もう一度だ」

そう言って立ち上がる。

「ずいぶん構えは良くなったけど、そこから攻撃しないと勝てないぜ、トルク」

「んなこたあ言われなくても分かってる」

トルクは剣を構えた。

「もう一度だ」

「分かったよ」

アルマークはトルクの剣先に剣を合わせる。

その後は、最初と同じ展開になった。

構えはいいのだが、攻撃がろくに出ないので防戦一方になり、隙が出来たところをアルマークに打ち込まれてしまう。

「くそったれ」

トルクは毒づきながら立ち上がる。

「もう一度だ」

アルマークはトルクに応じ、その後七回も立ち合ったが、いずれも同じ展開となった。

「ちきしょう」

膝をつくトルクに、アルマークが声をかける。

「トルク、君の長所はその大きな身体とパワーじゃないか。構えは良くなったけど、その後の慎重さは、君の良さを殺している気がする」

「うるせえ」

トルクが立ち上がり、剣を上げる。

「何度やっても同じだと思うよ。もうだいぶ暗くなってきた。今日はもう終わりにしよう」

アルマークはそう言って剣を地面に置いた。

「もう一度だ」

トルクが言う。

「終わりにしよう。僕はもう行く」

「ダメだ」

トルクは首を振る。

日はほとんど沈み、その表情もおぼろげにしか見えない。

「もう一度だ」

トルクが繰り返す。

「これ以上は危ない」

アルマークも首を振る。

「武術の練習なんて、周りも見えない暗い中でやるものじゃない」

「アルマーク!」

トルクが吼えた。

「受けろ。これで最後でいい」

トルクは必死の表情をしているように見えた。

「……分かったよ」

アルマークは渋々頷いて、剣を拾い直した。

「これで本当に最後だぞ」

言いながら剣先をトルクの剣に合わせる。

互いに間合いを取って向かい合う。

トルクが先程までと同じ構えでじりじりと動く。

日が沈み、その身体が黒い影のように見える。

これ以上暗くなると本当に危険だ。さっさと決めてしまおう。

アルマークは前に出た。

しかし間合いを詰めた瞬間、トルクも前に出てきた。

お、やる気か?

その瞬間、アルマークは違和感を感じた。

トルクの間合いがやけに近い。

いや、これは。

やばい。

アルマークは危険を感じて、出しかけていた剣を引っ込めて防御しようとする。

しかし、トルクの剣の方が速い。

先程までとは明らかに質の違う、渾身の突きが飛んでくる。

アルマークはとっさの判断で、剣で受けるのを諦めて身体をよじりながら大きく飛び退いた。

その防具にトルクの剣が掠めて鋭い音をたてる。

「ちぃっ」

トルクの舌打ち。

渾身の突きで伸びきったトルクの胴をアルマークの剣が捉えた。

「ぐうっ」

トルクが地面に倒れ込む。

とっさのことでかなり強めに打ってしまった。

「大丈夫か、トルク」

慌ててアルマークが膝をつく。

トルクは苦しそうな顔でアルマークの顔を見上げた。

しかし一瞬の沈黙の後、大声で笑い始める。

「くくく、ははは。やっと本気の顔をさせてやったぜ」

「え?」

「気に食わなかったんだ。武術の時はいつも余裕綽々の面しやがって。くくく、さっき俺の突きをよける時のお前の顔、最高だったぜ。胴に思いっきり当たってりゃ言うことなかったんだがな」

「トルク、君はまさかそのために」

アルマークは呆れた顔でトルクを見る。

「暗くなるまで僕に相手をさせたのか」

トルクは汗にまみれた顔でニヤリと笑う。

「毎回同じ展開で負けて、僕を油断させておいて、それで最後の勝負だけ、間合いを取ったときに闇に紛れて剣を左手に持ち換えたのか」

明かりのある武術場ではなく、外での勝負にこだわったのもそのせいだったのか。

「左手の突きが甘かったな。やっぱり利き腕じゃねえからな」

言いながら、トルクは上体を起こした。

「急に間合いが近くなって焦ったろう」

アルマークが素直に頷くと、トルクはもう一度笑って、首を振った。

「惜しかったぜ」

「でもこれ、武術大会では使えないじゃないか」

「武術大会なんざ」

トルクは鼻で笑う。

「お前の言うように、俺の体格とパワーでいくらでも圧倒してやるよ。そんなもん端から眼中にねえ」

「じゃあ、もしかしてこれは」

「そうだよ。お前に負けたあの日から、一泡吹かせてやろうとずっと考えてたんだ。あと一歩だったけどな」

アルマークはため息をついて立ち上がった。

「そうなのか。僕はてっきり武術大会の練習かと」

「……実力で勝てねえ相手には、策も使わなきゃならねえ。お前が勘違いしてるなら、それも利用する。嘘はつかなかったつもりだがな」

確かに、トルクは一度も、武術大会の練習に付き合え、とは言わなかった。

「無様に負けたままで、お前に一矢報いもせずに前に進むのは、自分で許せなかった」

トルクは言った。

「さっきのお前の顔。とりあえずあれで良しとするぜ」

これで前に進める、とトルクは呟く。

「俺を卑怯と軽蔑するか」

そう言って、トルクはアルマークを見上げた。

暗くて表情ははっきりとは分からないが、強い目の光がアルマークを見据えていた。

アルマークは首を振った。

「いや。尊敬するよ、トルク」

その強さは、もしかしたらアルマークには馴染みのある強さに通じているのかもしれない。

アルマークは立ち上がろうとするトルクに手を貸そうと、右手を差し出した。

トルクは、首を振ってそれを拒絶する。

「助けはいらねえ」

言いながら、自分で立ち上がる。

「俺は自分の力で立ち上がる。今までも、これからもだ」