軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話〜無い?〜

電話を切り、俺は防音室から出る。

WEB会議用に設置して貰ったこの部屋だが、最近は電話の時でも使う様にしている。

結構際どい会話をしているからね。タダでさえ女性に様付けしていないし、最近は鈴木さんのプライベートにも踏み込んでいる。下手すると、機密漏洩とかで特高に捕まりかねない。この世界で女性は、それだけ重要な存在っぽいから。

「でも、そんな重要なら、俺ももうちょっと待遇良くして欲しいよ…」

俺はデスクに戻る道すがら、愚痴を吐く。給料が据え置きなのはまだ良いけど、仕事内容まで全て据え置きなんだからやってられん。同じ給料で、倍近い量の仕事をこなしているんだ。そろそろ、俺の通常業務が滞り始めている。

担当の工場にも足を運べていないしな。来てくれって誘いが何通も溜まっている。

「やっぱもう一度、支社長と交渉するか」

前に直談判した時は、鈴木さんの電話を優先させたからな。またトライしよう。

俺はそう決断し、彼の空き時間を狙って話しかけようとする。

でも丁度そのタイミングで、鈴木さんから電話が。

ぐっ…これは、神様が仕事しろって言っているのか?

「もしもし、黒川です」

『鈴木です。何度もごめんなさい』

「いえいえ。あの後どうなりました?」

俺は話を振りながら、防音室へ舞い戻る。

鈴木さんが上手く立ち回っているのを聞いて、嬉しくなる。

でも、

『実は、ちょっと困った事になって。あっ、仕事の話ですよ?』

ああ、仕事か。イジメじゃ無くて良かった。

「確か、区長から案件を貰ったんですよね?」

『そうなんです。それが、ちょっと厄介で…。その工場、データが無いんです』

「無い?」

驚いて、オウム返しに聞いてしまった。

鈴木さんによると、工場はかなり昔に建てられた物らしく、操業データが十分に揃っていないのだとか。また記録している操業データも、特許の関係で工場外への持ち出しが出来ないとのこと。

つまり…。

「現地に行かないと解決出来ない問題って事か」

『そうなんです』

なるほどね。そう言うケースは良くある。海外の技術を取り入れている所とか、図面やデータ持ち出し不可だったりするし。

そう言う所は今まで、現地に赴いていたんだけど…。

「その工場が特区の中じゃ、難易度が跳ね上がるな」

情報すら規制している場所に、男の俺が入るのは無理なんじゃないか?最悪、遺体じゃないと入れません…なんて言われるかも。

『それについては今、社長が管理局と交渉してくれてるんです』

「管理局かぁ…」

俺はつい、先日の事を思い出してしまう。あの異常な空間に足を踏み入れると思うと、ちょっと心がブルーになる。

『あの、もし黒川さんが気乗りされないのでしたら、この件は私が頑張って…』

おっと。俺が考え込むから、鈴木さんを不安にさせちまった。

「違う、違う。ちょっと管理局って聞いてね。嫌な事を思い出しちゃったんだよ。特区に入れるなら、俺は嬉しいよ。鈴木さんとも直接会いたいし」

『あっ、あい、たい…』

「えっ?あっ…」

やっべ!俺また、トンデモ発言しちまった!

おっさんが美少女に会いたいなんて、何処の犯罪者予備軍だよ。

「済まん!鈴木さん。そう言う意味で言ったんじゃなくて、俺は…」

『いえ、あの、大丈夫、です』

大丈夫?本当に?

優しい彼女の事だから、キモいのを我慢しているんじゃないか?

『私も、その…色々と、お伝えしたい事がありまして』

伝えるって、何を?

「あの、鈴木さん?」

『それでは、黒川さん。また、お電話します』

慌てた様子で切られてしまい、俺の言葉は宙に浮く。

ああ、今度こそ俺、やらかしたんじゃないか?

そんな不安にも襲われたが、その後も普通に彼女から電話がかかって来る。そして数日後には、

「えっ?もう許可が降りたんです?」

『いえ。入区の許可では無くて、直接会う方の許可が降りて…』

なんでも、いきなり入区と言うのは危険もある為、一度当人同士で顔合わせをして、話を詰める必要があるとの事。場所は、管理局の中枢が集う壁の中。

なんかこじ付けっぽい理由だな。本当は、俺が女性に興奮しないかテストする為なんじゃないか?特区に招いて犯罪を犯したらヤバいって、管理局の奴らなら考えそうだし。

まぁ、何にせよ。

「入区へ1歩前進って事ですね」

ダメですの一言で、バッサリ斬られる可能性もあると思っていたから、これはかなり良い結果。

「それで、日取りとかって決まっているんですか?」

『はい。社長からは、明日の昼イチと伺っています』

「あしっ、明日!?」

はっや!

『ご都合、悪かったでしょうか…?』

「いやいや、全然大丈夫!絶対行きますよ!」

不安そうな鈴木さんに、俺は手を全力で振って否定する。

電話だから、見えないけど。

『うふふ。良かったです』

良かった。笑ってくれて。腕を振ったかいがあったってもんだ。

『それでは黒川さん、また明日』

「ああ、また明日」

俺は電話を切ってから、暫く放心状態だった。

話について行くだけで精一杯だったけど…よくよく考えると明日、鈴木さんと直接会えるんだよな?

そう思うと、心が踊る。そして直ぐに、凍る。

やっべ俺、上等なスーツなんて持ってないぞ!

俺は慌てて、部長のデスクに駆け寄る。

そして、

「済みません、星里部長!半休を下さい。緊急事態なんです!」

「お、おぉ。分かった。誰かにご不幸があったのか?」

「いえ、僕に幸福がありました!」

「ほへっ?」

部長への説得は、少々骨が折れた。最後は支社長が出てきて事なきを得たが、あの援護が無ければ大変だった。

有給を使うのに理由が必要って、何時代だよ。有給は労働者の権利だぞ?

…そう言うところ、この世界は考え方が古いんだろうな。

「着きましたよ、先輩」

昨日の事を考えていると、運転手の松本君から声が掛かる。

「済まんな、まっちゃん。送って貰っちゃって」

「いえいえ。仕事中に繁華街に来られるなんて、僕もラッキーですから」

今は正午ピッタリ。これから松本君は、俺の面会が終わるまで自由時間だ。でもそれも、業務の内。

ここまで来るのに、電車を使う選択肢もあった。でもあれ、めっちゃ汗臭いんだ。今から鈴木さんに会うのに、臭いままなんて論外。

と言う事で、松本君に運転を頼んだ。社長案件だから、支社長からも許可を貰っている。彼もウハウハだ。

「では先輩。鈴木様との面会、頑張って下さい」

俺が車を降りると、運転席から松本君が手を振る。

彼には、俺の正式な業務を伝えた。運転手をしてもらう上で、必要だと支社長から許可が下りたんだ。

「ありがとう、まっちゃん。終わったら飯でも行こう。奢るから」

「じゃあ今の内に、お店を選んでおきますね」

松本君はルンルン気分で、繁華街の方へとハンドルを切る。

俺の業務を聞いて、もう少し驚くかと思ったんだが…「先輩なら納得です」って言うだけだった。

俺を何だと思っているんだか。

彼の車を見送った後、俺は管理官が待つ第4ゲートへと向かう。そこでは大小様々なトラックが連なっており、ゲート付近では銃器を肩に掛けた局員達が厳しい目でトラックを睨み付けていた。

トラックの荷台に乗って、箱とか勝手に開けてるけど…これが検問か。こんなんじゃ時間掛かるだろ。空港とかにある、X線検査装置でも使えば良いのに。

「おいっ!お前はなんだ!」

うおっ!やべぇ。検問に近づいたら、いきなり銃口向けて来たぞ?俺達に人権は無いのか?

「面会をしに来たJIESの黒川です!話は通っていると思いますが?」

「黒川?面会?なんだそれは」

ええっ!?

まさか、末端まで話が通ってないの?

驚く俺。厳しい目でライフル銃を構える局員。銃口が、俺の胸を狙っている。

ヤバい、ヤバい!殺される!

俺の頭の中で、危険信号が鳴り響いた。

と、丁度その時、その銃口がグイッと上に持ち上げられる。次いで、局員の頭にゲンコツが降り注いだ。

ゴツッ…。

「いっ!」

「馬鹿か貴様!今朝、鞍瀬長官が言われておっただろうが!」

「えっ?あっ!」

ゲンコツを振らせたのは、どうやら威嚇してきた局員の上司らしい。局員が「忘れてた…」って顔をすると、もう1発ゲンコツを叩き込んでいる。

うへぇ。超体育会系だ。こりゃ受かっても、入りたくないや。

「おい、お前。ついて来い」

上司が手招きして、俺をゲートの中へと誘う。

その背に従って歩いていると、俺達の隣で検問を通過したトラックが通り過ぎていく。でも途中で止まり、そこから運転手が降りて入口の方へと戻っていく。放置されたトラックは、独りでに動き出した。

地面がコンベヤになってるみたいだ。この後はどうなるんだ?

「ここに入れ」

だが、俺はその先を見届けられなかった。上司局員が通路途中の扉に俺を押し込んでしまったから。

扉の向こうは広い通路になっており、途中で幾つもに分岐していた。

まるでアリの巣だ。1人じゃ出られん。

「入れ」

暫く歩いた後、俺は小さな部屋に通される。面会室かと思ったら、違う。無機質な小部屋だ。そこに、銃器を持った局員が2人。

「脱げ」

「えっ?」

アッー!的なやつ?

「妙なマネはするな。貴重品はこのトレーに置け」

あっ。持ち物検査ね。

俺は言われるままに服を脱ぎ、指示に従う。

まるで囚人だな。流石にケツの穴までは突っ込まれなかったけど、全裸はなかなかに辛い。X線装置使えよ。

「よし。ではこれに着替えろ」

「えっ?」

差し出されたジャージに、俺はつい顔を顰めてしまう。

それに上司局員は「なんだ?」と威圧を掛けてくる。

ちきしょー。10万も払って高級スーツ買ったのに、無駄になっちまったじゃねぇかよ。

そうは思いながらも、俺は素直に従う。しかも着てみると、案外良いジャージであった。

…これ、このまま貰えないかな?

「来い」

着替え終わると、再び誘導される。

さっきまで壁に沿って移動している風だったが、今度は壁の中へ…特区の方へと進んでいる気がする。その証拠に、通路の錆が無くなっていき、ドアの造りもしっかりし始める。

おっ。いよいよか?

「入れ」

そう示されたのは、かなり大きく立派な扉。入ってみると、先程の部屋より何倍も大きかった。壁際に銃を持った局員が2人。中央は大きなアクリル板で仕切られ、向こう側にも同じくらい大きな部屋が続いている。

そして、その向こう側の部屋に誰かが入って来た。その人は…。