軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話~後で面貸せ~

「おはようございまーす」

WEB会議から数日後の朝。いつも通り出社すると、みんなから「おう、勇者」とか「もう出所したのか」といった 揶揄(からか) う声があっちこっちから飛んで来た。

会議をする為だけに、特高が乗り込んで来ちゃったからね。いつの間にか俺が〈特区に喧嘩を売ったヤベー奴〉だという噂が広まってしまった。

とは言っても、それをマイナスに捉えている奴はごく少数派。殆どの奴は、面白おかしく騒いでいるだけだ。

「おーい、黒川君。お前の部屋、使って良いか?」

岩本係長まで、俺を揶揄ってくる。

彼が言っている〈俺の部屋〉と言うのは、新しく導入された防音のユニットルームだ。警察から「特区とWEB会議を行うなら、防音対策をしっかりしなさい」とお達しが来たみたいで、その日の内に支社長が購入していた。

中はたたみ2畳くらいの広さがあるから、結構なお値段だと思うが…太っ腹な事だ。

そんな風に笑い話で済んでいた俺の日常だったが、その日に転機が訪れた。

毎朝の恒例、社長からの表彰だ。

『昨日の功労者は、黒川慶吾です。大変素晴らしいソリューションでした。皆も彼を見習い、存分に励むように』

表彰が終わった後、暫く誰も声を上げなかった。

普段なら、そこらで胴上げが始まると言うのに、今日は誰も祝おうとしない。静かにトイレへと向かうだけだ。

当然か。表彰された俺が一番、腑に落ちていないんだから。

きっと社長は、あのWEB会議を功績として挙げているんだと思うけど…そんな大したことはしてないぞ?精々、工場で使う薬剤の使用量を削減した程度だ。

そう思っていたんだが…。

「いやぁ。凄いですね、先輩」

松本君がお菓子を持ってやってきた。

そのお菓子は何だい?

「お祝いですよ。こんなに社長から褒められた人、初めて見ました」

「いつもと変わらなくない?」

「またまた、惚けちゃって。いつもは、ほら『頑張りましたね』の一言だけじゃないですか」

ええっと…そうだったっけ?

あまり覚えていないが、松本君達は興奮気味だ。興奮し過ぎて、祝いの言葉も発する事なくトイレへ駆けこむ人が多数。

ああ、だから、いつもより行列が長いのか。

あら?そう言えば…。

「まっちゃんは、トイレ大丈夫なのか?」

「ええ。僕はもっと凄いのを聞いてますからね」

それって、この前のオトハ様の慰問会のこと?

もしかして、松本君にも耐性が付いたのか?

分からないが、俺はちょっと嬉しかった。このまま松本君を鍛えれば、俺の仲間になってくれるのでは?と思ったから。

でも、トイレで岩本係長の卑猥な声を聞いてしまい、人に寄るのかもと考え直した。

係長も一緒の慰問会に参加した筈だからね。

そんな事を考えていたら、トイレのドアが開いた。

「おっ、黒川。丁度良いところに」

俺は良くありません。係長。

あと、手を洗ってください。

「社長があんな褒めるなんて、何したんだ?お前」

「それは…」

言えないよなぁ。特区と連絡を取っているなんて。支社長、防音室まで買ってるし…。

俺が言い淀んでいると、係長は「ほぉ、そうか」と怪しい笑みを浮かべる。

「言えないってんなら、俺にも考えがある。後で面貸せ」

えっ!?まさか、暴力に訴える気か?パワハラで訴えられても知らないぞ?

…この世界、何処までハラスメントを取り締まっているか知らないけれど…。

「おい、行くぞ。黒川」

何をされるのかと不安に思って一日を過ごした俺は、定時の鐘が鳴ると同時に、係長から声を掛けられる。彼は多くの仲間を連れて、俺を取り囲んだ。

そのまま、俺は何処かに連れていかれる。

そうして着いた先は…。

「「「かんぱーい!」」」

居酒屋だった。

「おい、黒川。ガンガン飲めよ?今日はお前が、初めて表彰された祝いの席だ」

「飯も食えよ。ここの肉料理は絶品揃いだからな」

「ありがとうございます!」

俺は係長達に踊らされるままに、ジョッキの中を空にする。完全に体育会系のノリで、ジョッキを傾け始めると同時に「イッキ!イッキ!」と懐かしい手拍子まで添えられてしまった。

元の世界でこれやったら、翌日に懲戒の紙が貼り出されるレベルだ。きっとこちらの世界、ハラスメントって概念が薄いんだろう。女性に対するマナーは鬼ほど厳しいのに…そこは性別の壁を感じる。

「おう、飲んでるか?黒川」

久々のビールに腹を摩っていると、日本酒の一升瓶を片手に岩本係長がやって来た。今空けたジョッキにその日本酒をドボドボ注ぎ、「まあ飲めよ」と進めて来る。

駆けつけ1杯みたいなノリで言うけど…大ジョッキだぞ?かなりの量だ。

日本酒って翌日に残るから、あんまり飲みたくないんだがなぁ…。

そうは思うが、先輩から継がれた酒を拒否するのはもっと不味い。さっきから飲み方が、令和のソレじゃないからな。

「なぁ、どうだよ黒川。ちょっとは秘密を喋る気になったんじゃないか?」

「酒で口を軽くしようって魂胆ですか?係長」

単純な作戦だなと思ったが、係長は「ちょっとくらい良いだろ?」と明け透けに言う。

まぁ、ちょっとなら…。

「実は、支社長から案件を任されてまして。そっちの功績で表彰されたみたいなんですよ」

「案件?千葉と広島の大規模の事か?ありゃもう、整備部が主体だろ?」

「ああ、大規模工事じゃなくてですね。支社長から、お得意様の相談に乗る様に言われていまして。その方がそっちで成功したみたいで、それで俺も評価されたんだと思います」

「それって…アレか?特区案件か?」

岩本係長の目がキラリと光る。

うぉっ、ヤバイ。まさか今の会話だけで、鈴木さんとやり取りしているのがバレたのか?

俺はヒヤリとしたが、係長は苦い顔をした。

うん?

「うえっ、マジか。大変だな、お前」

「えっ?」

「特区案件ってことは、そのお得意様ってのは管理局だろ?あれって、監視装置とかゲートの修繕とか、けっこう美味しい工事が転がってるけどよ、相手が局だからすげぇやり難いんだよな。もしかしてこの前、局員が来社したのもそれか?」

どうやら係長は、俺が局員とやり取りをしていると勘違いしたみたいだ。

訂正しようか迷ったが、そうすると今度こそ、鈴木さんに辿り着きそうだったので止めた。

俺は小さく頷く。

「なので、俺の実力って訳じゃなく、偶然おこぼれを貰った感じなんですよ」

「でもお前、特区案件を任されるくらいに上から目を掛けられたって事だろ?どうやったんだよ。もしかして、支社長の弱みでも掴んだのか?」

弱みって。俺が知ってるのは精々、観葉植物を大事にしていることくらいだ。

「違いますよ。ただ、慰問会を我慢して仕事をしていたら、支社長に話しかけられたんです」

「あー。局員って、女性に耐性が無いと成れないもんな。お前かなりタフだし、ちょっとは局員とも話が合うのか?」

「合いませんよ。俺も苦手ですから、あいつら」

「だよなぁ!はっはっは。大変だな、お前も」

岩本係長は俺の背中をバンバン叩いて、一升瓶を一気に煽る。そうして瓶を開けると「よーしっ!」と声を上げて立ち上がる。

「胴上げだ、胴上げ!黒川を胴上げすっぞ!」

「「おおっ!」」

「ええっ?」

なんでそうなる?

「あったり前だ!朝礼でしてやれなかったんだからな。ほら、みんな集まれ!」

「いや、係長。店に迷惑ですって」

「ばっか、お前。俺達が店に迷惑かける様な胴上げする訳ないだろ?毎朝やってんだからよ!」

そこを自慢されてもなぁ…。

心の中で突っ込みながら、俺は天井スレスレまで放り投げられる。

まぁ、でも、こうして祝って貰えたのは嬉しい。みんなの役に立てたんだって、実感できるから。

〈◆〉

「鈴木美夜子さんですね?よく、工場の異常を見つけてくれました」

WEB会議から数日。

突然、社長室に来るようにとお達しがあったので、私は慌てて向かった。

何か不味い事が起きたのかと心配だったけれど、部屋で待っていた彼女は笑顔を浮かべ、私に労いの言葉を掛けてくれた。

でも私は、首を振ってそれを拒否した。

「違います、進藤社長。あれは私の功績ではありません。黒川さんです」

「いいえ。貴女のお陰です。貴女が彼と工場の橋渡しをしてくれたから、今回は大事にならずに済んだのです。あのまま冷却空気の詰まりを見過ごしていたら、大きな事故に繋がったかもしれません」

それは工場長さんからも言われた。デトネーションが起きていたら、何億もの修繕費が吹っ飛ぶところだったと。

あの時は明るい口調で言われていたから、私を揶揄ったのかと思ったけど…本当に危なかったんだ。

「これは、貴女と彼が防いでくれたトラブルです。勿論、彼の方にも感謝を伝えていますよ」

「あっ、そうなんですね」

安心した。今回の事も、彼の知識と慧眼が助けてくれた事だから。

本当に凄いわ、黒川さん。知識も豊富だったし、見ただけで悪い所を見つけてくれた。

だから驚いた。彼があんなに若い事に。物知りで口調も落ち着いていたから、私は勝手に社長くらいの人なのかと思っていた。でもパソコンに映った彼は、とても若く見えた。

男の人の年齢は分かり辛いけど…先輩と同じくらいかな?少なくとも、部長や課長より若いと思う。

それに、とても凛々しくて格好良かった。痩せていて清潔で、教科書に載っていた男性とは似ても似つかないレベル。

王子様で売り出しているスバルさんみたいな感じ…。ううん。彼女達とは何か違う。もっとこう大きいと言うか、女性には無い安心感みたいなものがあって…。

「鈴木さん?」

「はっ、はい!」

しまった。

何考えてるんだろ、私。社長の前だって言うのに。

「貴女には是非、新しい役職で働いて欲しいのです」

「役職、ですか?」

「はい」

仕事が変わるのかと、私の胸で不安が膨らむ。

だけど、

「ソリューションサービス室。そこの室長として、黒川と共に問題を解決してください」

その言葉で、不安は期待へと変わった。