軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第98話 独りごとを言いながら文字を書いていただけなのに 7歳 春

村長達の話し合いの結論が出るまで数日間は必要そう。

その間に、僕の方では準備を進めておこうかな。

この場合は、実際に大民会へ殴り込みに行くことになった場合の準備だね。

行かない場合は無駄になるけど、考えるだけならタダだから、それは気にしない。

「えーと、1隻より2隻で行ったほうがいいよねー。それで1隻にはクナトルレイクの選手団を載せて、もう1隻には護衛の戦士団も載せて―。食料品と交易品も載せておきたいよね―。盾も多めに載せておこうかな―」

頭の中で、大民会に父ちゃんが遠征試合に行ったら起こりそうな出来事一覧を映像として流しつつ、必要になりそうな準備物一覧表を社交場のあたりの浜でメモをしていたら、侍女の人に捕まった。

「またトールが怪しげなことをしている」

と社交場を利用しているご婦人方から村長婦人へ通報があったらしい。

「ぜんぜん怪しくないですよ!ちょっと夏の大民会について考えていただけですから!」

「貴い身分の方々が集まる大民会について、小さな子供が考えて準備をしているのは十分に怪しいです。普通の7歳の子供は、農地の手伝いをどうやってサボるか知恵を絞っているものです」

「うっ…」

そう言われると、だいぶ怪しいかも。

就学期の児童が、広域地方自治体選挙の戦略と票読みを計算しているようなものだからね。未来であっても新聞沙汰になるのは間違いない。

「魔術の呪文が地面に書いてあって浜に近寄れない、と苦情もあったのです」

「魔術?僕が?」

僕はメモをしていた浜の足元を見た。

結構な面積にルーン文字が結構な面積いっぱいに書いてある。

文字が読めなかったら、だいぶ怪しいね、これは。

でも言い訳をさせて欲しい。ルーン文字で書くと単語は文字数が長くなりがちだし、地面に書くときは字が大きくないと読みにくいじゃない?

だからつい、大きい字で長い単語で長いリストを書いていたら、ついついメモの面積も大きくなっただけで、悪気はないんだ。

「呪文も唱えていたとか」

「考え事をまとめていたのです!」

ちょっと独り言をつぶやきながら、大民会についてルーン文字のメモを地面に書いていただけなのに…。

「いいから、来なさい」

「はい」

僕は逃げ出さないよう侍女に手を繋がれて、長屋敷の方へ連行されるのだった。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯

「これ、メモに使ってもいいですか」

「…好きになさい」

村長婦人から儀式のように、ひとしきりお小言をもらうのも慣れたもの。

その後で、私室区画の大きな黒板を使わせてもらうことにした。

お茶とお菓子美味しい。

どうせ考えたことを後で共有しないといけないからね。

説明するのも面倒くさいし、準備段階から見てもらったほうが早いし。

「どうせやらかすのなら、目の届くところに居た方が安心ですね」

だって。やらかす前提とは失礼な。

村長婦人が部屋で書類仕事を始めたので、僕も独り言を再開した。

「まずは…父ちゃんが精鋭のクナトルレイクのチームを連れて行くでしょ?見た目を良くしたいから盾と服には顔料や飾り多めに、試合も多いから盾の予備は多めに持って、試合前に薬草蜂蜜酒を一杯飲んでもらって、試合後には怪我用の角杯の薬も使ってもらって、夜間は襲撃があるかもしれないから、選手団と戦士団を入替えて、戦士団には宿営地の真ん中で盾を外側に向けて篝火と円陣をくんでもらうことにして…」

「ちょっと待ちなさい。襲撃?」

僕が浜でやっていたように、クナトルレイク遠征試合で起きそうな出来事を頭から流しつつ口に出して黒板にメモをしていたら、村長婦人から突っ込みが入った。

「襲撃とはなんのことですか?」

襲撃というのは、敵が襲ってくることです。野蛮人が得意なやつですね。

「クナトルレイクの試合で負けて逆恨みした連中の襲撃です。あり得るでしょう?」

「正々堂々と神前で試合をしたのに?負けたら襲撃してくると?」

村長婦人は、お育ちが良いので男の面子とか嫉妬というものを甘く見ていらっしゃる。

「人は理屈じゃ動きませんから。ですから、選手団と戦士団を連れて行くんです。

昼間は選手団の担当。クナトルレイクの試合で相手を打ち負かします。

夜は戦士団の担当。逆恨みして夜陰に乗じて襲撃してくる連中をぶち殺します。

長船を2隻の体制にしていますから、1隻は沖合か宿営地から離れた場所に隠れていて、昼と夜で宿営地に接舷する長船を入れ替えるんです」

大民会に殴り込むのだから、そこは戦場。

24時間戦えるようにシフトを組んで備えるのは当然の用心である。

「…トールが戦の駆け引きにも長けているとは知りませんでいsた。意外と策士なのですね」

「違いますよ。戦は知りません。ただ、父ちゃんが全力で気持ちよく試合ができるように考えただけです。それに、夜間の戦士団を村長が率いてくれれば、村長の面子も立つのではありませんか?実際に斧を振るって戦う機会もできるのですから」

父ちゃんに試合で活躍をさせつつ、父ちゃんに戦で怪我をさせない。

正々堂々と正面から試合で殴り倒しつつ、襲撃のリスクにも備える。

父ちゃんに広い地域で勝利の名声を得させつつ、村での村長の面目も潰さない。

相反する条件をどのように満たすのか?と考えた結果が、選手団と戦士団の2隻体制なのである。

戦の駆け引きとかは全然わからない。

「薬草蜂蜜酒とか、怪我の薬とはなんの話ですか?」

「それはまあ、試合をすると耳目が集まりますよね?」

「そうですね。最初はどうかわかりませんが、勝ち進めば勝ち進むほど注目が集まるでしょう」

「そうなると、父ちゃん達がなぜあんなに強いのか、他の戦士団は気になりますよね?できれば同じように強くなりたい、と思いますよね?」

「男衆とは、そういうものでしょうね」

「そこで、試合の前に飲んでいる薬草蜂蜜酒、試合後に怪我の部位に塗っている薬。どちらも欲しがるようになる、とは思いませんか?」

「…トールステイン!あなたは大民会の試合を交易の舞台に利用しようというの!?」

村長婦人の指摘する声が高くなった。

侍女や郎党の人が、じろりとこちらを睨んだ気がする。

「利用だなんて酷い…活用ですよ、活用。北方で最も強いという名声は、銀貨になります。なにせ本来なら漁や交易に当てられるはずの期間を、大民会なんて銀貨一枚にもならない出来事につき合うのですから、少しでも銀貨を回収しないといけません。そうしなければ、名前だけが高まっても村が貧しくなってしまいます」

僕は、家族を守り、人を死なせず、村を豊かにするために頑張ってるわけだからね。

強いという評判は村を戦や略奪から守るためには大事。

だけど村をスパルタの如き、厳しいだけで貧しい村にはしないよ。

せっかく特産品も商品も作っているのだから、機会を捉えて上手く宣伝していかないとね。

「なので、長船には食料品と一緒に交易品も積んでいきましょう。大民会目当てに交易に来ている商人を見つけられたら、新しく直接交易できるルートが見つけられるかもしれませんよ?」

もっと上手くすれば、交易商人が商品を求めて村へ直接来てくれるようなるかもしれない。

そうすれば、父ちゃん達が危険を冒して交易で大洋を横断しなくても済むようになるんだ。

ああ、僕が大人だったら、父ちゃんに同道して、商人を見つけて、商品を売り込んで、村へ仕入れに来るように誘導出来たかも知れないのになあ。

僕は相変わらず小さままの、少し貝殻棒の粉で白くなった手を見つめる。